新人監督とアーティストがコラボする音楽・映画プロジェクトMOOSIC LAB2018で準グランプリを獲得した「暁闇」が現在、渋谷ユーロスペースでレイトショー公開中だ。監督は、これまで4本の演劇作を手掛け、本作が初監督作となる俊英・阿部はりか。誰にも言えない葛藤を抱えながら無為な日々を過ごしている3人の中学生ユウカ・コウ・サキ。彼・彼女らの人生がとある出来事をきっかけに交差し、並走していくさまを、冷徹な眼差しで映像化した注目作だ。

 ここでは、ユウカを演じた中尾有伽、サキを演じた越後はる香の二人にインタビューした。ちなみに出演は、それぞれオファーによって決まったのだという。

――出演おめでとうございます。まずは、出演が決まった時の感想をお願いします。

越後 私にできるのかなっていう不安がまず、大きかったですね。というのも、台本を読んでみたら、サキと自分の重なる部分があまりなかったからなんです。でも、読み込んで行くうちに、やってみたいという思いが強くなりました。

中尾 阿部監督とは、この作品の前に上演した舞台に、2本出演させていただいた経験があって、その時から、監督の作る脚本は言葉のチョイスとか演出の仕方がすごく好きだったし、ニュアンスがしっくりきて(演じていて)とても心地よかったので、もし映画を作るのなら、一緒にやりたいなってずっと思っていたんです。そんな時に本作の企画が動き出して、監督から「出てくれる」と乞われて、「はい」って即答したのは覚えています。当初の企画から内容は少し変わりましたけど、言いたいこと(テーマ)は変わっていなかったので、舞台と同じように、役にはすんなり入れました。

――物語では、お二人よりも少し若い中学生の葛藤が描かれています。共感する部分はありましたか?

越後 はい。自分とは違いますが、役の年齢が私に近いこともあって、台本を読みこんでいくうちに、スッと私の中に入ってきました。

中尾 行動の部分というよりは、心情の部分に根底にすごく重なる部分はありました。何をしても満たされない、やるせないという気持ちは、わたし自身も持っています。何より、阿部監督の気持ちがたくさん詰まっている作品だなと感じていたので、その気持ちに嘘がないように演じたいと、脚本を読んで強く思っていました。

――やはりそこには、監督の当時の心境・心情が反映されているのでしょうか?

越後 そうだと思います。現場では特にそういう話はしませんでしたけど、「監督がずっと描きたかったこと」なんだろうなと思いながら演じていました。加えて、音楽を作ってくださったLOWPOP LTD.さんも、「コウとユウカとサキを全部足して割ったら僕になる」って仰っていました。

――現場で変わった、あるいは深くなっていったことはありましたか?

越後 私に関しては、特にこうしてほしいということはなかったですね。私が持ってきたもの(役作り)でやってほしい、という感じでした。

――越後さんのキャラクター&役作りは、監督の思っていたものとぴったりだった、と。

越後 そうだとうれしいですね。でも、私の中でも探り探りな部分はあって、現場で実際にコウとユウカと関わっていく中で、サキ像が出来上がっていったのかなと思います。

――中尾さんは?

中尾 私も特にこうしてほしいということはありませんでしたけど、一つだけ、ユウカはもう少し明るい子だよ、という指摘は受けました。先ほどお話したように、監督は演劇出身なので、事前の本読みは入念に行なうんです。その際にユウカはこういう子なんだよと教えてもらっていましたけど、べースとなった舞台の役に、私自身引っ張られるところがあって、少し暗めな女の子とイメージして演じていたんです。

 そうしたら、コウとサキは家が大変で、無気力というか、人と関わることを避けているので、基本陰キャラなんだけど、ユウカまで暗くなっちゃうと、みんな沈んじゃうでしょって(笑)。そこで、内面は暗いんだけど、表面上は明るいっていう役にしてみたんです。明るくて、ちょっとバカで、本当はみんなのことが好きだけど、それが言えなくて、どうしていいのか分からない……という女の子ですね。

――そう伺うと、ユウカの立ち位置がよく理解できました。ところで、ユウカの家庭環境は劇中ではあまり描かれていませんが、その理由は?

中尾 描かれてはいるんですよ。学校から帰ってくるという1シーン――帰ってきて、廊下を通って自分の部屋に行くまで――に、すべてが凝縮されています。そのロングショットの映像には、家の中はぐちゃぐちゃで、食器も洗われていない状況が映し出されて、きっと、掃除や洗濯をする人がいないんだろうな、ということが表現されていると感じました。

 加えて、ユウカは親との交流もないんだろうと思います。ただ、家は立派なので、片親(離婚はしていない)ではなく、二親が揃っているけど、帰ってこないので一人で生活している、という風に考えて演じました。

――一方で、サキの両親は登場からハードでした。

越後 そうですね。でも、二人ともサキのことを想っているという部分は同じだと、感じています。

――そして、サキ自身にも秘密があります。

越後 自分のしたことを隠すために、自分を守るためにという行動ですね。そこは映画を観て確認してほしいです。

――ところで、ユウカはなぜ出会った相手に首を絞めてと言うのでしょう?

