シャープは5日のプレス・カンファレンスで、「8K・エコシステム」の完成を高らかに宣言した。しかも120型という1枚パネルのディスプレイとしては世界最大の8Kディスプレイを展示。大いに話題を呼んだ。それらの狙いをシャープ・グローバルTVシステム事業本部長 兼 欧州代表 喜多村和洋氏に聞いた。

8Kのエコシステムが揃った

麻倉 わが家は8Kの80インチ「8T-C80AX1」を導入させていただき、1.8Hで近接視聴を楽しんでいます。シャープさんは欧州でも8Kテレビを発売されていますが、反響はいかがですか?

喜多村 欧州は日本と同じで、画質に対する要望が強いですね。わたしどもはお客さんを調査して、現地の皆さんが好まれる映像や色味に仕上げてから導入しています。

麻倉 欧州には欧州のユーザーの好みがあるのですね。

喜多村 絵づくりは日本とも違いますね。最終的には欧州で画質評価を担当しているスタッフに見せながら画質調整をしています。

麻倉 具体的にはどんな違いがあるのでしょうか?

喜多村 どちらかというと、欧州では濃い色を望まない方が多いですね。最終的には少し薄めの色にしています。明るさについては、日本の量販店のような展示はありませんので、それほど極端な要望はありません。

麻倉 日本は店頭が明るいから「ダイナミックモード」で頑張らなくてはなりませんが、欧州はそうでもない。そもそもリビングの照明も日本ほど明るくないですしね。

喜多村 その意味では、実は有機EL向きかもしれません。その中でわれわれは液晶で頑張っています。

麻倉 さて、シャープさんは欧州で8Kテレビを発売していますが、8Kの放送はありません。となるとアップコンで見ることになります。

喜多村 4Kや2Kの素材をアップコンでいかに綺麗に見せるかが重要です。弊社もバックエンドのLSIを自社開発して、シャープとしての特徴を盛り込んでいます。斜め線を細線化するとか、ぎらぎらな絵にならないようなエンハンスの処理などです。水平方向と垂直直方向、二次元のフィルターの設計については神経を使いました。

喜多村和洋・グローバルTVシステム事業本部長にインタビュー

麻倉 今回の展示の目玉が120インチの8Kモデルです。

喜多村 堺で作っているシャープ製パネルで、世の中にまだ一種類しかない8K/120インチ仕様になります。8Kの絵づくりとしては、われわれも有機ELを意識しなくてはなりません。できるだけ細分化した分割駆動と、明るさという点での優位性をいかに出すかが大切です。全白のピーク再現や、明るさの表現は有機ELは厳しいですね。そこで液晶の強みをどう活かすかを考えています。

麻倉 120インチとなるとかなりの大きさですが、家庭用として発売する予定もあるのでしょうか?

喜多村 家庭用へのご要望があればもちろん検討しますが、基本的には業務用が中心です。来年の春には全世界で発売したいと考えています。

麻倉 これまでは60/70/80インチでしたが、いきなりサイズアップするような気もします。

喜多村 しかし、有機ELでも88インチモデルは発売されていますので、世界中では需要があると考えています。2022年には北京でのスポーツイベントがありますので、それに向けて中国が8Kに突き進んでいくと聞いています。

 他にも、弊社は32インチの8Kディスプレイも開発しています。近接視聴しても画素が見えない方がいいといった使い方には32インチを、120インチはパブリックビューイングを含めて、誰が見ても感動できる大画面、視野角をコンセプトとして非日常のディスプレイとして使っていきたいと思っています。

麻倉 120インチと32インチとはずいぶん違いがありますね。32インチはやはりモニター用途になるのでしょうか。

喜多村 映像を確認するためのモニターは、どちらかというと明るさよりも視野角、画像の安定性が求められますので、32インチパネルはIPSに近いプロセスで構成しています。パネルにはそれぞれのよさがありますので、用途に応じて使い分けて行くことになるでしょう。

マイクロ・フォーサースフォーマットの8Kビデオカメラ。プロシューマーへの贈りもの

麻倉 さて今回は8Kエコシステムが完成できたという点も話題です。まず撮影は小型カメラですね。CESではモックアップ展示でしたが、今回は動作モデルが展示されていました。予価数十万円とのことで、まさに8Kを撮る人を増やそうという狙いですね。

喜多村 そうなんです。シャープとしてもその点をできるだけ早く提案して、プロシューマー、いわゆるプロとアマチュアの間にいるような皆さんに広げていきたいと思っています。これからは放送局も、もっとミクロになっていくと思います。そもそもYouTubeは一人で放送しているようなものですから。そんな人たちが増えていけば、プロシューマーカメラ市場が出現するのではないでしょうか。われわれは、そこに8Kビデオカメラを投入します。

麻倉 ユーチューバーも喜ぶでしょう。

喜多村 例えばYouTubeでも8Kで配信すれば、コンテンツの価値も上がるでしょう。被写体のディテイルがより伝わりますし、食べ物でも湯気やシズル感まででてきますから、感動できます。感動できるコンテンツは間違いなく視聴者に伝わります。

