最新エラックでサラウンド迫力と繊細さが高度に両立

 今年の米国CESでお披露目されたエラックの新ライン、CARINA(カリーナ)シリーズが日本上陸を果たし、輸入元のユキムから正式発表された。フロア型のカリーナFS247.4、ブックシェルフ型の同BS243.4、そしてセンター用の同CC241.4という布陣で、ステレオ再生はもとより、多彩なマルチチャンネル再生まで幅広く対応する。

 ちなみにカリーナとはラテン語で“竜骨”(船底の隆起部)のこと。ひと足先に発売されたヴェラ(VELA)は“船の帆”を意味していて、いずれもドイツ北部、バルト海に面したエラックの拠点、キールに因んだ名称を与えている。

 柔らかなアールの処理が施されたフロントバッフル面、背中を絞ったエンクロージャー形状、あるいはわずかにスラントさせた特徴的なフォルムと、基本デザインは、上級機となるヴェラシリーズから受け継いだもの。設置性の自由度が高いダウンファイヤー式のバスレフポートも採用済だ。

 カリーナを手がけたのは、スピーカーエンジニアの名匠として知られるアンドリュー・ジョーンズ。Debut、Uni-Fi SLIM、ADANTEと、エラック移籍後、確かな実績を残しつつあるが、同社スピーカーの象徴とも言えるJETトゥイーター搭載機を手がけるのはカリーナが初めてだ。

 今回のJETは生産手法の工夫によってコストダウンに成功した新開発品。ハイスピードで低歪み、耐入力に優れるというJETの強みは、現行JETと比較しても見劣りしないという。

 

新開発されたJET folded ribbon(フォールデッド・リボン)高域ユニット。従来のJETトゥイーターから製造工程を変更することで、トランジェント特性などの高性能を維持したまま、生産コスト低減に成功したという

ウーファーは、独特の折り目がついたクリスタルコーンから一新。アルミニウム素材を複雑な曲線で成形することで、分割振動による共振周波数を帯域外に追いやり、歪率低減を図っている

スピーカー端子はバイワイヤリング/バイアンプ駆動が可能な高域/低域分離タイプで、極太ケーブルやバナナプラグ等に対応した大きめのターミナルが使われている

 

 135mm径のウーファーの振動板は複合曲率で形成されたアルミ製だ。その形状の工夫により、分割振動による共振周波数を再生帯域外に追いやることに成功。強力な磁気回路と大口径ボイスコイルの組合せで、正確なロングストロークを約束している。

 この自慢のユニットをいかに使いこなし、アンドリュー・ジョーンズがどんなスピーカーシステムに仕上げたのか、じっくりと検証していくことにしよう。

 

SPEAKER SYSTEM

ELAC
CARINA FS247.4
¥320,000(ペア)+税
●型式:2.5ウェイ3スピーカー・バスレフ型●使用ユニット:JETトゥイーター、135mmコーン型ウーファー×2 ●クロスオーバー周波数:1kHz、2.7kHz ●出力音圧レベル:87dB/2.83V/m ●インピータンス:6Ω ●寸法/質量:W210×H1070×D213mm/16.4kg ●問合せ先:㈱ユキム ☎︎03(5743)6202

CARINA BS243.4
¥160,000(ペア)+税
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型 ●使用ユニット:JETトゥイーター、135mmコーン型ウーファー ●クロスオーバー周波数:2.7kHz ●出力音圧レベル:85dB/2.83V/m ●インピータンス:6Ω ●寸法/質量:W210×H321×D213mm/6.7kg

CARINA CC241.4
¥135,000+税
●型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型 ●使用ユニット:JETトゥイーター、135mmコーン型ミッドレンジ、135mmコーン型ウーファー ●クロスオーバー周波数:100Hz/3kHz●出力音圧レベル:87dB/2.83V/m ●インピータンス:6Ω ●寸法/質量:W621×H205×D213mm/10.2kg

SUBWOOFER

SUB2070
¥280,000+税
●型式:アンプ内蔵サブウーファー・密閉型 ●使用ユニット:250mmコーン型×2 ●アンプ出力:600W ●カットオフ周波数:40〜150Hz ●接続端子:ライン入力2系統(RCA)、スピーカー入力3系統 ●寸法/質量:W360×H475×D385mm/32kg

