2019年11月、酸性雨の降るロサンゼルスを舞台に、人間とレプリカントの葛藤を描いたSF映画の傑作『ブレードランナー』。物語の、まさにその瞬間を約2ヵ月後に控えた2019年9月6日、『ファイナル・カット』のIMAX版が、日本で初めて劇場公開された。

 本作については、LDやDVD、最近ではUHDブルーレイで数十回といわず見て来たが、改めて考えてみると劇場で見た記憶がほとんどない。上京したての1984年5月頃に、飯田橋・佳作座に足を運んだのは覚えているが(これが東京で初めて見た映画だった)、それ以降は2007年の『ファイナル・カット』DLP上映もタイミングが合わず……。

 その作品が、しかもIMAX版で劇場公開されるのだから、今度こそ見逃すわけにはいかない。公開初日、去る7月にオープンしたばかりの池袋グランドシネマサンシャインに足を運んだ。ここの12番スクリーンは、日本最大のスクリーサイズ(横25.8×縦18.9m)を誇るIMAXシアターだ。

 今回の『ファイナル・カット』IMAX版は、2007年にリドリー・スコットの監修の下に作成された4K素材を使い、IMAX社の手によりDMRと呼ばれる上映用フォーマットに仕上げられたそうだ。映像のアスペクト比はオリジナルのままで、音声はIMAX独自の12ch再生となる。

 ちなみに劇場によっては2Kで上映されており、その場合は2K用のDMRが準備されていると思われる。お近くの劇場が4Kか2Kなのかについては、サイト等で確認していただきたい。

 なお、池袋グランドシネマサンシャインの詳細や、今回のIMAX上映の経緯については、同じく『ブレードランナー』ファンにして、映画館マニアの久保田明さんが支配人にインタビュー取材をしてくれたので、後日お届けします。

 さて、肝心の『ブレードランナー ファイナル・カット』IMAX版の印象はどうか? はっきり言おう、映画ファンはこれを見逃してはいけない! 作品そのものも、今では想像もできないような才能を持ったスタッフ、キャストが集結して生み出された”奇跡の逸品”だし、それが今の最新技術を使った、最高の映像と音で再現されている。

 プロジェクターのスペック的には4K解像度で、2台でスタック投写することで映像の明るさもアップ。それもあって、コントラストの高い映像がレストアされている。

 冒頭の俯瞰シーンも乱立するビル群が潰れることなく再現され、手前の炎の爆発は色が鮮やかで熱さを感じるほどだ。その向こう、霧の中にタイレル本社ビルがそびえ立ち、奥行感が見事に再現される。その後の寄りのカットでは、タイレルビルのディテイルも見事。このシーンは奥行5mほどのセットで撮影されたそうだが、映像からはとても信じられない。

 続いての強力わかもとの看板のライト一つ一つまで識別できそうだし、デッカードが初登場するうどん屋のシークエンスは、電飾の輝きが目を惹いて、アップのハリソン・フォードの肌もリアル。さらにバックにうっすらフィルムのグレイン感(粒状性)が残っているのも嬉しい。

 そこからスピナーで警察本部の屋上に着陸するまでの定番シーンも、それこそ数え切れないほど見てきたけれど、今回も目が離せなくなってしまった。何より警察本部のビルが高い。その左にあるミレニアムファルコン号のフィギアを流用したという噂のビルも、薄暗い中に輪郭がこれまで以上にしっかり出てきて、確かにそうかもなぁと改めて確認できた次第。

 それから……と書き出すとすべてのシーンを紹介したくなるのでこれくらいにしておくけれど、全体を通して既発売の4K UHDブルーレイ(下コラム参照)と同等の情報量が、劇場の超大型サイズで再現できている。しかも輝度に余裕があるので、ライトや電飾などのピーク感もあるし、薄暗い部分の階調情報もきちんと出てくる。

