エアータイトは海外でも高評価されている日本のブランドである。そのエアータイトが満を持して発売するフォノイコライザーアンプ、リファレンスフォノステージATE3011が完成して本誌試聴室に持ち込まれた。

エアータイト ATE3011 ¥1,480,000(税別)
●入力端子:3系統(RCAアンバランス)●出力端子:3系統(RCAアンバランス、ステレオ×2、モノーラル×1) ●入力インピーダンス:47kΩ●出力インピーダンス:47kΩ以上(推奨負荷合計)
●利得:40dB●使用真空管:12AX7×3●寸法/重量:W400×H151×D375mm/約11.5kg●備考:低域ターンオーバー、高域ロールオフそれぞれ5種のカーブを選択可(RIAA、NAB、AES、FFRR、FLAT)

 視認性の高い表示部に特徴のある本機は、ロールオフ(高域)とターンオーバー(低域)を独立設定できることが特徴で、NF/CR型による精確なイコライジングを追求している。一般的なRIAAカーブの他に、NAB、AES、FFRR、FLATが設定可能で、たとえばCR型のロールオフがNABでNF型のターンオーバーをFFRRにすると米COLUMBIAカーブになるし、ロールオフをFFRRにしてターンオーバーをRIAAにすると独TELDECのカーブになるのだ。

 3系統あるATE3011のフォノ入力は、昇圧トランスフォーマーの使用を前提にMM型フォノカートリッジ対応(47kΩ負荷)である。ユニークなのは入力端子~入力セレクター出力の配線をシールド線ではなく、本機のために製作された非磁性ステンレススチール製のシールドパイプを経由させていること。これは音質の観点からだそうで、クロストークの抑制と各チャンネルの振動条件を統一する目的がある。

フロントビュー。左は入力切替えで、本機は3系統のMM入力を備える。中央に配置された表示部の左右のノブはイコライザーカーブの切替えで、左側はターンオーバー(低域補正)、右はロールオフ(高域補正)。それぞれに代表的なイコライザーカーブであるRIAA、NAB、AES、FFRR、FLATから選択する。

リアビュー。右にフォノ入力(MM)3系統を配置、それぞれに独立したアース端子をもつ。中央は出力端子で、2系統のステレオ出力の他に1系統のモノーラル出力を備える。入出力端子はいずれもRCAアンバランス。

 使われている真空管は、厳選された双3極管の12AX7が3本。それぞれの2回路は左右チャンネルの信号増幅に使われている。電源部には同社初となるトロイダル型の電源トランスフォーマーを採用。ヒーター電源とB電源に独立した電源トランスフォーマーを与えることで、微弱な信号を扱う増幅回路に悪影響を及ぼさないよう配慮している。それらは純銅製サブシャーシに強固に固定されているという。巨大なデカップリング用の大容量フィルムコンデンサーや純銅板の採用など、ATE3011はリファレンス機にふさわしい製品内容に仕上がっている。

内部。伝統ともいえるモノコックシャーシを採用、増幅アンプ部はインナーシャーシに収め本体シャーシに吊り下げる構造。左右チャンネルの回路は1.6mm厚の銅板で絶縁される。さらに、重要な信号線には音質を考慮してステンレス製チューブを用いたシールドを採用する。

1954年にアメリカ録音産業協会(RIAA)が仕様を制定するまではレコード会社が独自のイコライザーカーブを設定していた。ターンオーバーをFFRR、ロールオフを NABとすることで COLUMBIAカーブとなり、 同様にRIAAとFFRRの組合せで TELDEC(旧西ドイツ)のカーブを設定できる。

 本誌試聴室でのリスニングには、フォノカートリッジにフェーズメーション製PP2000を使用。同社T500昇圧トランスフォーマーを経由してATE3011に信号伝送を行なった。アナログプレーヤーはテク二クスSL1000R、プリアンプはエアータイトATC5、パワーアンプも同社ATM3である。スピーカーはB&Wの800D3。


試聴に使用したカートリッジ
フェーズメーション PP2000 ¥440,000(税別)


試聴に使用したカートリッジ
オーディオテクニカ VM760SLC ¥80,000(税別)

曲調の情感表現の巧みさが印象的で 音数も多く、申し分ない音場空間の広がり

 井筒香奈江の45回転盤は、艶やかで肉感的な声質にハッとさせられた。弾みのあるベースの低音域も厚みがあり、密度感の高い魅力的な音質である。大いに感心したのはアンセルメ指揮「三角帽子」で、曲調の悲哀さを際立たせる情感表現の巧みさが印象的。音数も多く音場空間の広がりも申し分ない。ソニー・ロリンズ「俺は老カウボーイ」では、肌理の細かい、上質なサキソフォンの音色が特筆できよう。総じてじっくりと聴きこみたくなる、含みのある複雑な音の語り口なのだ。
 
 フォノカートリッジをオーディオテクニカVM760SLCに換えて聴いた直結の音は、浸透力を備えた安定感が得られていた。


ターンオーバー/ロールオフノブの操作を確認する三浦氏。

問合せ先:エイ・アンド・エム(株) TEL:072(678)0064