G404 オーディオテクニカ

 実に11回にものぼる連続試聴会はオーディオテクニカ史上初。さまざまな切り口から沢山のカートリッジを比較試聴できる貴重な機会となった。

 とくに、MC昇圧トランス「AT-SUT1000」、トーンアームケーブル「AT-TC1000」とともにEXCELLENCEシリーズを構成するMCカートリッジ「AT-ART1000」を聴ける機会は稀。コイルをスタイラスチップの真上に配置したことで、カンチレバーの素材や長さの影響を受けず純粋に振動のみを発電の要素にしようという狙い通り、生々しい描写が来場者を驚かせた。なお、好評のEXCELLENCEシリーズには今後も新たなカテゴリーの製品が追加されるという。

EXCELLENCEシリーズのカートリッジ「AT-ART1000」。デモンストレーションでは同じEXCELLENCEシリーズの「AT-SUT1000」やAT-TCシリーズを組み合わせて再生

コイルをカンチレバーの根元でなくスタイラスチップの真上に配置したのが分かる「AT-ART1000」の大型模型も展示

 カートリッジ開発担当の森田さん自身によるプレゼンテーションも興味深かったが、デモンストレーションとして純粋に楽しめたのが、6月21日に発売したばかりのAT-OC9Xシリーズ5モデルを同じ曲で聴き比べるプログラム。

 これらは、ベースは同じながらも、別表のとおり「針先形状」「カンチレバー」「ヨーク素材」等に違いがある製品がラインナップとして提供され、価格順に1番、2番……という発想ではなく、いわば“好み”で選んでもらうという、日本人のアナログ心をくすぐる商品である。

 とくに、AT-OC9X「SL」(特殊ラインコンタクト針)、AT-OC9X「SH」(シバタ針)、AT-OC9X「ML」(マイクロリニア針)は、針先の形状だけでこれほどの違いを生むものかと驚かされる。各モデルには繊細で情報量が多い、音場感が高い、ボーカルを好むといった評価があるが、どのモデルがどんな人向けとは定まっていない。選択基準はそれぞれの製品に加えた味付けではなく、あくまで聴く者の好みというスタンスが日本的なのだ。

 この企画のベースになったのは、針先に互換性がありその交換で違いが楽しめると好評だったVM型の「760SLC」「750SH」「740ML」の経験を受けたもの。今回もアナログのよさを半世紀以上に亘り突き詰めてきたオーディオテクニカのひたむきな物づくりの姿勢が体験できて楽しめた。(遠藤義人)

AT-OC9Xシリーズの5モデル。VMのように針先だけの交換はできないが、ヘッドシェルごと交換すれば違いを楽しめる

AT-OC9Xシリーズの5モデルで同じ音源の岩崎宏美「すみれ色の涙」を再生。比較試聴はアナログオーディオの醍醐味

AT-OC9Xシリーズ各モデルの比較一覧。素材が同じで針先の形状だけが異なるボロンの3モデル試聴がとくに楽しめた