東芝映像ソリューションは、4K有機ELレグザProの新製品として、2シリーズ4モデルを発表した。市場想定価格と発売予定日は以下の通り。

65X930 ¥550,000前後(税別)、7月中旬発売
55X930 ¥350,000前後(税別)、7月中旬発売
65X830 ¥500,000前後(税別)、6月下旬発売
55X830 ¥290,000前後(税別)、6月下旬発売

左から「55X930」「65X930」「65X830」「55X830」

 同社ではこれまで有機ELテレビをレグザシリーズのトップモデルと位置づけてきた。今回はそれを2シリーズに拡大し、選択肢を増やしている。これは同社の“攻めの有機EL戦略”の一環であり、“有機ELはもう特別なテレビではない”という意思表示だろう。

 発表会では、“有機ELはもう特別なテレビではない”理由として以下の3つを挙げていた。

(1)有機ELパネルの輝度向上
(2)焼き付き対策を改善した
(3)より身近な価格を実現した

 この3点を踏まえつつ、同時に映像制作現場のプロにも使ってもらえるクォリティを備えた製品群として、今回の2シリーズには「4K有機ELレグザPro」の名前が与えられている。

 その特徴としては、両シリーズとも4K解像度(水平3840×垂直2160画素)を備え、かつ有機EL
レグザPro専用にチューニングした2019年仕様の有機ELパネルを搭載している。有機ELパネル自体のスペックは大きく変わっていないが、ガンマ特性や輝度特性にチューニングを加えることで、コントラスト性能や階調再現が向上したという。

映像処理エンジンの「レグザエンジンProfessional」

 さらに映像処理エンジンの「レグザエンジンProfessional」を搭載し、「深層学習超解像」「バリアブルフレーム超解像」などのAI超解像技術を活用することで、4K放送や地上デジタル放送などをノイズの少ないきめ細かな映像で再現できるという。

 加えて今回注目されるのが、画質モードに「リビングAIピクチャー」が追加されたことだ。これは、新たに色温度センサーを搭載することで、視聴環境の照度に加えて照明の色まで検出、それに合わせて映像パラメーターの色温度を含めた最適な調整を行なってくれるという機能だ。

 レグザでは同様の機能として「おまかせ」モードを搭載していたが、こちらでは輝度センサーで部屋の明るさを検出、お薦め画質に自動調整していた(設置時に壁の色などを選ぶ)。

 「リビングAIピクチャー」はそれを一歩進めたもので、蛍光灯や電球(色のLED)といった灯りの種類まで識別している。さらに放送の番組情報や映像の種類を識別して観ているコンテンツの種類(映画、スポーツなど)も判別、それに合わせた画質調整まで行なっている。

 なお「リビングAIピクチャー」では8000K(ケルビン)より上の範囲で色温度を動かしているそうだ。灯りを落としたホームシアター環境で映画作品をじっくり楽しみたい場合は、「映画プロ」などの専用モードを選んだ方がいいだろう。

 とはいえ昼間にテレビ放送を見ることが多いユーザーであれば、「リビングAIピクチャー」で充分満足できる画質を楽しめるわけで、普段使いなら、このモードを選んでおけば安心だ。

写真右手前が色温度センサーを搭載した基板。X930では、電源LEDの左横に内蔵されている。

 HDR規格については、UHDブルーレイに採用されているHDR10や4K放送などで採用されているHLGに加え、HDR10+とドルビービジョンにも対応を果たした。つまり現在登場しているすべてのHDR信号が再生できるわけで、オーディオビジュアルファンとしてはとても安心できる。

 ちなみに映像製作者が狙った絵を出すには、「PC/モニター」モードか「ディレクター」モードを選択するといいそうだ。前者は強制的に低遅延モードとなり各種三次元処理はオフとなる。後者は映像調整により三次元処理や超解像処理などをオンすることが可能であり、ユーザー調整の自由度が高いのはこちらだろう。

