「全日本美声女コンテスト」のグランプリを獲得し、美声女ユニット「elfin'」(エルフィン)のリーダーでもある辻 美優が、女優として映画に初出演&初主演を飾った「セカイイチオイシイ水~マロンパティの涙~」が、いよいよ9月21日(土)より公開される。

 これは、90年代初頭、日々の生活水にも困っていたフィリピンはパンダンに水道を敷くプロジェクトの模様を映像化した、実話を元にした物語。辻が演じるのは、そんなプロジェクトに参加して、自身の生き様を見つめ直す、いまどきの女子大生・明日香。ここでは、公開に先駆けて出演の感想を聞いた。

――映画初主演・初出演おめでとうございます。
 ありがとうございます。光栄な気持ちでいっぱいです。はじめに(出演の)お話をいただいた時には、あまりにも光栄すぎて(出演するということに)現実味がなかったんです。けど、台本をいただいて、明日香という人物像を作っていく中でやっと、自分が映画に出るんだという自覚が持てました。でも、この間試写を観させていただいた時にまた、実感がなくなってしまって! あんなにたくさん撮影したのに、なんだか未だに夢見心地な感覚でいます。

――今回は女優として映画に出演されましたが、歌手と違うと感じたところはありますか?
 そうですね、表現するという面は同じですが、アーティスト(歌手)としては、私=辻美優が歌に込めてメッセージを発信していますが、映像(女優)では、実在の人物を演じてはいるものの、与えられた役(明日香)を表現することになりますので、そのニュアンスの違いはすごく感じましたね。加えて、歌手(elfin')は、ある意味フィクションを表現していますけど、お芝居では、私がいただいた明日香というキャラが、生きて感じられるように、決してフィクションにならないようにということに気を付けて、より真実味のあるもの(芝居)をお届けするように頑張りました。

――具体的に。明日香をどのように表現したのでしょう?
 どこにでもいる普通の女子大生という設定で、それは自分に近い印象があったので、作り込むというよりは、自然体でお届けできたように思います。ただ、身近にいるという雰囲気をどう出したらいいんだろうと、悩むことはありました。

――ご自身に近いという明日香の役づくりはいかがでしたか?
 (映画は)初めてでしたから、まずは台本を読んで自分なりの(性格の)解釈をしつつ、原作でもある「マロンパティの精水 いのちの水の物語」も読んで、どんな物語なのかを詳しく知った上で、作り上げていきました。撮影前に何度か監督に演技を見ていただく機会を得ましたので、そこでいただいたアドバイスを元に詰めていきました。

――具体的には?
 ちょっと芝居がかっているねとか、声の出し方をもっと自然にとかでした。動き方や立ち回りの仕方も分からなかったので、お芝居と動きをどうリンクさせていくかなどをご指導いただきました。その後自分でも何度も考えてから現場に臨みましたので、自分なりの明日香像を作り上げる(表現できた)ことができたと感じています。

――初めてで、セリフと感情、動きを一致させるのは難しいのでは?
 本当にそうなんです! でも今回有り難かったのは、明日香と私の境遇が似ていたことですね。彼女はボランティアのことを何も知らずにフィリピンに行って、一人ぽつんと投げ出されますけど、私も初めての映画(しかも初めての主演)で、(撮影のことを)右も左もよく分からない中で現場に臨んだという部分が一緒でしたので、そこは自分が感じたものをお芝居に活かすようにしました。

――一人フィリピンに行って、なんとか集合場所にたどり着いたシーンで、その雰囲気はよく出ていました。
 その時は、スタッフさんも監督も道路のはるか向こう側にいて、私一人きりだったので(笑)、本当にどうしようどうしようという気持ちが強くて! でも、きっと明日香も同じ気持ちになっていたと思うので、そのドギマギしたところをリアルに出せたと思います。

――さて、少し話を戻しまして、物語は実話がベースになっています。
 初めての映画で、実話がベースのお話をさせていただけるとは思っていなかったので、果たして私にちゃんとこの事実をリアルに、観てくださる方々に伝えることができるのだろうかというプレッシャーは大きかったです。でも、実話を再現する映画に私を抜擢していただけたことは、とても光栄でした。

 ボランティアについては、原作を読んだり、ニュースを見たりして勉強はできますが、じゃあ実際にはどうだったんだろうというところは、なかなか想像することができませんでした。

――実際には、完成までに10年ほどの時間がかかっています。
 そうなんです。距離にしたら10キロほどなんですけど、それを人力で、ボランティアの人たちが、フィリピンの人たちが、少ない人数でひたすらに、ただただ水を送り届けたいという気持ちだけで進めていったのは、本当に凄いことだなと感じています。

