パソコン用サウンドカードやアクティブスピーカー、ヘッドホンなどで知られるクリエイティブ・メディアから、今年で30周年を迎えるサウンドカード「Sound Blaster」シリーズの最上位モデル「Sound Blaster AE-9」「Sound Blaster AE-7」が発売された。久しぶりとなる内蔵型サウンドカードの高級モデルだ。ここでは、新製品に込められた音質へのこだわりとともに、実機での試聴レポートをお届けする。

Sound Blaster AE-9

Sound Blaster AE-9
オープン価格(販売は直販サイト・クリエイティブストア限定。直販価格¥34,800+税)
https://jp.creative.com/p/sound-blaster/sound-blaster-ae-9

Sound Blaster AE-7

Sound Blaster AE-7
オープン価格(同社オンラインストア価格¥21,800+税 店頭販売もあり)
https://jp.creative.com/p/sound-blaster/sound-blaster-ae-7

実は今でも根強い人気のある内蔵型サウンドカード

 「Sound Blaster」と言えば、パソコン歴の長い人ならば、一度は耳にしたことのある名前だろう。パソコンの音をより高品質で楽しむためのサウンドカードの定番ブランドのひとつだ。今年で30周年を迎えたそうで、これから続々と新モデルを発表していく予定だという。その第1弾となるのが、内蔵型サウンドカードの「Sound Blaster AE-9」「Sound Blaster AE-7」だ。

 しかし、現代はパソコンよりもスマホやタブレットが主流。パソコンを使う人も少なくないが、ノートパソコンが多くを占め、内蔵型サウンドカードの活躍の場はあまりないように思える。クリエイティブ・メディアも、製品を発表した時には「何故、今さら内蔵型?」と販売店などに質問されたとか。ところが、こうした内蔵型サウンドカードには、まだまだ根強い人気があるのだという。それは、e-SportsやPCゲームの世界。ゲームのスコアでランキングを競うPCゲームでは、使用するPCの性能が、結果に直結する面もある。最新のCPUを搭載し、メモリーを増量するのはもちろん、高速でなめらかにグラフィックス表示を行なうためのビデオカードなどは必須装備で、いわゆるゲーミングPCと呼ばれるモデルは、大型のタワー型筐体がほとんどだ。

 サウンドカードも、そうしたPCゲームの世界では欠かせないアイテムだ。何故ならば、今主流のFPS(一人称視点のシューティングゲーム)では、画面内や画面外の敵の存在を“音”で察知する必要があり、プロゲーマーはもちろん、ランキングの高いプレーヤーの多くは、ゲームの音の再現性にこだわり、サウンドカードやヘッドホンを吟味している。さまざまな音であふれたゲームの中で、かすかな敵の足音に気付くためにはまず、S/Nの良さが必要であり、さらにさまざまな音を明瞭に描き分ける再現性など、いわゆる高音質が求められることになる。

 とはいえ、音質にこだわるならば、電源やCPUなどが発するノイズの影響を避ける意味でも、外付け型サウンドカードの方が有利ではないか。そう思う人も少なくないだろう。実際、PCゲームとは異なるが、パソコンでハイレゾ音源などを再生するPCオーディオの世界では、信号をノイズに強いデジタルのまま外に出せる外付型のUSB DACを組み合わせるのが主流だ。

 ところが、PCゲームの世界では、やや事情が異なるようだ。サウンドカードには、ゲームの音をそのまま出力するだけでなく、音質調整やバーチャルサラウンド機能などが盛り込まれるが、外付け型サウンドカードの多くは、そういった機能をソフトウェアで処理するものが多いそうだ。AE-9はもちろん、Sound Blasterの内蔵型サウンドカードは、こうした処理を専用のDSPを搭載してハードウェアで行なっている。この差はもちろん、パソコン本体のCPU負荷の大小となる。PCゲームでは、パソコン自体のCPU負荷も大きいし、さらにはボイスチャット、ゲーム映像の録画など、多くのソフトウェアを同時に使用することが多く、CPU負荷はできる限り低減したい。CPU負荷が大きくなり、万一ゲームの処理に遅延が生じれば、勝敗が左右されかねないからだ。

