常に“最上の音質”を探求するわれわれオーディオファイルにとって、つい10年ほど前には考えられなかったのがPCM352.8kHz/24ビットやDSD11.2MHzといったハイスペック音源を聴くことだ。それは現時点における音質追求の究極体験と言える。しかし、それはつい数年前までは「数字的に見れば」の話だった。ハイスペックなハイレゾファイルの音質的な優位性は語られてきたが、実際には有名アーティストの新譜や歴史的名盤といった、音楽的に魅力のあるタイトルがほとんど存在しなかったからだ。

 それが、ついに登場したのである。2017年秋にステレオサウンド社から発売されたDSD11.2MHz音源をBD-ROMに収めた「ハイレゾリューションマスターサウンドシリーズ」こそ、われわれが待ち焦がれた「ハイスペック音源による究極の名盤」なのである。本シリーズが世に出たことで、同時にDSD11.2MHz対応機器の存在価値がさらに上がったと言っても過言ではない。

ステレオサウンド社から発売している、DSD11.2MHz音源をBD-ROMに収めた「ハイレゾリューションマスターサウンドシリーズ」

 古今東西、人気の名盤は常に再販、そしてリマスターもされている。音質の面でもさまざまな個性がある。しかし、そもそもマスターテープはどんな音がしているだろうか? ステレオサウンド社では「オーディオ名盤コレクション」(※)としてSACD、CD、そして本シリーズをリリースしているが、このプロジェクトを始めたきっかけは、そこに興味を持ったことだったという。

※「歴史的名演奏・名録音」のアナログ・マスターテープを発掘、最新技術を駆使して「最良の音」に仕上げ、オーディオファン向けのパッケージをお届けするステレオサウンド社プロデュースのパッケージソフトのシリーズ

紆余曲折を経て登場したハイスペック音源による究極の名盤、DSD11.2MHz音源シリーズ

 通常のアルバム制作時、邪魔な音としてカットされてしまう暗騒音やノイズ等の中に、実は音情報として大事なものがあるのではないか……そんな思いを軸に、マスターテープの音再現を目指した企画がスタートしたのである。それは、ユニバーサルレコードが所蔵する歴史的名盤のマスターテープから、SACD、CD、そしてDSD11.2MHz/1ビットでそれぞれをダイレクトトランスファーするという野心的な挑戦だった。

 しかし前例がない企画だけあって、レコード会社への許諾を取るだけでもかなり苦労があったそうだ。完成したDSD11.2MHzファイルの音を聴いたレーベル側の関係者が、そのあまりにもマスターテープと遜色ない音源に驚嘆し、発売中止を求めてきたことすらもあったという。この音源が、いかに強烈な音源であるかを物語るエピソードだ。

 そんな紆余曲折を経て登場したこのDSD11.2MHz音源シリーズは、とにかく音楽の魅力に溢れている。曲が始まる直前=暗騒音が出た瞬間にスピーカー周りの空気が一変するほどだ。マスターテープに記録された微小な音の情報が(ほぼ)すべてがファイルに入っているからであろう。

『ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」/サー・ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ交響楽団』(SSHRB-001)¥12,960(税込) ●原盤:デッカ ●録音:1974年5月14日 シカゴ、メディナ・テンプル

 シリーズ第一弾の『ストラヴィンスキー:≪春の祭典』/ショルティ指揮シカゴ交響楽団』は、ストラヴィンスキーの初期3大バレエの中における名演として知られたタイトル。録音は74年5月で、後に史上最高のエンジニアとの評価を得たケネス・ウィルキンソンがレコーディングした。聴きどころは、眼前に広がる広大で奥行のあるサウンドステージ表現だ。オーバードライブ気味に演奏するオーケストラの音楽的な表現は圧巻。

『ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」/イシュトヴァン・ケルテス指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団』(SSHRB-002)¥12,960(税込) ●原盤:デッカ ●録音:1961年3月22日〜24日ウィーン、ソフィエンザール

 第二弾の『ドヴォルザーク:交響曲第9番≪新世界より≫/ケルテス指揮ウィーン・フィル』は、ドヴォルザークの代表作として聴きどころも多い曲で、特に冒頭の静寂から一気にフォルテシモへつながるダイナミックな音は、強烈。名演奏と名録音が高い次元で両立しており、交響曲をハイレゾで聴く意義を改めて実感させてくれる。

『ストラヴィンスキー:バレエ「ペトルーシュカ」/エルネスト・アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団』(SSHRB-003)¥12,960(税込) ●原盤:デッカ ●録音:1957年10月ジュネーヴ、ヴィクトリア・ホール

 そしてシリーズ第三弾の『ストラヴィンスキー:≪ペトルーシェカ』/アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団』。録音は57年10月と、今回紹介する3作品の中ではもっと古い収録音源だが、一聴してワイドレンジなサウンドだ。冒頭の木管フルートの響きからオーケストラ総奏につながるダイナミックレンジの広さや、深々と広がるサウンドステージの表現も秀逸。これはデッカが採用するマイクアレンジメント、通称「デッカツリー」で拾った音を会場内でそのまま2チャンネルにミキシングして捉えた鮮度の高い音がそのままDSDデータとして収めているからであろう。マスターテープにはここまでの音が入っていたのか、と改めて驚くばかりだ。

 実際にはさらに紆余曲折があったそうなのだが、その続きは、後編につづく。

▶後編はこちら https://online.stereosound.co.jp/_ct/17289658

※「ハイレゾリューションマスターサウンドシリーズ」の収録楽曲データのファイル形式は、DSD(.dsf)です。映像コンテンツは収録されておりません。再生は、楽曲データをパソコンやUSBハードディスク、NASなどにコピーして行なってください。本商品はBD-ROMをメディアとしていますので、読み込み、および楽曲データのコピーにはBDドライブが必要です。本ディスクは一般のBDプレーヤー、BDレコーダーでの読み込み、再生はできません。ご注意ください。

ステレオサウンド ハイレゾリューションマスターサウンドシリーズ DSD11.2MHzデータ入りBD-ROM ●問合せ先:㈱ステレオサウンド販売部 通販専用ダイヤル 03-5716-3239(受付時間:9:30-18:00 土日祝日を除く) 

●購入はこちら→ https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/c/rs_ss_hrm_cls