作品の本当の姿に出逢うための「本物」画質への挑戦
プロ用モニターと同じ製品が家庭用テレビとして手に入る
藤原 今回、レグザの有機ELテレビとしては、初めての2ラインナップの展開となりました。
住吉肇 有機ELがもはや特別なものではなく、普通の高級テレビとして広く受け入れられ、市場も拡大しています。そこでX930、X830という2ラインの展開としたわけですが、内容的に両者の違いは、主にタイムシフトの有無だけで、画質は同じです。シンプルに画質を追求したX830を用意することで、プロ用モニターとして通用するディスプレイというコンセプトをより明確に打ち出したいと考えています。
東芝レグザ有機ELテレビのラインナップ
65X930 オープン価格(実勢55万円前後)
55X930 オープン価格(実勢35万円前後)
65X830 オープン価格(実勢50万円前後)
55X830 オープン価格(実勢29万円前後)
藤原 レグザは以前から色温度が任意に選べたり、4:4:4のフル12ビットの信号処理が可能だったり、プロモニターとして使える機能を装備して、実際にポストプロダクションの画質モニターとして使われています。
住吉 従来は専用アプリケーションソフトを加え、プロ用モニターとして使える仕様とした製品を納めていました。今回はそこから一歩踏み込んで、一般ユーザーが使う家庭用製品自体が、プロ用モニターとまったく同じ仕様として設計され、プロ用、家庭用を区別せず出荷されます。
藤原 具体的な仕様を教えてください。
住吉 例えば、HDMI入力時に、プロ用編集機器には、HDR(ハイ・ダイナミックレンジ)識別用フラッグが入っていないため、テレビ側で強制的に設定する必要があります。そこでテレビ側には、EOTF(Electro Optical Transfer Function/電気光変換関数)と色空間を任意に選べるようにしていますし、4種類のHDR(HDR10、HLG、HDR10+、ドルビービジョン)にもフル対応しています。
藤原 家庭用のテレビに制作現場で求められる画質、機能がそのまま入る。そのこと自体が画期的ですし、本誌読者のように画質志向のユーザーにはたまらなく魅力的です。
永井賢一 画質については「ディレクター」モードを選んでいただければ、映像制作用モニターに近い設定になります。
レグザの画質へのこだわり
藤原 今回、映像エンジンも新しくなりました。やはりAI技術が関わっている部分が気になります。
住吉 地デジ/BS、BS4Kと、放送画質の改善に向けた「AI超解像技術」として新しい提案を組み込んでいます。ふたつのポイントがあり、まず人間の脳神経回路を模したニューラルネットワークを多層的にして、より正確で効率的な判断を可能にする「深層学習超解像」が挙げられます。
藤原 概念がちょっと難しそうですね。
住吉 AIの活用はいろいろですが、最終的には1と0の判別になります。例えば、人の有無とか、エンハンスの強弱などを見分けることを得意としています。そこで今回は1と0判定ができるシーン検出に活用しています。
藤原 具体的な効果は?
住吉 たとえば、最近多い地デジのドローン撮影ですが、カメラ側の制約なのか、信号圧縮の影響なのか、総じてエンハンスが強くなる傾向にあります。これを通常の画像と同等に処理してしまいますと、エッジを強調しすぎて、画質的に好ましくありません。そこでAI判定で探し出して、最適な超解像処理を行なうわけです。
藤原 なるほど。
住吉 今後も学習を重ねると、さらに識別率が上がり、判定も精度も向上します。また将来的には別の処理でもAI判定が使える可能性があります。
藤原 ふたつめの項目として「バリアブルフレーム超解像」にもAI技術が応用されているようです。
住吉 地デジや4K放送などの60フレーム収録の映像に対して、これまで3フレームおきに画像内容を見極めて、S/N改善、チラツキ制御の処理を行なっていました。確かな効果が得られる反面、動きの大きなところでチラツキが生じるケースがあって、ひとつの課題になっていました。
藤原 超解像の副作用ですね。
住吉 そこで今回は、動きの量をAIで見極めて、動きが大きいときは参照するフレームをより近づけ、探索範囲に入るように工夫処理しています。フレーム超解像の場合、主に、静止画部分のチラツキやS/Nの向上、そして動きの少ない部分の解像度の復元といった効果が得られますが、AIの活用でより正しい超解像処理が可能になったと言っていいと思います。
自動で最適画質が得られる「リビングAIピクチャー」