――映画ではプロジェクトのキーマン岩田公彦を赤井英和さんが演じています。
 岩田さんは、人間として凄すぎますよね。ずっと、無理だ無理だと言われてきたことを、現地の人々を助けたい、その気持ちだけで、ぜったいに諦めずに、あんなに必死になって、そして、実際に成し遂げてしまったんですから。そんな岩田さんを赤井さんは見事に演じられていました。おそらく赤井さんご自身にも、岩田さんと同じように優しさとか思いやりの心を人一倍お持ちで、それがリンクしたのかなって、完成した映像を見て感じました。映画で描かれる岩田さんの過去も、圧巻です。

――回想シーンでは、そんな岩田さんをサポートする横井会長(森次晃嗣)の姿も描かれていて、みんな漢(オトコ)だなと思いました。
 横井会長が発するあのセリフは小説にも出てくるんですけど、そんなこと普通では言えませんよね。それだけ周りの人たちは親身になってくれていたし、岩田さんを通じて繋がっていたんだと思えて、本当に人の繋がりの大切さを感じました。

――そんな岩田に感化されたのか、明日香は何度も現地に向かいます。
 やはり、完成したところを見たかったんでしょうね。はじめは遊び気分だったと思うんですけど、現地の状況を見て、その切実さに心を動かされて、明日香の中でも早くこの場所に水道を作りたいという、気持ち・思いが本当に強くなったからだと思います。

――一度、友だちも連れて行ったほうがいいですね。
 本当ですよ!

――さて、映画オリジナルキャラクターとなるアミーはいかがでしたか?
 演じるミエル・エスピノーザちゃんはフィリピンで大人気の子役さんなので、天才的なお芝居を見せてくれました。ちょっとした表情の変化で感情の起伏を見せてくれて、彼女の表現のひとつひとつに感情移入してしまいました。もう、最後のシーンは本当に辛かったです。

――現場ではいかがでしたか?
 休憩時間もすっごくかわいくて! 私の姿を見つけると、(役名の)明日香って言いながら駆けつけてハグしてくれるんです。癒されました(笑)。

――そんなアミーと初めて言葉を交わす水を飲むシーンは印象的でした。
 実は撮影中は、心が痛くて……。あの水がどうやって運ばれてきたのかを知った状態での撮影でしたので、水の大切さを知っているのに、濁ってるし変な水、というお芝居をしないといけなかったのは本当に辛かったです。

――その後、自分の足で水を運ぼうとします。
 途中で倒れてしまって……まだまだですね。あんな炎天下の道をひたすら歩くっていう経験はしたことがなかったんでしょうね。まあ、(自分が)倒れてしまうのは仕方がないにしても、それをまだ幼いアミーがしたんだと知った時は、相当辛かったと思います。そんなことまでして用意してくれた水に対して、心ない反応をしてしまって……と。

――とはいえ、自分なりに行動を起こしました。
 明日香の中で何かが芽生えた、ターニングポイントと言える瞬間になりました。

――話は変わりますけど、明日香を送り出すお母さんも素敵な存在でした。
 (空港で)お母さんが背中を押してくれたから、明日香の人生が変わったんでしょうね。素晴らしい存在ですよ。きっと彼女もこういうお母さんになりたいと思っているでしょう。

――さて、本作ではエンディング曲も担当されています。
 役者としてだけでなく、歌手としても携わらせていただけて、本当にありがたいです。elfin'として「アンルート」という曲を歌わせていただきました。歌詞が映画の内容と本当にリンクしているので、映画を観終わったら、エンディングはその歌詞にも注目しながら聴いていただければ、より余韻に浸れるのではないかと思います。メンバー4人で私たちなりに歌い上げた曲になっていますので、たくさんの人に聴いてほしいです。個人的には、辻美優ではなく、明日香として歌ってしまったなと感じています(笑)。

――では最後に、今後の目標をお願いします。
 今回、女優として、映画に初出演、初主演を経験させていただいたので、これで終わりとならないように、さらに勉強を重ねて、観てくださる方々に何かを伝えられるような、心に残って人生の道標になるような芝居をお見せできるような女優になりたいです。これからも頑張っていきたいです。

映画「セカイイチオイシイ水~マロンパティの涙~」
9月21日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
<キャスト>
辻 美優(elfin') 赤井英和
前川泰之 新井裕介 花房里枝 岡千絵 橋本マナミ 蝶野正洋 角田信朗 篠原信一 森次晃嗣 BONG CABRERA SUE PRADO MIEL ESPINOZA ERMIE CONCEPCION

<スタッフ>
原作:「マロンパティの精水 いのちの水の物語」小嶋 忠良(PHP研究所)
原案:湯川剛
監督・脚本:目黒啓太 音楽:勝瑞順一/前田哲彦 撮影:谷峰登 プロデューサー:山本祥生
主題歌:elfin’「アンルート」(EXIT TUNES)
製作:セカイイチオイシイ水製作委員会
協力:公益社団法人アジア協会アジア友の会 フィリピンアジア友の会 株式会社OSGコーポレーション 株式会社ウォーターネット イオングループ労働組合連合会
企画・制作:株式会社パラサング
配給:太秦
(C)セカイイチオイシイ水製作委員会