「時代を超えて再販を繰り返す、歴史的名盤たち。そのマスターテープには、一体どんな音が入っているのだろう?」

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 ステレオサウンド社のある編集者の、そんな想いから、同社の「アナログ名盤コレクション」の企画はスタートしたという。このシリーズは、歴史的名盤の最上の状態のアナログマスターを探し出し、それを余計な加工せずにダイレクトにデジタル化、SACDやDSDデータを収録したBD-ROMとしてリリースするものだ。前回と今回でご紹介しているBD-ROMに収録されているのは、英国保管のオリジナル・アナログマスターテープからダイレクト変換されたDSD11.2MHzファイル。その音質は、マスターテープと比べても遜色がないという。それゆえ、水面下ではリリースに躊躇するレーベル側との間で熾烈なやりとりもあったのだとか。だが、最終的には全面的な協力が得られ、無事発売にこぎつけたそうだ。

ステレオサウンド社から発売されているDSD11.2MHz音源をBD-ROMに収めた「ハイレゾリューションマスターサウンドシリーズ」

正しいマスターテープの音、強い説得力のある音質

 しかし、そんなエピソードを経て本シリーズが世に出た意味は大きかった。これまでスペックだけでしか語られなかったDSD11.2MHzというフォーマットが、作品性と併せた魅力を持って評価される対象となった。いわば、フォーマットそのものの価値が上がったとも言える。また、このハイスペックに対応したコンポーネントの価値も同様に向上したのである。

 DSD信号は、音色や音調を変えたりミックスするような作業が事実上不可能で、基本的にカットやつなぎ合わせ以外の編集作業ができない。そんなDSDファイルを活かすための制作の条件が2種類ある。新録なら、全楽器やヴォーカルを演奏しながらステレオミックスを作りつつ同時に録音する、いわゆる「一発録り」であること。アナログマスターテープからの復刻版であれば、ダイレクトにDSD形式にデジタル化されること。そして両者とも、数値的にはできるだけ高いサンプリングレートでDSD化したものが絶対的に有利だ。ここで紹介しているDSD11.2MHz音源収録のシリーズでは、後者の条件をパーフェクトに満たしている。

 実際にそのサウンドを聴けば、音が出た瞬間にスピーカー周りの空気が一変すること、聴こえてくる楽器の音がとにかく実在感に溢れるのを実感できる。これこそが正しいマスターテープの音なのだと感じられる、そんな強い説得力のある音質だ。

『ロイヤル・バレエ・ガラ/エルネスト・アンセルメ指揮 コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団』(SSHRB-004)¥15,120(税込) ●原盤:RCA Living Stereo ●録音:1959年1月 ロンドン、キングズウェイ・ホール

 『ロイヤル・バレエ・ガラ』は、「くるみ割り人形」「白鳥の湖」などバレエ音楽の名曲を収めた1枚。RCAリヴィングステレオの名盤で制作は英デッカが担当した作品だ。録音を担当したケネス・ウィルキンソンは、他のデッカ作品でも敏腕を振るった伝説的エンジニアで、彼のダイナミックな音づくりを本作でも聴くことができる。リスナーの目の前にオーケストラが出現し、作品の流れと共に壮大な「音の景色」が変わっていく様は圧巻だ。

『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)/ヤーノシュ・シュタルケル(チェロ)』(SSHRB-005)¥15,120(税込) ●原盤:マーキュリー ●録音:1963〜65年 ニューヨーク、ファイン・レコーディング・スタジオ

 『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲/シュタルケル』は、天才シュタルケルによる無伴奏チェロ曲。チェロの実体感が驚異的で、それを情緒豊かに奏でるシュタルケルがまさに眼前に降臨したかのよう。

『ホルスト:組曲「惑星」/ズービン・メータ指揮ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団』(SSHRB-006)¥12,960(税込) ●原盤:デッカ ●録音:1971年4月19日 ロサンゼルス、UCLA、ロイス・ホール

 『ホルスト:組曲「惑星」』は、惑星の名が付けられた7つの楽章から構成される超有名盤。デッカ黄金期を支えたジェイムズ・ロックが録音エンジニアとして参加している。聴きどころは、ダイナミックレンジの広さと全帯域に渡る力感だ。曲の冒頭での静寂さから、段々と楽器の数と音量が上がり、総勢110人を超える演奏家によって響くクライマックスに至る流れは、まさにオーディオ装置の限界を試すものである。

 先の担当者からは「本シリーズは使用するオーディオ機器の限界をより露わにする」との話も聞かされた。実際にあるネットワークオーディオ環境で本作を鳴らそうとしたら、LANケーブルの引き回しや、ルーター、ハブ周りの細かいノイズ対策まで徹底しなくては本領を発揮しなかったそうだ。

 最上の音質を探求する我々オーディオファイルに対し、本シリーズは今できる究極の体験と次世代オーディオへの道筋をもたらす。今後のリリースについては、マスターテープと遜色ない音に驚嘆したレーベル側が慎重になる可能性もあり得るが、個人的には大いに期待しておきたい。そのくらい強烈な音源なのだ。まずは前回と今回ご紹介した6つのタイトルで、至宝の音楽性とオーディオの究極を模索して欲しい。

※DSD11.2MHz音源をBD-ROMに収めた「ハイレゾリューションマスターサウンドシリーズ」の収録楽曲データのファイル形式は、DSD(.dsf)です。映像コンテンツは収録されておりません。再生は、楽曲データをパソコンやUSBハードディスク、NASなどにコピーして行なってください。本商品はBD-ROMをメディアとしていますので、読み込み、および楽曲データのコピーにはBDドライブが必要です。本ディスクは一般のBDプレーヤー、BDレコーダーでの読込み、再生はできません。ご注意ください。

ステレオサウンド ハイレゾリューションマスターサウンドシリーズ DSD11.2MHzデータ入りBD-ROM ●問合せ先:㈱ステレオサウンド販売部 通販専用ダイヤル 03-5716-3239(受付時間:9:30-18:00 土日祝日を除く) 

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