Profile
傑作小型スピーカーCL310JETで1997年頃に輸入が開始されて以来、日本で確固たる地位を築いたドイツ・エラック。JETと呼ばれる蛇腹状のリボン型トゥイーターが同社スピーカーの大きな特徴といえる存在で、CL310JET以来中核モデルにはすべて搭載している。今回、日本で初お目見えするのが、240LINEの後継となるCARINA(カリーナ)シリーズ。トールボーイ型CARINA FS247.4、ブックシェルフ型CARINA BS243.4、センター用CARINA CC241.4の3モデル。本取材では、この3モデルを中心に既発のサブウーファーSUB2070を組み合わせて、さらに視聴室常設のイクリプスTD508MK3スピーカー6本を使って5.1.6サラウンドシステムを構築した

その他の使用機器
●プロジェクター:JVC DLA-V9R ●スクリーン:スチュワートStuDeoTek130G3(123インチ/シネスコ) ●UHDブルーレイプレーヤー:パナソニックDP-UB9000(Japan LimiteD) ●AVセンター:デノンAVC-X8500H ●オーバーヘッドスピーカー:イクリプスTD508MK3×6

雄大な空間の広がりを表現。声のニュアンスもていねいだ

 今回の課題作品は『アベンジャーズ/エンドゲーム』。ドルビーアトモスによるサラウンド再生のパフォーマンスチェックが最大のテーマだが、その前に、CD再生のインプレッションをお届けしたい。

 まず2.5ウェイ3スピーカー構成のフロア型FS247.4をHiVi視聴室の標準的なセッティングでステレオ再生。『フェイマス・ブルーレインコート/ジェニファー・ウォーンズ』を中心に聴いたが、明確なヴォーカルの定位といい、雄大な空間の拡がりといい、その情報量、表現力からスピーカーとしての素性のよさが実感できる。

 J・ウォーンズのヴォーカルは適度な潤いも含み、口元の動きが感じ取れるほど見通しがいい。言葉尻の微妙なニュアンスの表現もていねいで、サ行がきつく聴こえるような癖っぽさもない。

 ただひとつ注意したいのは、セッティングによる低音のレスポンスの変化が大きいこと。標準設置(下図①参照)ではベース、バスドラが強調される傾向で、もう少しリズム感に軽快さが欲しい。

 そこでスピーカー本体を壁から離した位置(同下図②)に変更。するとどうだろう、声の艶っぽさ、空間の高さといった持ち味を生かしつつ、高域と中域、低域のタイミングが整い、ベースのピッチ、リズム感にも曖昧さ払拭されたではないか。とにかく全帯域に渡ってムラなく、小気味よく反応するようにセッティングを追い込んでいくことが重要。このひと手間で、そのサウンドは俄然楽しくなる。

 このままバイアンプ接続を試してみたが、効果は上々。基本的な帯域バランスは変わらないが、ガッシリとした骨格の、厚みのある中低域が躊躇なく吹き上がる。今回のようにパワーアンプのチャンネル数に余裕がある場合は、バイアンプ接続をお勧めしたい。

 

リアポートをスポンジでダンプしたうえで、スピーカーの位置を壁から大きく離す(写真上→下)。左右両サイドから約78cm、スピーカー後方の壁から約115cmの間隔を確保した状態だ

5.1.6構成の場合、デノンAVC-X8500Hではアンプが2chぶん余る。その余ったアンプをフロントバイアンプに活用できる「バイアンプ」設定が可能。スピーカーケーブルは1組余計に増えるが効果は抜群だ

 続いて2ウェイ2スピーカー構成、ブックシェルフ型のBS243.4。JETトゥイーター、アルミ製振動板のウーファーともに、FS247.4と共通で、エンクロージャーのデザインコンセプトも踏襲している。実際、ヴォーカルの自然な定位といい、優雅な空間の拡がりといい、そのサウンドからも姉妹モデルであることが実感できる。

 ワイドレンジ再生を追求するタイプではないが、天井高く、奥向方向にスムーズに拡がる響きは重厚で、歪み感もない。目の前にフワッと解き放され、浸透し、消えていく様子が実に新鮮で、清々しい。

 そして低音のレスポンスがセッティングに左右されるのもFS247.4同様。壁際よりも、やや距離をおいて設置した方が、バランス的にまとめやすい。またバイアンプ接続対応で、金属製ジャンパーが付属しているが、これは音質的には可もなく不可もないグレード。私ならスピーカーケーブルでシャンパー線を自作して、交換する。ぜひ、お試しを。