藤原 レグザがリードしてきた「おまかせ」画質モードも「リビングAIピクチャー」へと進化しました。
永井 いまから約10年前、コンテンツの内容と視聴環境に応じて、最適な画質をフルオートで提供する機能として「おまかせ」画質モードを開発しました。ただそこで使われている明るさセンサーは輝度のみをセンシングするタイプで、得られる情報も限定的でした。つまり正確な視聴環境を把握するには、絶対的な情報量が足らなかったわけです。今回は視聴環境の色温度をRGBで検知するセンサーの導入に加えて、われわれの研究開発センターからサポートも得ながら、検出精度の高いアルゴリズムを開発することができました。
藤原 画質はどのくらいの範囲で変わるのですか。
永井 センサー自体に16ビット幅の検出能力があります。色温度で換算すると8000Kから12000Kの間で、適宜制御しています。映像モードでいうと、「あざやか」から「放送プロ」の間で適応的に変わるというイメージですね。
使える高画質へ。リビングAIピクチャー
藤原 それはシーンごとに常に変わっていくと。
永井 センサーは前面フレーム部分に仕込まれていますが、その前を猫が横切ってすぐに映像が暗くなるようでは困るので、ある程度の時間が過ぎたのちじわりと反映する設計にしています。それも人間の目の感度を考慮して、明から暗、明から暗では、変化の応答具合を変えて、違和感がないように動作させています。
藤原 コンテンツの判断は?
永井 放送のジャンル情報の活用に加えて、2-2/2-3プルダウンか、純粋な60p収録なのかなど、フレーム情報も見極めて内容を判別します。たとえば映画素材なら、輪郭は抑えつつ階調重視で絵づくりをしますし、ビデオ収録の素材なら、オーバーホワイト(100%以上の高輝度情報)の表現も考慮しつつ、鮮鋭感に富んだヌケのいい映像に仕上げます。またアニメ素材の場合、映画と同じく元々24pで作られていることが多いのですが、処理としては映画素材とは異なり、輪郭をキリッと出した方が好ましいケースが多く、ビデオ系素材に近い映像処理としています。
美麗画質に負けない自然かつ力強いサウンドも追求
藤原 音質面については、X930シリーズにはTOS(光)リンクだけでなく、同軸デジタル出力が装備されていますね。
桑原光孝 テレビとしてはおそらく日本初の装備ではないでしょうか? 今回は有機ELの画質に負けない音質、特に内蔵スピーカーが使われるケースが多い放送視聴時の品位にこだわりました。
藤原 X930ではパッシブラジエーターが採用されていますね。
4K高画質に負けない高音質も追求
桑原 X920から外観デザインはほぼ踏襲していますので、スピーカーの容量は変わりません。その制約の中で豊かな低音を確保しつつ、ポートノイズが生じないパッシブラジエーターの採用となったわけです。低音の持ち味を活かすために、フルレンジユニットにはキャンセルマグネットを装備した強力な磁気回路を奢っています。
藤原 イコライザーにも力が入っていますね。
桑原 テレビの高音質追求では、低域のピークやディップの制御が重要になりますが、今回は4096バンド相当のフィルターを使った「VIRイコライザー」を投入し、そこを徹底的に抑えました。さらにデータ圧縮によって失われた情報が復元できる「レグザサウンドリマスター」を加えることで、自然な定位、豊かな空間が表現できるようになったと自負しています。
藤原 今日はいろいろと貴重なお話、ありがとうございました。
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プロの現場でも使えるディスプレイを目指して開発されたという有機ELレグザの第3世代のX830/X930。実際、X830ではすでに大手のポストプロダクションから引き合いがあり、数ヵ所の導入が決まっているという。制作の現場で通用するディスプレイであれば、おのずと制作者の意図、ディレクターズインテンションの把握が可能。つまりX930/X830を自宅に入れることで、われわれAVファンは、作品の本当の姿により近づくことができるわけで、映画との距離感が大きく変わる可能性を秘めている。
新しい壁掛けスタイルを提案
画質と並んで、超薄型スタイルも有機ELテレビの魅力のひとつだが、その薄さを最大限に発揮できるのが壁掛け設置。ただ日本では、壁面工事への抵抗感からか、諸外国と比較すると普及が進まない。東芝では日本の住宅事情にマッチする「壁掛けスタイルラック」REGZA Wall Boardを提案する。簡単かつ工事不要で壁掛けスタイルが実現できる。ラックはオープン価格で、実売約7万円とのことだ。注目!