 なお両シリーズのHDR10+の認証は「ディレクター」モードで、ドルビービジョンは「Dolby Vision Dark」「Dolby Vision Bright」モードで取得している。それぞれのフォーマットのベース画質を確認したい場合は各モードを選んでおくといいだろう。

 発表会場で、ドルビービジョン、HDR10+で収録されたディスクを使ってそれぞれのフォーマットに忠実に再現した場合と、HDR10信号として出力してレグザの「映画プロ」モードで再生して場合の映像を見比べさせてもらった。

 どちらもレンジ感の広い高品位な映像が再現され、4K/HDRとしての魅力を充分楽しめるクォリティだ。ただ、じっくり見ていくと画面全体の輝度感やパワー、暗部階調の再現、輪郭の扱いなどが異なっている。このあたりが絵づくりの狙いの差なのだろう。

 なお「ピュアダイレクトモード」はレコーダー/プレーヤー側で12ビット/4:4:4信号として出力するので、組み合わせる機器の変換能力も影響する。そのあたりについては、お使いの再生機のクォリティにも注意が必要だ。

「プロユース映像分析・設定機能」では「EOTF/色空間」などの強制設定も可能となっている

 またX930、X830シリーズでは、映像制作者向けにさまざまな映像情報の表示やマニュアル設定ができる「プロユース映像分析・設定機能」も搭載している。これは「映像設定」→「映像調整」で「プロ調整」をオンにすると使えるようになる。

 なお「プロユース映像分析・設定機能」のうち、「EOTF/色空間」の強制設定モードが、「映像設定」→「映像調整」→「プロ調整」→「プロモニター設定」をオンすると使用できるようになるそうだ。これらの画質関連機能はX930、X830で共通だ。

 4Kチューナーは全モデルとも2基内蔵しており、4K放送を見ながら別の4K放送を外付けUSB HDDに録画可能だ。

 では両モデルの違いはどこかというと、まずX930シリーズには「タイムシフトマシン」が搭載されている。USB HDDに録画した放送済の番組を過去番組表からすぐに楽しめる機能だ。

 また入力端子にも違いがある。X930は7系統のHDMI入力端子や同軸デジタルオーディオ出力端子を搭載し、多数の外部機器を接続可能。X830はHDMI入力が4系統で、光デジタル出力を備えている。なおHDMI端子はすべて18Gbps対応となっている。

 X930のHDMI入力については、基板パターンを勘案すると入力1〜4の方が経路が短いというメリットがある。一方i/p変換を行なうような信号を再生する場合は入力5〜7がお薦めという。

写真上がX930シリーズの内蔵スピーカーで、下手前が65X830、奥が55CX830用となる

 もうひとつの違いはサウンドシステムだ。

 X930の「有機ELレグザオーディオシステムPRO」は、ボックスの振動を抑え、S/Nの高い低域再生が可能な対向型パッシブラジエーター方式の新型ボックスを搭載した。パッシブラジエーター方式に最適化した新型フルレンジスピーカーと耐久力を向上させた新型シルクドームトゥイーターを内蔵し、総合出力50Wのマルチアンプで駆動している。

 X830は「有機ELレグザオーディオシステム」であり、65インチと55インチでボックスの仕様(形状や大きさ)が異なっている点も注目だ。

 65X830には新開発のダブルフルレンジスピーカーとシルクドームトゥイーターを搭載。55X830には新開発フルレンジスピーカーとシルクドームトゥイーターを搭載している。両モデルともそれらのスピーカーユニットの性能を活かすために充分な容積のバスレフ型ボックスを採用している。

 面白かったのは、会場の65X930でBS4Kの宣伝用クリップを見せてもらった時だ。4K放送をレコーダーの内蔵HDDに録画したものと、それをBD-REに焼いたものを続けて再生してもらったが、内蔵HDDの方が低音の迫力があり、腰の据わった印象に聞こえたのだ。この音の違いが何に由来するのかはわからないが、X930の内蔵スピーカーはこういったソースの違いまで鳴らし分ける能力を持っていることが、しっかり確認できた。