オーディオブランドfinalを展開するS'NEXTは6月8日、秋葉原で「イヤホン・ヘッドホンを楽しむための音響講座」を開催。会場には100名もの参加者が集まり、盛況のうちに終了した。ここでは、同講座でレクチャーされた内容を簡潔に紹介したい。

 もともとこの講座は、社員教育の一環として行なわれていたものだそうで、分かりやすくまとまっているのでユーザーにも開放したらどうだろうか、ということで一般向けにも始まったのだという。初回の講座では、10名規模で募集をかけたところ、なんと100名を超える応募があったといい、それを受け今回は、始めから100名規模を想定しての開催に至ったそう(そこに報道陣や評論家も加え、120名規模になった)。ただし、人数を増やしても3日ほどで席は完売したという。

 その内容を掻い摘んで記せば、「いい音とはどういうものか?」になるだろうか。これについて、広く学会などで通説として広まっている内容を、体験型の講義としてレクチャーする、というのが本日の講義の核となっていた。

S’NEXT 技術主幹の濱崎公男氏

 さて講習は、同社技術主幹の濱崎公男が登壇し、107枚にもなるレジュメを元に行なわれた。かなり専門的な内容も含んでおり、講習生が舟をこがないようという配慮から(笑)、全体を12の項目に分けて進行。人はどのように音を聴いているのか? という生物学的なものから、音の要素となる「大きさ(小ささ)」、「高さ(低さ、レンジ、周波数特性)」とはどういうものなのか(どう感じるか)、あるいは、実際(リアル)の音を人が聴くときの(周波数の)特性と、イヤホンを使って音を聴く時の周波数特性の違いといった専門的なことにいたるまで、図示や動画を使って分かりやすく紹介してくれた。

人間の耳の構造の模式図

鼓膜から伝わる振動を信号に変換してくれるカタツムリこと、蝸牛の働き方の説明図。蝸牛内部の位置によって、感じる音の高さ(周波数)が異なるそうで、低域(低音)はより奥で受信することから、低域の音が大きいと高域に影響(マスキング)が出るのだという

 また、音質を語る際に必要な要素(三つある)となる「大きさ」「高さ」については、数値化は可能だが、もう一つ重要な「音色」については、評価軸や使う言葉がユーザーそれぞれで異なるといった多様性があり、それが普遍性のネックになっているが、学術の世界ではすでに統一化が図られているそうで、イヤホンの世界でも、表現や感じ方を体系化できれば、誰もが理解できる表現ができるのではないか、という提案も行なわれていた。

音を感じる三つの要素

 そのほかでは、低音が強いとボーカルが聴きにくくなるのはなぜか、イヤーピースによって低域の再現性に違いがでるのはなぜか、といったイヤホンユーザーの関心を大いに触発してくれるような事柄も、懇切ていねいに説明してくれ、講師(濱崎氏)の発するコメントの一言ひとことに、来場者は大きく頷き、感心していた。

 なお、参加者には特典として開発途中のイヤホン「E500」がプレゼントされた。これは、近年流行のVRやバイノーラル録音されたコンテンツの再生に特化したチューニングが行なわれたモデルだという(ゲームも含むとか)。詳細は企業秘密ということだが、音響心理学の新たな成果を盛り込んでいるそうで、先述したコンテンツの再生時に、音場感や定位感を正確に再現できるようになっているそうだ(発売未定)。

VRやバイノーラル録音コンテンツに特化したチューニングが行なわれたイヤホン「E500」

 その音質を手持ちの「E2000C」と比較してみると(とりあえず、2chの音楽もの)、音楽とボーカルの一体感がより増しており、かつ、ボーカルについてはディテイルが掘り起こされ、繊細なニュアンスを感じ取れるようになっていた。音場感や定位感についても、少し広く、少し前へと出ている印象だった。同社が推奨しているコンテンツを再生した時のインプレッションについては、後日お送りしたいと思う。