JVCケンウッドは、7月23日〜24日に秋葉原UDXで「JVCKENWOOD SOLUTION FAIR 2019」を開催した。これは同社が得意とする「映像」「音響」「無線」といった技術を活かし、B to BやB to Cでの課題を解決するソリューションを発表するものだ。

 会場には13のテーマに分けて様々な技術を展示。さらに様々なセミナーも開催されていた。今回はその中から映像・音響に関連したものをピックアップして紹介したい。

「8K/e-shiftプロジェクター」

120インチスクリーンに投写された8K/e-shift映像。ネイティブの8Kをサーバーから再生していた模様

 JVCのプロジェクターは、StereoSound ONLINE読者にも馴染の深いアイテムだろう。同社では家庭用の「DLA-V9R」の他に業務用として8K/e-shiftを搭載した「DLA-VS4700」や4Kモデルの「DLA-VS4600」「DLA-VS4550」を発売している。

 VS4700は、外見はDLA-Z1によく似ている(レンズ部の仕様は異なる)。本体サイズも幅500mm、奥行703mmとDLA-Z1に近い。搭載されたD-ILAチップは0.69インチの4K(水平4096×垂直2160画素)で、基本的にはV9Rと同じものだという。それを使い、いわゆる画素ずらし技術でスクリーン上に8K解像度を再現する仕組もV9Rと同様となる。

 ただし、VS4700にはディスプレイポートが4系統搭載されており、ここからネイティブの8K信号が入力可能だ。それを8K/e-shiftで投写することで、4K/e-shift以上にクリアーで微細な情報を備えた映像として再現できることになる。

左が「DLA-VS4700」で、右は「DLA-V9R」。「DLA-VS4700」は市場想定価格1000万円前後とか

 会場には全暗環境の視聴ブースが準備され、VS4700とV9Rの映像を確認できるようになっていた(スクリーンサイズは120インチ)。まずVS4700で見る8K/e-shift映像は、情報量がとにかく多く、同時にヌケがいい。

 スカリツリーを上空から捉えた映像では、建造材のひとつひとつや、地上を走る車のテールランプまで確認できた。また渋谷のスクランブル交差点の映像では、周囲のビルの看板の文字が読めるし、歩いている人の服の色も判別可能だ。しかも自然な距離感が再現されるので、ビルの立体感が明瞭になるし、空撮シーンなどでは足がすくんでしまいそうになった。

 またVS4700は4K/120pの再生も可能という。今回は4K/60pと120pの違いもデモされたが、CGのレース映像などでは路面のアスファルトのディテイル感、コース周囲の岩肌や木々が横方向に移動していく際のぼけ具合などにはっきりと違いが現れていた。VS4700はCGのシミュレート映像を上映する機会も多いというから、120pへの対応は重要なのだろう。

 最後にV9Rで、8Kを4Kにダウンコンバートしてディスクに焼いたコンテンツも上映された。4K/HDR素材を8K/e-shift+MPC(マルチプル・ピクセル・コントロール)超解像で再生した状態になるが、精細感はかなり高く、なにも言わないでこの絵を見せられたらネイティブの8K映像と勘違いする人も多いだろう。家庭用モデルとしてのV9Rの実力の高さが再確認できたデモだった。

「立体音響技術」

スマホのマイクを使って、外来ノイズがある中でも必要な言葉を識別できるというデモ

 現在開発中の技術として、音のフィルタリングやホールのシミュレーションに関するデモも行なわれていた。

 フィルタリング処理は、物理空間の影響(反射波、定在波)で劣化する音質や明瞭性を復元しようというもので、スマホなどを音声操作しようとした際に部屋の響きの影響で言葉が正しく認識されないといった現象を解消する。

 デモではまず、響きのない部屋と外来ノイズがある環境で、スマホの音声識別機能を使った場合にどれくらいの違いがあるかを確認した。その後スマホにフィルタリング機能を追加したところ、同じノイズ環境でもきちんと音声が識別できることを来場者の前で実験していた。現在は外付けマイクを使った測定でフィルターの最適化を行なっているが、将来的にはもっと簡易なやり方も登場してくるのだろう。

