IMAX CorporationとDTSは、IMAX Enhancedのさらなる普及を目指して、家庭でIMAXクォリティの映像と音声が楽しめる新たなサービスを今年年末にスタートすると発表した。

 IMAX Enhancedは両社が提唱している映像・音声の認証プログラムで、海外では対応ブルーレイも発売されているし、国内でも一部のAVセンターなどで対応モードが搭載されている。

説明会では、IMAX Enhancedのデモディスクを使った体験会も行なわれた

 今回スタートするサービスは、そのIMAX Enhancedが認証したコンテンツをTSUTAYA
が運営する動画サービス「TSUTAYA TV」で配信するというものだ。具体的なタイトルとしてはソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの以下の作品が予定されている。

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』『メン・イン・ブラック:インターナショナル』『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』『スパイダーマン:スパーダーバース』『スパイダーマン:ホームカミング』

 同時にそれを再生するディスプレイとして、ソニーの4Kブラビアから、有機ELのA9G/A9Fシリーズと液晶テレビのZ9F/X9500GシリーズがIMAX Enhancedの認証を取得したことも発表された。

 まずソニーのブラビアシリーズについて紹介すると、IMAX Enhancedの認証は「カスタム」モードでの対応になる。そもそも、ディスプレイでIMAX Enhancedの認証を得るには、900項目を超える条件をクリアーしなくてはならないそうだ。

 その上で、ゴールデン・アイと呼ばれるメンバーによる官能評価を経て認証されるわけで、「ゴールデン・アイのチェックが一番厳しかったです」と、ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社TV事業本部 技術戦略室 主幹技師 小倉敏之氏が説明してくれた。

 ブラビアの「カスタム」モードは、もともとマスターモニターの画質をターゲットにしていたというだけあり、スペック面での条件は問題なく合格。さらにゴールデン・アイのチェックもクリアーできたそうだ。既発売のブラビアA9G/A9F/Z9G/X9500Xシリーズについては、後日ファームウェアのアップデートが予定されている(時期は未定)。

IMAXの劇場システムは、全世界80の国や地域で採用されている

 なおIMAX Enhancedでは大画面での鑑賞を想定しているようで、家庭用テレビでの視聴も、基本的には65インチ以上のサイズを推奨している模様だ。ブラビアも65インチ以上で見た方がより劇場に近い体験ができるのかもしれない。

 一方、再生コンテンツについては、TSUTAYA TVがIMAX Enhancedの認証マスターを入手し(今回はソニー・ピクチャーズから提供してもらった)、それを自社で圧縮するという。サービスインは年内を目標にしており、都度課金からスタート。価格は1作品¥770(税込)の予定だ。

 IMAX Enhancedの素材は4K/HDR(PQカーブ)/色域BT.2020なので、映像圧縮にはHEVCコーデックを使う。TSUTAYA Digital Entertainment株式会社 執行役員の山内智裕氏に質問したところでは、転送レートは最大20Mbps前後(通常の4K配信の2倍近い)を想定しているそうだ。

 先述したようにIMAX Enhancedは大画面での視聴を前提としているため、グレインノイズの扱いも厳しい。それもあり、20MbpsとはいえHEVCのパラメーターをどう追い込んでいくかにも苦労しているのだろう。

 なおIMAXといえば上下方向にも広い画角(アスペクト比1.90:1)が特徴だが、家庭用テレビ(16:9=1.78:1)に向けた配信では、上下をカットする予定という。ここについてはコンテンツホルダーの希望次第というから、左右に黒帯を加えて放送する場合もあるかもしれない。

IMAXではアスペクト比1.9:1の作品が多い。今回の配信では上下をカットして1.78:1にする予定とか

 音声は、圧縮フォーマットにDTS:Xを採用。これは既にパッケージソフト等で使われているが、配信用としては初めてのため、圧縮ソフトウェアの開発から始めているとのことだ。

 というのも、IMAXの劇場音声は最大12chのチャンネルベースで、IMAX Enhancedの配信では12chのままDTS:Xに圧縮する予定という(ロッシー圧縮になる模様)。その圧縮作業が難しいようで、年内のサービス開始時には音声はDTS5.1chフォーマットになるかもしれないそうだ。

 将来12chのDTS:X圧縮が可能になった時点でその音声信号に差し替えられる予定で、その場合は12chにデコードした信号を、AVセンター側でユーザーのスピーカーコンフィグレーションに合わせてリマッピングし、再生することになる。

 もうひとつ、ソニー・ピクチャーズ以外の作品についても今後配信予定があるのかを山内氏に聞いてみたところ、「現状では決まっていませんが、スタジオを制限することはありません」という回答だった。映画ファンとしては、IMAXで劇場公開された作品はすべてIMAX Enhancedの配信で楽しめるようになって欲しいと強く希望したい。

左から、XPERI Corporationのギア・スカーデン氏とジョン・マクダニエル氏。中央がIMAX Corporation のブルース・マーコウ氏で、その右がTSUTAYA Digital Entertainment株式会社の山内智裕氏、ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社の小倉敏之氏

 さて本日午後、今回のサービスに関連したキーメンバーが集結し、IMAX Enhancedについて説明するとともに、デモコンテンツを体験できる会が開催された。

 XPERI Corporation チーフプレジデント兼サービス・オフィサー ギア・スカーデン氏が司会を務め、先述したTSUTAYA Digital Entertainment株式会社の山内氏とソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社の小倉氏に加え、IMAX Corporation シニア・バイスプレジデントのブルース・マーコウ氏、XPERI Corporation エコシステム・ビジネス・デベロップメント ジョン・マクダニエル氏の5名でディスカッションが行なわれた。

 まずギア氏がIMAX Enhancedが多くの実績を持っていることを紹介し、その成果を家庭に届けられることが嬉しいと話した。続いて山内氏はTSUTAYA TVとして今後テレビサービスに注力していくことを語り、IMAX Enhancedのコンテンツを日本で初めて配信できることが楽しみだと語った。

 ブルース・マーコウ氏は、IMAXが世界で80の国や地域で使われており、1500以上のスクリーンが稼働していることを紹介し、日本でも『天気の子』『ボヘミアン・ラプソディ』が高い興業収入を上げていると語った。さらに、それらの作品を家庭にデリバリーしていくに際し、IMAXが認定する機材で最高の画質・音質を保証すると話してくれた。

 ジョン・マクダニエル氏は、IMAXでは熱量の高い音、どきどき感のある音を劇場で実現しており、それを家庭で再現するためにコーデックとしてDTS:Xを採用したと説明した。対応AVセンターは100以上の条件をクリアーしなくてはならないそうで、劇場と同じ環境になるようベースマネジメントなども自動的に行なってくれるとのことだ。

 最後にソニーの小倉氏は、IMAXの大画面体験は今まで劇場だけで可能だったが、デジタル技術の進化で家庭にも届けられるようになった、それに対しテレビは制作者の意図を正確に再現し、かつよりよく変換することが大切だと考えていると話した。そのために独自の映像プロセッサー「X1 Ultimate」を活用し、有機ELや液晶といったデバイスに関わらず、IMAX Enhancedの求める映像を実現していくと説明していた。

IMAX Enhancedの再生に対応したAVセンターも多く展示されていた。左はパイオニアSC-LX904(参考出品)で、右は既発売のマランツSR8012