小松菜奈と門脇麦の歌声がたっぷり聴ける。それだけで個人的には数年来の願いが叶った気分だ。エレアコの有名メーカー“テイラー”のギターを軽やかにかき鳴らしながらのヴォーカルは、実に爽快。誰もが“解散しないで!”と思いながら、映画を観進めるに違いない。

 2017年1月に新国立劇場で行なわれたミュージカル『わたしは真悟』で、スクリーンの中とは異なる場所で動いている門脇麦を初めて目の当たりにした。原作はもちろん、楳図かずお。真鈴役は高畑充希が演じていた。SOLEILの名曲「MARINE I LOVE YOU」の“MARINE”は、ここから来ている。そして門脇麦は悟役だった。少年に扮したのだ。果たして舞台上の門脇麦はまさしく少年だった。だから自分は開始からしばらく、その少年が門脇麦であることが実感できなかった。門脇麦目当てに見に行ったのにもかかわらず、だ。その数ヵ月後だったか、幸運にも取材する機会に恵まれたので、歌声に感銘を受けたこと、もっと歌う機会を増やしてくれたら的なことを告げた。今回はギター弾き語りのデュオ・グループ“ハルレオ”の、ハル役としての歌唱だが、こういうヴォーカルこそ“てらいがない”と表現すべきものだろう。

 小松菜奈の歌声が聴きたいとも、ずっと思っていた。2018年、映画『坂道のアポロン』が公開された。小松菜奈はヒロインだ。友人や好意を寄せている男の子たちがジャズに夢中でジャズ・バンドを組み始めたので、自分もそこに歌手として入れてもらおうとがんばる。だが映画は今まさに小松菜奈が歌い出そうとするその瞬間にエンドロールに突入し、結果、彼女の歌を誰も耳にすることのないまま終結する。三木孝浩監督に「結局、小松さんの歌声は聴けなかったですね」と尋ねると、あえてそこは観る人の想像力に訴えたのだ、というような答えが返ってきたことを覚えている。『さよならくちびる』で聴くことのできる小松菜奈の歌声は表情豊かで流麗。“ハルレオ”のレオ役に、これ以上のキャスティングはないはずだ。

 ストーリーの概要については会見記事(https://online.stereosound.co.jp/idollove/17268481)をご覧いただきたいが、音楽ファンに特におすすめなのがレコード店のシーン。英国屈指の某ブルース・ギタリスト(エリック・クラプトンではない)のLPを手にする小松菜奈、そこにちょっとした解説を加える成田凌(かつてロック・バンドの辣腕ギタリストだった、という設定)。カメラが引きになると、よだれの出そうなアナログ盤が壁に飾られている。そういえば門脇麦が第61回ブルーリボン賞の主演女優賞に輝いた映画『止められるか、俺たちを』ではチャールズ・ミンガスの名盤『直立猿人』の在庫をレコード店員に尋ねる場面があった。音楽を好きになると、こうした細かいシーンにいちいち反応する体質になってしまう。

 “恋愛禁止”と合意しながらも、どうしてもひかれあってしまう主演3者の心のうつろいも、ハルレオのうたと並ぶ大きな要点となっている。5月31日、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー。

 ハルレオは5月22日(水)にEP「さよならくちびる」をリリース。公式サイトも開設される。

映画『さよならくちびる』
5月31日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
出演:小松菜奈 門脇麦 成田凌
監督・脚本・原案:塩田明彦
うたby ハルレオ 主題歌 Produced by秦 基博 / 挿入歌 作詞作曲 あいみょん 
配給:ギャガ
(C)2019「さよならくちびる」製作委員会