麻倉 以前の8Kカメラはいかにも業務用でしたが、今回はほぼ一眼レフサイズで、アマチュアライクですね。これまで8Kは夢のまた夢という印象でしたが、これなら気軽に扱えそうです。さて、撮影が簡単になると、次は編集です。

8K映像の編集はダイナブックで

喜多村 編集はダイナブックに任せます。

麻倉 ダイナブックとは驚きです。パズルが見事に埋まりましたね。昔のような大型編集機ではなくPCで編集できるということで、カメラとの親和性もあります。

喜多村 おっしゃる通りです。昨今は、きちんとしたエンジンを積んだPCであれば、8Kも編集できます。YouTubeであっても、人に感動してもらうためには編集作業は欠かせませんからね。ただ、現状でどれくらいの方が使いこなせるかはわかりませんが……。

麻倉 こういった機器は、“モノ”があればクリエイターは必ず集まってくれます。そしてわれわれが想像もしないようなものを生み出してくれますから、心配ありませんよ。そして編集までできたら、それを伝送する。これはスマホを使うのですね。

喜多村 はい。実は日本国内では、シャープはスマホのシェアも高いのです。アンドロイドスマホではトップシェアですし、全体でも2位です。この強みを活かして、5Gを絡めて8Kの伝送をしていこうと考えています。さらに5Gのスマホとテレビをいかに連携性を高めるかが、今の開発課題になっています。

スマホが5G経由で8Kコンテンツを受けて、それをテレビに転送する。テレビが5Gの通信機を持つのではなく、スマホを媒介として使うというのがミソ

麻倉 スマホが5G経由で8Kコンテンツを受けて、それをテレビに転送するという流れですね。

喜多村 直接スマホからテレビに送るか、それともクラウドを経由するかなどやり方は色々ありますが、そういった手順になるでしょう。

麻倉 テレビが5Gの通信機を持つのではなく、スマホを媒介として使うというのがミソですね。

喜多村 おっしゃる通りです。最近の身近なガジェットでは、一番賢くてハイスペックなのはスマホですから、そこをキーにしています。弊社は日本だけでなく、欧州やアジア圏でもスマホやテレビを展開しています。もちろんPCもある。ここまで8Kのエコシステムが揃うメーカーは他にないのです。

麻倉 他社との違いは、8Kに対してシャープほどの熱意がないことです。ギアがあっても、それをつなぐ発想、野望が他にはありません。

喜多村 弊社は、野望は持っていますよ(笑)。孤軍奮闘していますから。

麻倉 これまでは“思い”が先行していましたが、ここに来てピースが埋まってきたように思います。特に、スマホで5Gで何をやるかと思った時に、8Kというのはひじょうに合理的な発想です。

喜多村 スマホには5Gだけでなく、将来的には8Kカメラも搭載されていくかもしれません。そうなると、8Kを手軽に撮って、5Gでテレビに送って再生するという、手軽な8Kエコシステムの可能性も広がるのではないでしょうか。

麻倉 子供を撮影するなら、必ずその時代の最高スペックで撮りたいと思うはずです。これからは8Kで子供を残す時代ですね。そしてスマホで伝送までできれば、あとはテレビだけです。

喜多村 これについては、お客様が好きなサイズを選んでもらえるように様々なサイズを準備しておきます。感動を生むのは大画面でしょうから、今回120インチを準備したのです。

堺で製造する8K/120インチディスプレイ

麻倉 8Kについては、せっかく日本では放送が始まっているのだから、8Kチューナー内蔵レコーダーが欲しいですね。2K放送はそうでもないけれど、4K、8Kになったらお気に入り番組は残したくなりますからね。

喜多村 BS4Kや8Kは綺麗なコンテンツがありますからね。確かにあのような番組を手元に置いておきたくなる気持ちはわかります。

麻倉 ぜひ検討をお願いします。ところで、ここまでのお話はB to Cでの位置づけですが、8KのB to Bはどんな進捗なのでしょうか。

喜多村 日本国内では、B to B用の商談室(8K Labクリエイティブスタジオ)ショウルームを東京・芝浦に開設しました。今後は売り上げの半分をB to Bにしていこうという方針も出ていますので、注力していきます。8KであれAIoTであれ、ビジネス展開を抜きにはできないフィールドですので。

麻倉 8KがらみのAIoTというと、どんな展開が考えられるのでしょう?

喜多村 テレビは8KにもAIoTにも対応できるので、まずはそこから考えていくことになるでしょう。

麻倉 5Gは伝送手段としてわかりやすいのですが、AIはテレビの中にどのように入っていくのでしょう? 画質設定をAIでやるとか、プログラムの選定をやるといった程度では、あまり意外性はありません。

喜多村 一般家庭に広く普及しているテレビだからこそできるセンシングというものがあります。そこから得られるビッグデータをどう加工するかは、これからの工夫次第でしょう。

麻倉 さて、こうしてエコシステムが完成したわけで、ここからがシャープとしての新スタートですね。

喜多村 これからそれぞれの製品をきちんと立ち上げていくことになるでしょう。ぜひ弊社の8Kにご期待下さい。

マイクロ・フォーサースフォーマットの8Kビデオカメラで撮影

スカイワースに供給した液晶8K・120インチ