キング関口台スタジオは7月30日、ダイレクト・カッティングによる録音サービス開始のデモンストレーションとして、4組のアーティストを招いてのダイレクト・カッティング作業の模様(実演会)を報道陣に公開した。

 ダイレクト・カッティングとは、アナログレコードのマスター制作(カッティング)の手法の一つで、通常はミュージシャンやアーティストの演奏を一度録音し、その音源を使って行なうが、ダイレクト・カッティングでは、その名の通り、生演奏を直接マスターに刻み込み込んでいくものとなる(つまり一発作業)。

実演会で使用した「VMS70」

 キングレコードではかつて5台のカッティングマシンを擁して、アナログレコード制作を行なっていたが、音楽コンテンツが徐々にアナログレコードからCDへとシフトしてく中、1984年にマシンを2台へと削減。その2台も、1991年にはノイマン製のマシン「VMS70」を稼働停止に。その後2004年には、ノイマン製マシンにマスタマイズを行なった「VMS66」を稼働停止にしていた。その2台は運よく廃棄を免れ、現在まで保管されていたという。

修理中の「VMS66」

「VMS66」用の真空管アンプ部。筐体はタワー型で、ファミリー用の冷蔵庫ほどの大きさ

 その後、世界的にアナログレコード制作への機運が高まっていることを受け、再度、アナログ制作の開始に向けたチャレンジが始まり(2年前)、およそ1年半の期間を経て、まずはVMS70の再稼働が実現。本日の実演会開催となった。

アナログ・カッティングの再稼働への道のりを語ってくれたキング関口台スタジオの高橋邦明氏

 なお、同社オリジナルのカスタマイズが施されているVMS66についても、現在改修作業が行なわれている最中であり、しばらくの後には、2台のカッティングマシンの稼働が可能になるという。結果、キング関口台スタジオでは、一つのカッティングルームに2台のカッティングマシンが常設されるという、世界でも稀なシステムを持つスタジオとなる。

 さて、実演会は2部構成で進み、1部ではチェロ奏者の辻本玲氏の演奏によるダイレクト・カッティングが行なわれ、生演奏のすぐあとには、ダイレクト・カッティングほやほやの盤をスタジオまで持ってきて、その場で再生するという趣向も披露された。自らの演奏を聴いた辻本氏は、「いい意味で、雑味がたくさん入っていて、いいなと思った」と素直な感想を口にしていた。

チェロ奏者の辻本玲氏。楽器は1724年製のアントニオ・ストラディヴァリウスだ

辻本氏の演奏をダイレクト・カッティングした盤。会見場(スタジオ)で再生していた

 その後、休憩をはさみ、冒頭に記したように4組の奏者によるダイレクト・カッティングが実演された。今後、それを元に東洋化成でプレスを行ない、2枚組のLPにするという。非売品だが、プレゼントの予定もあるそうなので、興味のある方は、続報をお待ちいただきたい。

ヴァイオリン奏者の米元響子氏。楽器は1727年製ストラディバリウスだ

ピアノ奏者の上原彩子氏

オンド・マルトノ奏者の大矢素子氏。オンド・マルトノとは、20世紀初頭にフランスで開発された電子楽器。開発者のマルトノ氏の名を関したオンド=電波、波を使った楽器という意味

オンド・マルトノ楽器の一群

上の写真左のホームベース型楽器の裏側

本日の実演の模様を収録したアナログ盤は、2枚組LPでパッケージ化(非売品)。先にジャケットが完成していた