サエクコマースから登場したトーンアーム、WE4700。試作機はまず海外で発表され、オーディオファイルの間で話題となっていたものだ。いまも傑作と呼ばれるWE407/23(1980)が原型である。

 SAECは、サウンド・オブ・オーディオ・エンジニアリング・コーポレーションの略。デビュー作のWE308トーンアームは1971年頃に登場した。最初期の資料では製造がオーディオエンジニアリング㈱、発売元がカナザワトレイディング㈱となっている。商業を意味するコマースを社名にしたサエクコマースは1974年の設立だ。

 型番のWEはダブル・エッジを意味する。初動感度の高いナイフエッジ支持には受け金からの浮き上がりという問題があると考えた技術陣は、上下にナイフエッジを与えた画期的なダブルナイフエッジ支持を考案。WE308を始祖とする歴代のトーンアームは、すべてダブルナイフエッジで機械的な剛性も徹底追求していた。スタティックバランスと糸吊りのアンチスケーティング機構にこだわっていたことも、特徴として述べておきたい。

 WE4700を企画したのは、創業者である父親から会社を継承した北澤慶太社長。かつてトーンアーム部品の製造に関わったことがあるという金属精密加工の内野精工㈱との出会いが、具現化の夢を確信へと導いたという。本機は単なるWE407/23の復刻ではない。現代の精巧な加工技術と知見を結集して、オリジナルを凌駕する高性能トーンアームへと挑戦した製品なのである。

Tonearm
サエク
WE4700
1,190,000円(税別)

●型式:スタティックバランス型●スピンドル・ピボット間:221mm●全長:311mm(最大)●オーバーハング:12mm●針圧調整範囲:3g●適合カートリッジ重量:13~35g(ヘッドシェル含む)●高さ調整範囲:25mm●備考:ジュラルミン製ヘッドシェル付属、アーム出力ケーブルは別売
●問合せ先:サエクコマース株式会社 TEL.03(3588)8481

 WE4700は本誌試聴室で聴いている。テクニクスSL1000Rに純正アームベースを加えての試聴であるが、そのアルミ製アームベースは厚みが1cmほど削られていた。新開発された根元のコレットチャック機構とリフターの高さ関係による対策らしい。フォノカートリッジはフェーズメーションPP-2000、フォノイコライザーも同社製EA1000を用いて試聴に臨んでいる。

 ステレオサウンドのリファレンスレコードで聴く「ピフ、パフ」では、視覚的な音の提示で、私はごく自然に音楽へと引き込まれてしまった。45回転盤の井筒香奈江「サクセス」は、彼女の声質の生々しさと、一発収録ならではの緊張感が漂う迫真の演奏に聴き入った。音像の輪郭も明瞭で、わずかに硬く締まった音の感触だ。マイルス・デイヴィスの「デコイ」では、多彩な楽器による洪水のような音を高い分解能で聴かせる。PCトリプルCの配線材も鮮度の高い音に貢献しているのだろう。

 サエクのトーンアームにたいして、私はラテラルバランスに特に敏感という使用経験をもっている。ダブルナイフエッジ支持では4箇所の接地線があり、垂直回転軸の向きがオフセットしている関係で、フォノカートリッジの上下動が弧を描くことにも起因していると思うのだが、WE4700は期待を裏切ることのない実に魅惑的な音を提示してくれた。

SL1000Rに取り付けたサエクWE4700を操作する三浦氏。

本機はスタティックバランス型で、調整機構はインサイドフォースキャンセラーとラテラルバランサー。メインウェイトは22〜35g対応の標準ウェイトと13〜22g対応のライトウェイトの2種を標準装備する。

軸受けのダブルナイフエッジ構造が特徴。それを意味するマークも刻まれる。アームベースには新たにコレットチャック方式を採用し、アームの高さ調整が容易に行なえる。調整範囲は25mm。

テクニクスSL1000Rに追加トーンアームベースを装着してWE4700を搭載した状態。SL1000Rでは写真の位置にショートアーム用、本体左にロングアーム用のアームベースを追加可能。

この記事が読める「管球王国」Vol.92のご購入ははコチラ!