壮大にして苛烈な音の饗宴を満喫。これぞ劇場を超えた音場表現力だ

 今春公開された『アベンジャーズ/エンドゲーム』をもって、『アベンジャーズ』シリーズはいったん完結した。第一弾の『アイアンマン』を皮切りとして、マーベルはその後も同一世界観に属するさまざまなヒーロー映画を次々に送り出した。文字通りの「ユニバース」を作り上げることで、MCUは作品を重ねるごとに重層的な面白さを獲得していった。その総決算が『エンドゲーム』であり、MCUの全作品を見てきた筆者は万感の想いを劇場で抱いたものだった。

UHDブルーレイ『アベンジャーズ/エンドゲーム 4K UHD MovieNEX』
¥8,000円+税  発売中
4枚組 (4K UHD、3Dブルーレイ、ブルーレイ、 「エンドゲーム」初回限定ブルーレイ ボーナス・ディスク)
(ウォルト・ディズニーVWAS6906)

(C) 2019 MARVEL
marvel.disney.co.jp

 『エンドゲーム』は上映終了後の8月7日から各種映像配信サービスで先行配信が行なわれていたが、9月4日、いよいよUHDブルーレイ/BDが発売となった。「最高の画と音」で映像作品を楽しもうと思えば、現時点ではやはりUHDブルーレイが最適解になるため、発売を心待ちにしていたファンも多いと思われる。もちろん筆者もそのひとりである。

 今回はHiVi視聴室にて、『エンドゲーム』のUHDブルーレイをヤマハの一体型AVセンターの最上位機RX-A3080を使ったシステムで視聴を行なった。

 スピーカーはフロントがモニターオーディオPL300Ⅱ、センターが同PLC350Ⅱ、サラウンドが同PL200Ⅱ、オーバーヘッドスピーカーにイクリプスTD508MK3、サブウーファーに同TD725SWMK2という布陣。9chアンプを搭載するRX-A3080にあわせ、サラウンドバックなしの5.1.4構成とした。なお、RX-A3080は11.2chのプリアウトを持っているため、外部パワーアンプとの組合せで最大7.1.4の構成が可能だ。UHDブルーレイプレーヤーはパナソニックのDP-UB9000、プロジェクターはJVC DLA-V9R、スクリーンはスチュワート スタジオテック130G3を用いた。

 視聴に先立ってヤマハの自動音場補正機能「YPAO」で測定を行ない、距離とスピーカーレベルを微調整。YPAOの測定を行なった時点では全チャンネルが「ラージ」判定となったが、途中からトップスピーカーを「スモール」とし、クロスオーバー周波数は120Hzとした。

 

AV CENTER

YAMAHA
RX-A3080

¥280,000+税
●定格出力:200W/ch(6Ω、1kHz、1ch駆動、0.9%THD) ●内蔵アンプ数:9 ●接続端子:HDMI入力7系統、HDMI出力3系統、アナログ音声入力10系統(RCA×8、XLR×1、フォノ×1)、デジタル音声入力6系統(光×3、同軸×3)、11.2chプリアウト1系統、USBタイプA 1系統、LAN 1系統 他 ●消費電力:490W(待機時0.1W)●カラリング:ブラック、チタン(写真) ●寸法/質量:W435×H192×D474mm/19.6kg ●問合せ先:㈱ヤマハミュージックジャパン お客様コミュニケーションセンター オーディオ・ビジュアル機器ご相談窓口 ☎0570(011)808

Profile
AVセンターの巨人、ヤマハの現行ラインナップは、上級機種をアベンタージュというサブブランドで展開している。セパレート構成のCX-A5200/MX-A5200がその頂点だが、今回は一体型の最上位機RX-A3080を視聴に用いた。ヤマハAVセンターの他社機との最大の差別化機能は、なんといっても独自のサラウンドモード「シネマDSP」であるのはご存知のとおり。緻密かつ多彩な音場効果で多くのファンから愛されている。さらに昨年登場したアベンタージュの上位4機種(CX-A5200 / RX-A3080 / RX-A2080 / RX-A1080)に採用された「SURROUND:AI」を新開発し搭載。シーンを自動判別して最適な音場効果を創出する画期的な機能である