大振幅の信号をしっかり受け止め、微細な情報もていねいに描き上げる

 さていよいよ本題、『アベンジャーズ/エンドゲーム』のドルビーアトモス再生。サブウーファーはエラックの実質的な最高峰モデルとなるSUB2070。250mmのASコーン・ウーファーユニットを上下に2基搭載し、出力600WのクラスDアンプに同相で駆動する。スマホ連携で使えるオート・キャリブレーション(自動音場補正)も搭載済で、今回の試聴でも積極的に活用している。

UHDブルーレイ『アベンジャーズ/エンドゲーム 4K UHD MovieNEX』
¥8,000円+税  発売中
4枚組 (4K UHD、3Dブルーレイ、ブルーレイ、 「エンドゲーム」初回限定ブルーレイ ボーナス・ディスク)
(ウォルト・ディズニーVWAS6906)

(C) 2019 MARVEL
marvel.disney.co.jp

 まず最愛の家族たちと平穏な日々を楽しむホークアイが登場するオープニングから。弓矢で遊ぶ娘とそれをアドバイスするジェレミー・レナー演じるホークアイの声が中央に定位して、その奥からはキャッチボールに興じる子供たち、食事の用意をする奥さんの声が聴こえるが、その場の空気感が実に生々しく、気配、雰囲気までも感じさせる。

 特に声の質感のよさに加えて、高さ方向、奥行方向に重層的に拡がっていく空間表現の緻密さが聴き応え充分。このあたりは明らかに使用ユニットが統一されたスピーカーシステムの強みだが、各チャンネル間でここまで隙間なく、みっちりと空間を描き出すシステムはそう多くはない。JETの恩恵は大きい。

 ローリング・ストーンズの「Doom And Gloom」が大音量で部屋全体を包み込むように始まるチャプター8。開放感に富んだ明るい音調で、リズムトラックの浸透力も良好。空間の躍動が生々しく、これから始まる壮大なストーリーへの期待が自ずと高まる。

 タイムトラベル用のスーツを試着したホークアイが、かつての家族の暮らしに一瞬にして戻る場面。強力な低音が部屋全体を揺さぶるが、ここでも空間の描きわけは緻密で、低音も軽やか。時間を遡り、家族の暮らすわが家を前にすると、風、鳥のさえずり、虫の音と、細かな効果音がフワッ沸き上がり、その空気感はまさに当時のまま。大振幅の信号をしっかりと受け止め、同時に微細な情報をていねいに拾い上げて、描き上げる表現力はさすがだ。

 そしてクライマックス、勢揃いしたアベンジャーズとサノス軍とのインフィニティ・ガントレットの争奪戦でも、緻密で鮮度の高い、小気味のいいサウンドは健在だった。基本的な解像力に余裕があるため、セリフ、効果音、音楽と、さまざまな情報が複雑に絡み合っても、明瞭度は損なわれることなく、それぞれの表情の違いを確実に描きわけていく。

 この争奪戦シーンではスクリーンを起点にして、その外側に積極的に音場を拡げ、戦いの激しさを描き出していくが、スクリーン内から外側に拡張されていく空間は、切れ目なく、前から横、後までも弧を描くかのようにキレイに描き出される。

 耳を突き刺す銃声、お腹をまさぐる地響き、飛行船の旋回音が部屋中を駆けめぐり、臨場感を盛り上げていく。サブウーファーが活躍するシーンだが、必要以上に存在感を主張することなく、出しゃばらない。確かな基本性能もさることながら、オートキャリブレーションの効果は絶大だった。

 

AFTER HOURS

さすが、期待の新エラックだ。見事な音場描写は聴き応えあり

エラックが満を持して送り出してきた意欲作。新生JETトゥイーターをいかに使いこなすのか、興味津々だったが、さすが、名手アンドリューがそのあたりは抜かりがない。特にサラウンド再生では、ニュアンス豊かな声に加え、広々とした空間に細やかな響きが、ストレスなく拡がっていく様子は聴き応えがあった。低音のレスポンスがややオーバーに感じられる場合(特に大音量再生時)は、壁から一定距離を確保することで、全体のバランスを整えるといいだろう。