 また個人的にはIMAX版の映像は、コントラスト感がありながらも、つるんとした、てかてかな再現ではなく、フィルムのニュアンスを持った厚みのある映像で、80年代の作品の空気をしっかり残してくれているのが嬉しかった。デジタル化でなんでもかんでもすっきりしてしまったら、映画らしさがなくなりますからね。

 サウンド面は、先述のようにIMAX独自の12ch再生ということで、UHDブルーレイに収録されたドルビーアトモスとも若干印象が違った。特に低域はけっこう強めで、ブラスターの発射音はインパクトが強い。ここまでやるか、とそれだけで興奮して、嬉しくなった。

 しかし決して低域過多でブーミーということではなく、レイチェルが弾くピアノも小さな音まで再現できているし、何より様々な音がきちんと描き分けられているので、セリフ自体も聴き取りやすい。「何か変なもの落としてったぜ」が何回リピートされているか数えられるかも。

 もちろん、本作で欠かせない雨音や雷鳴の距離感再現も満足いく仕上がりで、雨粒がしっかり頭の上から降ってくる。さらに僕が音質面で一番印象的だったのは、プリスがデッカードに射殺されるシーンの断末魔の叫び声。ここが辛そうで、痛そうでとても怖い。

 これまでこの声がNo.1に怖かったのは、堀切日出晴さんのホームシアターの、アルテックA7というスピーカーで聴かせてもらった時なのだけど(UHDブルーレイのドルビーアトモス音声)、今回もそれに並ぶくらい背筋が凍りました。

 池袋グランドシネマサンシャインは、金曜日の夕方という時間にもかかわらずほぼ満席で、僕と同年代(50代)はもちろん、30代とおぼしきサラリーマンや学生風の男女と、思っていたより幅広い世代が集まっていた。

 この中には『ブレードランナー』を見るのは今回が初という人も居るはず。初めての『ブレードランナー』をこれだけのクォリティで楽しめるとはなんて幸せなんだと思うと、彼らがちょっと羨ましくなってしまった。往年のファンはもちろん、若い映画ファンにはぜひ今回のIMAX上映を楽しんで欲しい。

 今回の上映は9月6日から2週間、つまり9月20日までの予定。期間が限られているので、気になる方は近くの劇場をチェック。(取材・文:泉 哲也)

Blade Runner: The Final Cut © 2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

『ブレードランナー ファイナル・カット』IMAX版上映

●上映期間:9月6日(金)から2週間限定
●上映予定劇場(32館・7/30現在)
シネマサンシャイン(グランドシネマサンシャイン、大和郡山、衣山、土浦)
109 シネマズ(二子玉川、川崎、名古屋、木場、湘南、菖蒲、箕面)
TOHOシネマズ(日比谷、新宿、ららぽーと横浜、なんば、二条、仙台)
ユナイテッド・シネマ(としまえん、浦和、札幌、豊橋 18、岸和田、キャナルシティ 13、PARCO CITY 浦添)
T・ジョイ PRINCE 品川/横浜ブルク 13/広島バルト 11/鹿児島ミッテ 10/イオンシネマ大高/成田 HUMAX シネマズ/USシネマちはら台/エーガル 8 シネマズ

IMAX版の予習には、UHDブルーレイが最適

『ブレードランナー ファイナル・カット
<4K ULTRA HD&ブルーレイセット>(2枚組)』
(¥5,990、税別)

 今回IMAX版の劇場鑑賞に備えて、自宅で『ブレードランナー ファイナル・ナット』のUHDブルーレイを使って予習をして出かけた。本ディスクは2年前に発売されたもので、映像は4K/HDR。音声はドルビーアトモスで収録されている。

 本文にも書いたとおり、リドリー・スコットの監修の下で4Kスキャニングしたマスターが使われているとかで、画質は本当に綺麗。この情報が大スクリーンに再現出来ているというだけでもIMAX版を見る価値があると思った。

 IMAX上映を見て『ブレードランナー』の凄さを痛感したという方は、ぜひこのUHDブルーレイを手元に置いて、さらにディープな世界に浸って下さい。