 ここまでこだわるのは、プロゲーマーやそれを目指す人たちだけと思う人もいるかもしれないが、実際は逆。ほどほどの予算のパソコンで、ボイスチャットもしたい、動画を記録してゲーム実況もしたい、そうなるとPCの負荷はどんどん大きくなる。10万円を軽く超える最新CPUに換装することを考えたら、サウンドカードを増設した方がコストは安い。

オーディオ機器の回路設計と同じレベルの高音質設計

 ともあれ、そんなユーザーのための内蔵型サウンドカードだが、肝心のノイズの問題は大きなデメリットだ。そのため、AE-9ではノイズ低減をはじめとする本格的なオーディオ機器に匹敵する設計が施されているのだ。

 まずは、AE-9の概要から紹介していこう。PCI-Eインターフェイス接続型のサウンドカードで、内蔵するサウンドカードとは別に、外付け型のACM(オーディオ・コントロール・モジュール)が付属する。そこには、ディスクリート構成のヘッドホン「XAMP」が内蔵されており、ハイインピーダンスのヘッドホンも駆動できる左右独立構成の仕様となっている。さらに、オーディオ入力端子、ファンタム電源対応のマイク入力端子なども備えている。サウンドカードと別体ボディとすることで、使い勝手を高めているわけだ。ちなみに電源はサウンドカードから供給するので、配線はサウンドカードと接続するケーブルだけだ(1本)。

AE-9付属のオーディオ・コントロール・モジュール(ACM)の内部。オーディオ的な作り込みがされている

 AE-9本体は、5.1chのサラウンド音声出力(光)と、光デジタル音声入出力、ACM用出力を備える。実はこのほかに、ACMに電源を供給するための6ピンPCI Express電源用コネクターも備える。使用するDACチップは、フロント用にESS社の「ESS9038 DAC」、サラウンド用に「ESS 9006」を搭載。このほかに、Sound Blaster独自の信号処理チップを2基搭載する。オーディオ、AVに詳しい人なら、DACチップを見るだけで、AV機器やオーディオ機器で使われているものがぜいたくに使われていることが分かるだろう。

AE-9の基板

 もちろん、それだけではない。フロント用とヘッドホン出力用のオペアンプは左右独立構成で、しかも好みに合わせて変更も可能。また、オーディオ回路には、ニチコン製の「Fine Gold」コンデンサーを採用するなど、ノイズ低減も重視したこだわりのオーディオ設計となっているのだ。基板を覆っているカバーもただの飾りではなく、周囲から飛び込むノイズを遮断するシールド板だ。

 また、ユニークなのが、6ピンPCI Express電源用コネクター周りの回路。大型コンデンサーも備えたもので、面積も基板全体の1/3弱くらいある。これはノイズ対策のための回路で、PC電源部からのノイズを低減しているという。この部分は、実は、製品の発表後にノイズ対策が充分でないことがわかり、出荷を半年遅らせて回路の改善(当該箇所をほぼ全交換)をしたそうだ。

AE-9の旧仕様の基板。PCI Express電源用コネクター周りの回路が、本製品とは全く異なっている

 まさしく「ここまでやるか!」と驚くレベルの作りで、立派なオーディオ機器の設計とあまり変わらないとさえ思う。ここまで徹底してノイズ対策を行ない、S/Nや歪みの少ない高性能DACや高音質パーツを使うことで、内蔵型でもノイズの影響のない優れた音質を実現したわけだ。

いよいよ自宅でAE-9を手持ちのパソコンに接続、試聴へ

 さっそく、AE-9をお借りして自宅のパソコンにセットした。タワー型筐体はメンテナンス性にも優れるので、ビデオカードやサウンドカードの増設などは素人でもそれほど問題なく行なえる。もちろん、AE-9の場合は電源の接続も必要になるので、マニュアルに従ってていねいに作業をしよう。

自前のパソコンの筐体内に装着したAE-9。電源を含めて接続はよく確認しよう

パソコン背面から端子部を見たところ。左から光デジタル入力、光デジタル出力、サラウンド用出力端子×2(ステレオミニ)、フロント出力端子(RCA)、ACM用接続端子となる

 接続が完了したらパソコンを起動し、クリエイティブ・メディアのサイトから、ドライバーや「Sound Blaster Command」などのソフトウェアをダウンロードして、インストールする。あとは「Sound Blaster Command」から、各種の設定を行なえば準備完了だ。

「Sound Blaster Command」の起動画面。サラウンド効果などをプリセットした「SBXプロファイル」の選択画面。好みに応じて選ぶほか、カスタマイズも可能だ