その他の使用機器
●プロジェクター:JVC DLA-V9R ●スクリーン:スチュワートStudeoTek130G3(123インチ/シネスコ) ●UHDブルーレイプレーヤー:パナソニックDP-UB9000(Japan Limited) ●スピーカーシステム:モニターオーディオPL300Ⅱ(L/R)、PL200Ⅱ(LS/RS)、PLC350Ⅱ(C)、イクリプスTD508MK3×4(オーバーヘッドスピーカー)、TD725SWMK2(LFE)

 

重さ、鋭さ、エネルギー感。すべてにおいて申し分なし

 それでは、聴きどころをいくつかピックアップして、RX-A3080で聴いた『エンドゲーム』の印象を述べていこう。

 『エンドゲーム』は、前作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』では登場しなかったアベンジャーズの一員、ホークアイが屋外で家族と過ごしているシーンから始まる。音楽を伴なわない落ち着いたシーンとはいえ、環境音として広々とした田園風景に吹く風の音、鳥や虫の声が実に濃密だ。娘に弓の稽古を付けているホークアイだったが、目を離したわずかな間に、サノスの「指パッチン」が起こる。娘も、妻も、二人の息子も塵となって消えてしまう。この時、先ほどまで空間を満たしていた鳥や虫の声が、急激に薄く、小さくなる。まるで、「あらゆる生命体の半数が消え去ってしまった」ように……。

 そう、まさにこの音の変化こそ、「サノスの指パッチンによって全宇宙の生命体の半分が消滅した」ことを静かに、しかしはっきりと示しているのである。元々の環境音が豊かだっただけに、変化が際立つ。家族の名を呼ぶホークアイの声に遠雷が重なり、激しい雷鳴とともに画面は暗転。おなじみマーベルのロゴ映像が流れる。何気ない家族の映像と、わずかな音の変化によって「とんでもないことが起こった」ことを雄弁に物語るオープニングである。ダイアローグもクリアーさとしっかりとした厚みを聴かせ、この時点でRX-A3080の実力の一端は示される。

 続いて、生き残ったアベンジャーズの面々がキャプテン・マーベルの加勢を得て、とある惑星に隠遁するサノスを襲撃するシーン。質素な家で鍋を火にかけるサノスに対し、キャプテン・マーベルがフォトンブラストを放ちつつ突撃。瞬く間にサノスの首を羽交い絞めにすると、地下からハルクバスターが、横からウォーマシンが現れて両腕の動きを封じ、すかさずソーが斧の一撃でサノスの左腕を切り落とす。ごく短いシーンながら、各キャラクターの個性が音でも表現されている。すなわちキャプテン・マーベルの超常の力、ハルクバスターとウォーマシンの金属的な重厚さ、ソーの振るう斧・ストームブレイカーの威力である。RX-A3080は音の違いを明確に描き分け、アクションシーンの重さ、鋭さ、エネルギー感のすべてにおいて申し分なかった。

 作品終盤、満身創痍のキャプテン・アメリカは、サノスと、彼が召喚した大軍団とただひとり対峙する。そこに無線で飛んできた「左から失礼」の声とともに次々とポータルが開き、あらゆる場所からサノスに立ち向かう人々が集結する。数多のヒーローが隊伍を組み、キャップの「アッセンブル」の掛け声で一斉に突撃。同時に、爆発的な勢いでアベンジャーズのテーマが鳴り響く。今までのMCUの積み重ねはまさにこの瞬間のためにあったのだと心の底から思える、極め付きの名場面である。最終決戦のシーンでは大軍同士の激突をマクロとミクロの両側から表現するために、豊かなスケール感、強靭なダイナミックレンジ、徹底した細部の描写力など、さまざまな要素が高度に必要とされる。そしてRX-A3080は、この要求に見事に応えたと言っていいだろう。クライマックスの戦いに相応しい、壮大にして苛烈な音の饗宴を存分に味わうことができた。

 

アベンタージュシリーズのAVセンターは、その第一世代である2011年発売のRX-A3010以来、外観デザインを基本的に継承している。ただしその内容は絶えず進化している。シーン適応型音場創生技術「SURROUND:AI」を搭載している

本機は9chアンプ内蔵モデル。今回はHiVi視聴室のリファレンススピーカーシステムの7.1ch構成に天井スピーカー4本を接続。アトモス再生時にはサラウンドバックを鳴らさない5.1.4の状態に自動的にアンプ側で使用スピーカーを切替えてくれる