 その他にも、マルチチャンネルスピーカー(8K放送の22.2chやライブホールなどの大がかりなシステムを想定)の設置位置の違いによるレベルや位相補正、さらにはホールの音のシミュレーション再生などもデモされた。

会場にはアクティブスピーカーを使った2.0.4システムが設置され、マルチチャンネルのシミュレーション体験も可能だった

 ホールのシミュレーションでは、無響室で録音された楽曲(2ch)を2.0.4システム(フロントL/Rとフロントトップ&リアトップ)で鳴らしていたが、その際にシミュレーションで反射音や残響音を付加することで、あたかも本当のホールで聴いているかのようなサウンドが再生できていた。

 このシミュレーションではホールのCADデータ(部屋のサイズや壁の材質など)を元に響きや残響を算出しているそうで、データさえあれば大きいホールやライブハウスといった違いも再現できるそうだ。

 なお再生する音素材に収録スタジオの響きがあらかじめ含まれている場合は、響きが過剰になる可能性はあるそうだ。その場合はパラメーターで響きの強さを抑えると言った対応もできるとかで、運用の内容によって最適化を図っていきたいとのことだった。

「実輝度表示システム」

 リアプロジェクターによる実輝度表示システムの展示も行われていた。こちらはCGによるデザインシミュレーションの際に、実際の明るさを再現し、開発や検証に役立てるバーチャル・リアリティ・ソリューションという提案だ。

 リアプロジェクターはD-ILAパネルを搭載しており、チップ(2Kや4K)とランプの出力を選ぶことで、様々な解像度や明るさに対応できる。実際に車のデザインの際に、太陽光の強さで本体がどんな風に見えるかなどの検証用として採用された例もあるそうだ。

「高移動度有機半導体TFTによる大型シートディスプレイ」

 最近街中でよく見かけるサイネージ用の大型LEDディスプレイに革新をもたらしそうな技術で、仕様としては「アクティブマトリクスフレキシブルLEDシート」となる。

 これは東京大学 竹谷研究所が開発した、印刷プロセスを使って有機半導体を安価に、かつ大量に製造するノウハウを活用したものとなる。有機半導体は小型化も容易でデバイスの屈曲性(曲げやすさ)も優れているので、これを小型LEDと組み合わせ、フィルムシートに塗布することで、軽くかつ大型のLEDディスプレイが作れるそうだ。

 現在はA2ほどのシートに1万画素のLEDが実装できているとかで、これを複数組み合わせていくことで4Kや8Kの表示が可能になる見込みだという。

「防滴型シーリングスピーカー」

 公共施設やショッピングモールなどでの使用を想定したプロユースの防滴型スピーカーシステムも展示されていた。13.5cmフルレンジの「PS-S215WP」と20cmコーン型+ホーンの「PS-S215WP」のふたつで、どちらもIPX3の防水性能を獲得している。

 防水のための改良点は、これまで表面はパンチングメタルでカバーしていたが、それを樹脂製(耐UV塗装付き)に変更。さらにカバーの裏側に防滴用のシートを取り付けている。また振動板にも耐水、耐UV塗装を加えることで長期の使用にも耐えられるように配慮した。振動板も重くなり、音の透過率も下がってはいるが、スペック的には出力音圧レベルが1dB下がった程度で済んでいるそうだ。

「デザインソリューション」

 製品開発以外のサービスとして、Forest Notesのハイレゾライブ配信が紹介されていた。同社では以前から各地の森に設置したマイクで拾った音を配信するサービスを展開していた。現在は白神山地、やまなし水源地、飛騨高山など8ヵ所の音が試聴可能だ。

 そして先般、IIJ(インターネットイニシアティブ)との協業で、東京農業大学奥多摩演習林の音をDSD5.6MHz、DSD2.8MHz、96kHz/24ビットリニアPCMといったハイレゾで楽しめるサービスもスタートしている。こちらはPrimeSeatという配信サービスの中のコンテンツとして提供されているが、DSDで聞く鳥のさえずりや雨音はひじょうにリアルだ。

 JVCケンウッドでは、こうった取り組みを通して地域社会の活性化を支援したいと考えているそうだ。他にも高齢者に優しい自動車運転のあり方や、聴覚障害を持つ子供たちのためのプログラム「からだできくオペラ」など興味深い取り組みも進められているという。