ゲーミングやPC用モニターで多くの人気モデルを発売するBenQ(ベンキュー)。同社ではその他にも業務用、家庭用プロジェクターを多くラインナップしている。中でも注目が、4K解像度の映像を再現できるDLPプロジェクターだ。StereoSound ONLINEではそんな4K DLPの魅力を徹底検証する短期連載をスタートする。第一回はリビングシアター向けの「HT3550」を藤原陽祐さんの山中湖スタジオに持ち込んで、じっくり視聴してもらった。(編集部)。
いまから15年以上も前から、DLPプロジェクターの心臓部となるDMD素子を手がける米国TI(テキサス・インスツルメンツ)と密接な協力関係を確立し、いち早く4K対応のDLPプロジェクターを製品化したBenQ(ベンキュー)。現在、DLPのリーディングメーカーであることは間違いないが、とりわけ日本を含めたアジアパシフィック地域での評価が高く、家庭用4Kモデルについては直近のデータ(Future Sourceより)において、トップシェアを獲得しているという。
ここで紹介する「HT3550」は、リビングシアター向けに開発されたBenQの主力となる4Kプロジェクターである。明るさ重視のスタンダードモデルだが、画質へのこだわりは強く、HDR表示はHDR10(主にUHDブルーレイ、Netflix、Amazonビデオなどで採用)、HLG(新4K衛星放送などの放送系メディアで採用)ともに対応済み。色再現についても、制作者が意図した色彩を目指したという独自技術、Cinematic Colorをサポートし、BT.709色域を100%、DCI-P3を95%カバーしている。
現在、家庭用DLPの4Kソリューションは、0.65型DMD素子(画素数は水平2716×垂直1528)で2度書きする方式と、0.47型DMD素子(画素数は水平1920×垂直1080)で4度書きする方式の2通りが存在するが、本機のシステムは後者。上下左右4方向に可傾する特殊な光学素子との組み合せで、フルHDのデータを時計回りに0.5画素ずつずらして、次々に表示していくわけだが、2度書方式に対して、コントラスト比では素子の大きさの制約もあって、やや不利になるという。
そこでHT3550ではより高速制御が可能な新世代パネルを投入。結果として、DMD素子上の微細なミラー(画素)の可動域が拡がり、コントラストが向上。同時に16対9アスペクトとなったことで、画面上下の黒浮きも改善している。
ランプとDMDの間に配置されるカラーホイールは、RGB×2の6セグメント構成で、1フレームに画像に対してRGBフィルターを計6回通す、いわゆる6倍速仕様。3D表示もサポートしているが、この場合、解像度はフルHDとなる(視聴用メガネは別売)。
投写レンズは10枚8群のオールガラス仕様の1.3倍ズームタイプ。60インチなら1.48mで、100インチでも約2.5mで投写できる短焦点設計としている。レンズシフトについては、上方向に10%と可動域は限られるが、自動台形補正機能は搭載済だ。
では早速、その画質を確認してみよう。日頃から見慣れているBDソフト(『恋に落ちたシェイクスピア』『きみに読む物語』など)、4K UHDブルーレイ(『グレイテスト・ショーマン』『アリー/スター誕生』『ボヘミアン・ラプソディ』など)を中心に、「シネマ」や「HDR10」モードで再生してみたが、持ち前の明るさ、鮮やかさを生かした穏やかな調子の絵づくりで、奥行方向に拡がる空間描写も悪くない。
見た目の解像感、フォーカス感も良好。意図的に輪郭を立てたり、黒を無理に引き込んだりするような人工的な補正もない。あざとさを感じさせない正攻法の絵づくりには好感がもてる。2K/4K変換については標準的な仕上がりで、輪郭の細さ、平坦部のディテイル描写といった部分で、素性のよさを感じることができた。
続いてBenQのロングランモデル「HT1070+」(2014年発売のフルHDプロジェクター)と見比べてみたが、画質の違いは明らかだ。テストチャートを表示すると、両機種ともにフォーカスが均一で、画歪みもほとんど気にならないレベルに抑えられている。
ただ4K動画再生(UHDブルーレイをプレーヤー側で2Kにダウンコンバートした映像)となると、多彩な表情を持つフェーストーンといい、髪の毛のグラデーションといい、微妙な色調の描きわけ、細部の描写力と、HT3550の4K表示の優位性は明らか。
当然ながら、『アリー/スター誕生』『ボヘミアン・ラプソディ』などの4K/HDR作品については2K/SDR再生となり、ハイライトの伸び、黒の締まり、深みのある色彩と、明確な差があり、変換なしのダイレクト表示の強みをまざまざと見せつけられた感じだ。
最後に新4K/8K衛星放送の録画番組をHT3550で確認してみよう。ラグビー中継、宝塚歌劇、映画作品と、HDDに録画した8K番組をチューナーで4Kにダウンコンバートして視聴したが、見た目のフォーカス、輪郭がキリッと引き締まった、癖っぽさのない、素直な絵づくりは健在だった。
HDR(HLG)収録番組については、赤の表現がやや強調される傾向があるが、これは画質調整(赤のゲイン調整)が有効。全体の色調を暗部、明部と確認しながら、RGBのバランスを整えていくといいだろう。
私がもっとも感心させられたのが、8K/SDR収録の『マイ・フェア・レディ』だ。一定のコントラスト感を確保しつつ、暗がりのオードリー・ヘップバーンの顔色、ライトアップされる豪華な衣装を確実に描き出し、しかもその表現がオーバーになりすぎず、明るさの変化による違和感もほとんどない。
コンパクトな本体、6畳間で100インチ表示が可能な短焦点設計、そして持ち前の明るさを生かした自然体の絵づくり。リビングシアター用プロジェクターとして、理想に近いモデルと言えるだろう。
6畳間で100インチを再現。HT3550は使い勝手も良好
「HT3550」の主なスペック
●表示デバイス:DMD(水平1920×垂直1080画素)
●投写解像度:水平3840×垂直2160画素
●明るさ:2,000ANSIルーメン
●コントラスト:30,000対1
●レンズ:F=1.9〜2.47、f=12〜15.6mm
●ズーム比:1.3倍
●接続端子:HDMI入力2系統(HDCP2.2)、USB端子2系統、光デジタル出力1系統、オーディオ出力1系統(ミニジャック)、他
●寸法:W380×H127×D263mm
再生するソースに応じて、最適な映像調整も可能