ヤマハAVセンター搭載の自動音場補正機能YPAOは、いくつかのグレードがあるが、アベンタージュの上位モデル(CX-A5200/RX-A3080/RX-A2080)にはその最上グレードの「YPAO 3D補正」(各スピーカーの距離と角度、プレゼンス/オーバーヘッドスピーカーの高さを自動計測し、立体的に補正)と「64ビットプレシジョンEQ」(64ビット処理のイコライジング)、「YPAO-R.S.C.」(初期反射音をより緻密に測定するモード)が組み合わさっている。Y字型マイクスタンドが付属する

 

広がった空間をさらに音で埋め尽くす。これがサラウンド:AIの効果だ

 さて、ここまでは基本的に各種DSPを使わず基本的にストレートデコードで聴いてきたのだが、最終決戦のシーンではサラウンド:AIのオンオフも試してみた。オンにすると、ただでさえ巨大だった空間がいっそう広がる。全チャンネルから乱れ飛ぶ戦場の轟音も密度を増す。拡大した空間をぎっしりと音が埋め尽くす印象だ。音の存在感が強まることで、危機的状況で超絶的な力を見せ付けるキャプテン・マーベルの登場シーンや、インフィニティ・ガントレットからサノスに膨大な力が流れ込むシーンなど、数々のシーンがより印象深いものとなる。

 筆者は『エンドゲーム』を劇場で二度観ている。一度目は地元のイオンシネマ、二度目はMOVIXさいたまのドルビーシネマである。その時の記憶、特に映画館としてはかつてないほど素晴らしいと感じた後者の記憶と比べてもなお、今回の取材で聴いた音はまったく遜色がなかった。さすがに絶対的な音量や、それに伴なう迫力という点では及ばないにせよ、ディテイルや移動感の精密な描写では、明らかに映画館を上回っている。こうした精緻な表現を追求できることがホームシアターの醍醐味でもあり、今回のシステムはそのことをあらためて実感させてくれた。価格で大きく上回るモニターオーディオのプラチナムシリーズⅡから心躍る音を引き出した、RX-A3080の実力には瞠目せざるを得ない。

 

HiVi視聴室のモニターオーディオのプラチナムシリーズⅡとイクリプスを使って、7.1.4構成でのYPAO測定を行なった。A3080は9chアンプ構成なので、ドルビーアトモス音声時は5.1.4での再生となる

大きさ判定(いわゆるスピーカーコンフィグレーション)は、すべて「大」という結果になった。イクリプスTD508MK3は8cmユニットを使ったフルレンジ型なので、今回はマニュアルで「小」、クロスオーバー設定を「120Hz」とした

距離測定は5cm刻み。視聴室の実測値とほぼ正確な値が測定された

音量補正も理屈通りの値を正確に測定していることがわかる

リスニングポイントを基準として、各スピーカーの高さおよび設置角度を測定できるのは現行の国産AVセンターではヤマハのみ。Y字型の測定用治具があり、測定環境が安定しているためか、視聴室のスピーカー角度も正確に測定できた

ハイト、トップ、あるいはプレゼンススピーカーなどの、天井設置もしくは壁掛けスピーカーが、測定用マイクからどれだけ高い位置に設置しているのかも測定できる。今回の環境ではフロントハイトは1.6m、トップリアは1.5mとなった

現行ヤマハ製アベンタージュの上位機での最大の魅力である「SURROUND:AI」も試した。『エンドゲーム』のドルビーアトモス音声のストレート再生と、SURROUND:AIと比較してその音場描写の違いを体験した

 

AFTER HOURS

SURROUND:AIはもちろんアンプとしての地力にも注目

RX-A3080の再生音は『アベンジャーズ/エンドゲーム』の映像のスケールに呼応するように大スケールで、密度感も充実した、まさしく「空間が音で埋め尽くされる」感覚を味わうことができた。ヤマハの現行AVセンターはとにかくSURROUND:AIが注目されがちだが、今回モニターオーディオのプラチナムシリーズⅡをしっかりとドライブしてみせたように、アンプとしての地力もまたRX-A3080の見逃せない魅力といえる。

 

アベンタージュシリーズにはRX-A3080(写真左)のほかに、RX-A2080(写真右。¥200,000+税)とRX-A1080(写真下。¥140,000+税)もラインナップされている。搭載するアンプのチャンネル数や、スピーカー構成の上限でRX-A3080とはそれぞれ差があるものの、「SURROUND:AI」をはじめとする機能は基本的にシリーズ共通。予算や使用するスピーカーに応じて選択するモデルを変えたとしても、高度なサラウンド体験という本質的な魅力が薄れることはないだろう。(逆木)