中尾 (学校に)友達はいるけど、悩みを話すような性格でもないし、1度目のナンパの時は、遊び半分という感じだと思います。2度目にコウの父に頼むときは、本気でもうどうなっても良いと思っています。基本的に自分の気持ちに嘘をついている(そのことは自分でも気づいていない)ので、感情が制御できず、徐々行動や言動に「死にたさ」みたいなものが少しずつ現れたのだと思っています。

――そんな二人がとある出来事を通じて屋上へ行き、コウと出会って変わっていきます。

越後 サキにとっては、自宅にも学校にもずっと居場所がなくて、唯一音楽だけが自分の安心できる場所だったはずなんです。それが、ある日突然なくなってしまって……。でも、ユウカとコウと出会うことで、新しく屋上という居場所が出来たと思うんです。劇中では、サキが(屋上で)寝ているシーンがあるんですけど、(サキにとってそこが)安心できる場所になったということを表しているシーンだと思っています。

――ユウカは、屋上に行くきっかけを作りました。

中尾 (ユウカは)ずっとギリギリのところで生きてきたけど、それまで支えにしてきた音楽が突然なくなってしまってもう、限界を超えてしまいそうな状態に陥ってしまったと思うんです。そこで、後先考えずに、同じ音楽を聴いていたことが偶然に分かったサキに声をかけたんだと思います。

――さて、そんな穏やかな日常にも変化がやってきます。ラストシーンの3人についてはどのようにお考えでしょう。

中尾 皆さんにも、夢か現実か分からなくなるような経験はあると思いますが、まさにそれなんだろうって感じています。自分(ユウカ)にも、本当かどうかが分かっていないふわふわした状態なんです。監督は何も言ってくれないんですけど(笑)、逆にそうした曖昧さを残したものこそが、映画なのかなって思います。

越後 私は、花火大会の後の目覚めるシーン、その前全部が――3人が出会うところも含めて――夢じゃないかなって思っていました。でも、監督はどっちですと明言されていないので、観た方が受け取ったもの、感じたもの、そのままでいいんじゃないでしょうか。

――夢か現実かはさておき、そうした経験(?)を経て、3人は変わって行きます。

越後 サキは3人の中では一番子供っぽくて、二人(コウとユウカ)は、もうあそこへは行けないんだって感覚的に分かっていると思いますけど、サキは、それを理解したくない(できない)から、お母さんに抱き着くしかなかった、と。

中尾 もう会えない、(屋上に)行けないということは、分かっているんだけど、(実際に目にするまで)分かりたくないという気持ちのほうが、ユウカは強いと思うんです。何事にも気づかないふりをしてきたので、たとえば、自分にとって友達はすごく大事な存在で愛されているって分かっているはずなのに、気づかないふりをしているんです。だから、コウとサキに会えないことが分かってしまったら、ホントになってしまうので、分かりたくないふりをしているんです。でも、街を歩いていて、本当に(ビルが)ないことで、分からざるをえない状況に出くわして……というのがラストシーンだと思っています。

――泣いていました。

中尾 ビルがないこと、もうそこへは行けないことをようやく理解して、コウとサキを大好きだった自分に気づいて、あの時に戻れない悲しさを感じています。それと同時に、自分を大切に思ってくれる友達がいてくれるということも、キコとミユに抱きしめられることで改めて実感しています。あの涙は一つの単純な感情というよりは、たくさんの気持ちが混ざって、自分でもよく分からなくなって泣いている状況でした。でもいま思うと、ラストまでユウカはみんなの前で感情を大きく表すことはなかったので、あの時また新しく「ユウカ」が生まれたんだなぁと感じています。生まれたばかりの赤子みたいにわんわん泣いて、それでここからまた、物語が始まる気がしています。

――みんなそうですね

中尾 サキにはお母さんがいるし、コウも彼女と仲良くなろうとしているし、みんな自分のことを抱きしめてくれる人が近くにいるんだっていうことを、最後に理解する。それがラストに来てよかったなと思います。

――最後に、LOWPOP LTD.さんの曲の感想をお願いします。
 
中尾 出演が決まった時は、彼の曲を使うことは知らなかったんです。映画のティザー映像を撮るときに初めて聞いて、曲が素晴らしすぎて泣いてしまったんです。カメラが回っているのにボロボロ泣いてしまって。

越後 私も撮影が始まるまで、曲のことは聞かされていなかったんです。現場で初めて聞いて、作品のテーマにすごくフィットするし、映像と音楽が合わさって完成したら、すごくよくなるんだろうなって感じました。韓国で上映した時に、初めてLOWPOP LTD.さんにお会いして! すごく優しくて、綺麗な方だなって思いました。

中尾 そうそう、すごく綺麗な男の子でした。

映画「暁闇」
渋谷ユーロスペースでレイトショー上映中 ほか全国順次公開

<キャスト>
中尾有伽、青木柚、越後はる香 ほか
<スタッフ>
監督・脚本・編集:阿部はりか
音楽:LOWPOP LTD.
撮影:平見優子
企画:直井卓俊
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
宣伝協力:MAP
(C)2018 Harika Abe/MOOSIC LAB

映画「暁闇」 https://moonlessdawn.com/
中尾有伽 http://www.name-mgt.co.jp/models/profile/name/yuukanakao
越後はる香 https://www.sma.co.jp/s/sma/artist/377?ima=0000#/news/0