Artio(アルティオ)ブランドから、頭内定位問題を解決する新技術「WARPシステム」を搭載したイヤホン「CR-V1」と「CR-M1」が、クラウドファンディングにて販売展開されている。カナル型イヤホンでありながら、スピーカーで再生されたかのような空間の再現を目指したというサウンドを、逸早く体感した。

 頭内定位とは、イヤホンやヘッドホン再生で生じる、左右チャンネルの音がそれぞれ空間で混じり合わずに直接耳に届くことによって起きる音の認知であり、本来立体感を伴って空間に定位するはずの音像が、まるで頭の中で鳴っているように聞こえる現象だ。それを和らげるために、左右信号を混じり合わせるクロスフィード技術などがDAPやヘッドホンアンプなどに搭載されているが、これをイヤホン本体の中で、効果的に再現するのが「WARPシステム」技術ということになる。頭外定位の再現は、既にヘッドホンでクロスゾーンが取り組んでいるが、極めて小型な筐体となるカナル型イヤホンで再現しようとしたのが、本機である。その意味でも、大変画期的なプロダクトと言える。

通常、イヤホンでは左右チャンネルの音が混ざり合わない頭内定位となるが、「CR-V1」、「CR-M1」はWARPシステム技術を用い頭内定位を軽減しているという。

WARPシステムの概略図。
帯域、レベル、位相を調整したL・Rチャンネルの信号をそれぞれ反対のチャンネルに合わせ再生する。このことにより音の広がりを感じることができるという。

 両機は、外観上はシンプルなカナル型イヤホンと変わらない見た目で、「CR-V1」は、フロントにチタン合金、ボディにアルミ合金を採用した筐体、「CR-M1」は、オールアルミによる筐体だ。ともにケーブルは着脱式で、イヤホン側に独自の2.5mm端子を採用している。「CR-V1」はケーブルのプラグも金属となっており、より高級感がある外観だ。CR-V1には、「WARPシステム」技術の他に、製造最終段階で音の微調整を可能にして左右イヤホン間の音のバラツキを抑える「s.n.a(Smart Nozzle Adjuster)」技術、両機にはカナル型イヤホン再生で起きるとされる高音域の不快音を抑制する「SkIS (Six kilohertz Intercept System)」技術という同社特許技術が用いられている。

CR-V1、CR-M1ともに2.5mmのステレオミニプラグを用いている。このことからも左右のチャンネルが伝送されていることがわかる。

絶妙な音色で音楽再生が心地よいCR-V1

シルバー筐体のCR-V1。ライティングによりゴールドのような鮮やかなカラーリングに見えるのも一つの特徴だ。
ケーブルは標準のOFC線に加え、銀メッキ線が同梱される。

「CR-V1」を試聴した瞬間に驚かされた。通常のカナル型イヤホンであれば、頭の中に楽器の音像が展開されるところが、本機では、頭の中ではなく、両耳の周辺から額の辺りにかけて、自然な立体感で展開されるのだ。楽器音像の大きさをナチュラルにイメージできるが、それでいて、音像のぼやけや滲みがなく、明瞭な視界を持った、端正な描写なのである。同時に、音像や定位がしっかり描かれながらも、豊かな低域の下支えがあり、決して音の線が細くならない。低音楽器の充実感をしっかりと再現するのだ。突き刺さりがちなピアノの高域やシンバルクラッシュ、ヴォーカルのサ行などが、繊細ながらも硬くならず、むしろ、滑らかな質感を湛えており、絶妙の音色バランスを持っている。音楽再生が心地良く快適で、これぞまさに「SkIS」技術の賜物なのだろう。

描写力としては、高解像な精細さで隈無く描写していく方向性というよりも、楽器の音像ひとつひとつを手前にピックアップする描かれ方だ。楽器や旋律が明瞭に浮かび上がり、音楽の全体像を掴みやすい。音場の再現性としては、さすがにスピーカー再生のような立体感までとは行かないが、カナル型イヤホンでここまでの拡がり感が得られ、楽器それぞれの音像が浮かび上がってくる描かれ方は、他に聴いたことがない。そしてそれが、大変に自然なのだ。

メリハリあるバランスで音楽が描かれるCR-M1

CR-M1は筐体・OFC線スパイラルケーブルともにブラックとなる。
イヤーピースはCR-V1、CR-M1共にfinal E(SS/S/M/L/LL)が同梱される。

一方で「CR-M1」は、音域を問わず一定の密度感を持っていた「CR-V1」に比べると、幾分メリハリ傾向の音色バランスで音楽を楽しませる。ヴォーカルのサ行やシンバルなどの帯域表現は、よりシャープな質感があり、それに伴ってか、ヴォーカルをはじめ楽器の音像はやや細身で描かれる。筐体素材の違いから来る部分も大きいのか、低域再現は、下方向への伸びは変わらないが、剛性感や解像度、そして厚みは、「CR-V1」に譲るようだ。プロポーションとして、低域の量感が豊かで中高域のエッジが立っているような、メリハリあるバランスで音楽が描かれる。なお、音像の立体感や拡がりの傾向は変わらないものの、全体的な解像感の高さに起因するのか、「CR-V1」の方が、より耳の裏側辺りにまで音が拡がる感覚が強く感じられた。

以上、両機は、これまでのカナル型イヤホンでは得られなかった音の立体感や拡がり感を再現する画期的なプロダクトである。頭内定位感を和らげて、自然な聴き心地で音楽を楽しみたい方に是非とも聴いて頂きたい。総じて、非常に興味深いイヤホンであると感じさせられた。

価格や詳細なスペックなどはクラウドファウンディングのプロジェクトページにて確認してほしい。

なお、今週末の7月13日、14日に開催されるポータブルオーディオフェスティバル2019 東京・秋葉原にて「CR-V1」、「CR-M1」の両モデルがArtioブースにて試聴が可能だ。
是非足をお運びいただき、そのサウンドを体感していただきたい。