次世代映像符号化方式VVC

 新4K8K衛星放送で使われている映像圧縮(符号化)コーデックのHEVC(High Efficiency Video Coding)。今回の技研公開ではそんなHEVCの次のコーデックとして、VVC(Versatile Video Coding)に関連した展示も行なわれていた。

 VCCは国際標準化団体のMPEGとITU-Tが合同で2020年7月を目標に標準化を進めている技術であり、HEVCに比べて30〜50%の効率アップが期待されている。より柔軟なブロック分割や多彩な予測技術、変換技術を盛り込むことで、ビットレートが同じであっても、より美しい映像が再現できるという。

モニター上側はVVCによる圧縮を経た映像で、下はHEVCで圧縮したもの。ビットレートは同じとのことだが、じっくり見ると細かなノイズや細部の再現性に違いが確認できた

 実際に会場内のモニターには、上半分にVVCを使って圧縮した8K映像を、下半分にHEVCで圧縮した8K映像が表示されていた。ビットレートはどちらも28Mbps前後のことだが、HEVCでは吹き上がる炎の中にブロックノイズが散見されたが、VVCにはブロックノイズもなく、なだらかな階調が再現できていた。

 これを踏まえて、NHKとしてはVVCを地デジ放送の高度化に使いたいと考えているようだ。確かに28Mbpsなら地デジで伝送できないことはない(実際にはデータ放送などの帯域も必要になるが)。8Kクォリティの番組が地デジで放送される、そんな夢のようなことも技術的にはもう夢ではないということだ。

 なお次世代符号化についてはインターネット上での動画配信用としてAV1(AOMedia Video1)も提唱されている。これについては、VVCはリアルタイム伝送という点でAV1よりもメリットがあるとかで、NHKではその点の検証を進めているようだ。

HDR/SDR変換

 新4K8K衛星放送では、HDR(ハイダイナミックレンジ)としてHLG(ハイブリッド・ログガンマ)を採用した番組も多く放送されている。このHLGは放送用規格であり、最高1000nitsの明るさをもった輝度情報が再現できる。

 ただしそれはあくまで4K8Kチューナーと対応テレビ(あるいは4Kや8Kチューナーを内蔵したテレビ)を使っている場合に再現できるもの。それ以外の地デジやBSプレミアムといった放送はSDR(スタンダードダイナミックレンジ)で送出されている。

 NHK技研では番組制作にあたって、4Kや8KのHDRカメラで収録し、その信号から2K/SDRなどに変換して放送用として使う研究も進めている。当初は、HLGのガンマカーブはSDRとの互換性を考慮していたので、SDRテレビで受信しても問題ないという話だったのだが、実際には色再現がおかしくなるなどの現象があり、最近ではHDR用とSDR用で放送マスターも作り替えているそうだ。

左がオリジナルのHDR映像で、右はそれをSDR変換したもの。輝度感はともかくとして、色味はよく似ている

 その変換で問題になるのは、やはり色の変化だという。具体的にはHDR信号のピークの高い信号があった場合に、RGBの割合をそのまま均等に下げてSDRの領域に収めるようとすると、色のバランスがオリジナルとは違ってくるそうだ。そのため技研では色相を変化させずに、ピークだけを抑えるといったパラメーターを工夫している。

 ブース内には2台のモニターを並べて、オリジナルのHDR映像とSDRに変換した映像を並べていた。近寄ってみると背景のセットの電飾の輝きやスタジオ全体の明るさ、わずかに暗い部分の階調再現などに違いはあり、HDRの恩恵は充分に観ることができる。が同時にSDR変換した映像でも肌色や手前の花などはHDRと同じ印象で、色味がおかしいと感じることはなかった。

 NHKとしては、今後の番組収録はHDRカメラを使い、SDR番組は高品質の変換過程を経てオンエアしていくことになるのだろう。ちなみにSDRからHDRへのアップコンバートについては、技術的には可能だが、オリジナルの映像を変えてしまう可能性があるため、慎重に考えていきたいとのことだった。

8Kでスローモーションを体験してみよう!

 4Kや8Kといった高精細映像でも、スローモーションが使われることが増えている。最近ではBS4Kで放送された『スローな武士にしてくれ』で、4Kでのスロー撮影の苦労話がドラマ化されており、とても興味深い内容になっていた。

 今回の技研公開では、そんな高解像度スロー撮影を間近で確認もできる。カメラの前に置かれたバスケットゴールにシュートをする様子を8K/240pで撮影、その様子を8K/60pで確認できるわけだ(結果的に1/4のスロー再生になる)。

 なおここに展示されている8K4倍速高速度カメラと8K4倍速レコーダーの組み合わせなら最長で4時間(64TバイトのSSDを内蔵)の連続記録ができるとのことで、ほとんどのスポーツなら試合をまるごと4倍速で記録できるはずだ。

 レコーダーはリアルタイムで記録しながら、同時に録画済みデータのスロー再生にも対応している。現場ではこれを活かして、多彩な番組編成を行なっていくのだろう。