 「Sound Blaster Command」を起動したら、まずは「再生」を選んでオーディオデバイスの設定をしよう。今回は純粋なオーディオの実力を試すため、スピーカー出力はステレオ出力としている。5.1ch出力を選んでサラウンドシステムと組み合わせることも可能だ。

 大きなポイントは「ダイレクトモード」。これは、バーチャルサラウンド機能や音質処理などをすべてキャンセルし、信号を忠実に処理するためのもの。これを使うことで、最大で384kHz/32bitの信号に対応できるようになる。DACチップの能力をフルに活かせるモードだ。

再生設定の画面で、再生デバイスをスピーカーとした状態。Windowsのコントロールパネルでの設定は不要で、すべてこの画面で設定を行なえる。中央下にある「ダイレクトモード」に注目!

「イコライザー」の調整画面。さまざまなプリセットが用意されており、好みに合わせてカスタマイズすることができる

スピーカー構成の詳細設定。スピーカータイプの選択は、使用するスピーカーに近いものを選ぶ。「カスタム」では、サブウーファーとのクロスオーバー帯域の調整が可能だ

再生設定でヘッドホンを再生デバイスに選んだ状態。こちらはステレオ出力のほか、バーチャル7.1ch出力が選べる

ヘッドホン構成の詳細設定。「選択」の項目では、クリエイティブ製のヘッドホンなどがリストにあり、同機種を使用する場合は音質などが最適化される。バーチャル7.1ch出力をライン出力することも可能だ

 ではいよいよ試聴してみよう。再生ソフトは「Foobar2000」を使用した。Foobar2000側の設定で、AE-9のオーディオドライバーを選べばいい。AE-9のオーディオ出力は自宅のオーディオシステムに接続している。

 さっそく、よくクラシック曲を聴いてみたが、ノイズ感のないクリアーな音に驚かされた。ノイズが多いと、ひとつひとつの音の粒立ちが悪くなるし、音楽全体が靄にかかったように不明瞭な感じになるが、そうした様子はいっさいなく、一般的なオーディオ機器を使った再生と何も変わらない。PC内蔵のサウンドカードでこれだけS/Nの良いオーディ再生ができるというのは、ちょっと意外だった。

 192kHz/24bitの音源もそのまま再生でき、奥行のあるステレオイメージが目の前に広がる。音質自体も楽器の音色が忠実に再現され、たくさんの楽器が一斉に音を出すような場面でも混濁感がない。ボーカル曲を聴くと、ボーカルは実体感がしっかりと出て、強弱のニュアンスや吐息のようなかすかな音までクリアーに描く。これはなかなかのもの。

 ヘッドホン出力に切り替え、ゼンハイザーの「HD800」で聴いてみたが、ハイインピーダンス(300Ω)で鳴らしにくいHD800をしっかりと駆動し、低音も力強く鳴る。ヘッドホン再生では、ノイズの少なさや細かな音の再現性に優れていることが特によく分かる。音質も含めて、立派なオーディオ機器の音だ。

 最後にヘッドホンでゲームもやってみたが、たしかに細かな音がよく聴こえるので、プレイがしやすい。バーチャルサラウンドは臨場感が豊かで、筆者のようなゲームは好きには、こちらの方が臨場感があって楽しいはずだ。いずれにしても、これがパソコンに内蔵したサウンドカードだと思うと、その音の良さに改めて感心する。

鳥居宅の自作パソコンにAE-9を取り付けたところ

PCゲームを楽しむ人にはおすすめの逸品。ゲームがますます楽しくなる!

 e-Sportsの普及で、ゲーミングPCやタワー型の大きな筐体も珍しいものではなくなってきているし、ネット動画ではゲーム実況をする人も多く、ネットゲームではボイスチャットが必須になりつつあるほどだ。このようなパソコンならではの多彩なゲームの楽しみを満喫するなら、Sound Blaster AE-9やSound Blaster AE-7はおすすめのアイテムと言える。また、これだけの高音質で、しかも本格的なマイク入力やオーディオ入力も備えるので、歌や演奏を録音するような使い方でも充分に有効だろう。もちろん、パソコンで音楽を楽しむPCオーディオ派の人にもおすすめ。パソコンで良い音を求める人はぜひとも注目してほしい。