新4K8K衛星放送の開始から4ヵ月以上が経過した。BS8K放送はさておき、BS4K放送だけであれば受信の難易度はそれほど高くない。既存のBSアンテナを流用できるうえ、4Kのチューナー入りBD/HDDレコーダーも発売されているのだから。本誌レギュラー筆者の中で、まさにその選択をした——つまり、“4Kレコーダー”を導入したのが山本浩司さん。その理由と顛末とは……。(編集部)

↑メインのAVシステムに対向配置された有機ELディスプレイを中心としたサブシステム。ここに4Kチューナー入りレコーダーを組み込み、BS4K放送を楽しむ

 10年ほど前から歌舞伎にハマり、東京・東銀座の歌舞伎座に足しげく通っている筆者だが、この1月の新春大歌舞伎「松竹梅湯島掛額」で中村七之助が演じた八百屋お七がとんでもなくすばらしかった。人形振りで見せる「あやかしの美」はこの世のものとは思えない妖艶さ。この演目は地デジのEテレでも放送されたけれど画質面で全然物足りなく、これはぜひHDR&広色域の8K放送で追体験したい。衣裳・美術ともにおそろしく繊細で大胆な配色が施され、日本の伝統的な美意識で貫かれた歌舞伎ほど8K放送にふさわしいコンテンツはないのではないか。いささかハイブロウなのでは? と思われる向きもおありかと思うが、8K高画質にヴィヴィッドに反応する層は、間違いなく熱狂すると思う。

8Kテレビは導入せず〝4Kレコーダー〟を選択

 さて、昨年暮れにJVCの「8K e-shift」プロジェクターDLA-V9Rをオーダーし(詳細はHiVi本誌2019年2月号58ページ)、その到着を首を長くして待っている今日この頃(※1月下旬当時)だが、いっぽうサブシステムの直視型テレビを8K化するかどうか、すなわちシャープの8T-AX1シリーズを導入するかどうか、ずっと思い悩んでいる。我が家の環境だとローカルディミングの分割エリア数が断然多く、TFT回路に高速処理が可能なIGZO技術を投入した、シリーズ中もっとも画質がよいと思われる80型8T-C80AX1の設置は難しく、70型もしくは60型の8T-C60AX1を導入することになるが、現在使っている東芝の65型有機ELテレビ65X910を上回る「映像を観る歓び」が得られるかどうか、その確信が持てないのである。

 8K高精細の魅力が圧倒的なことは充分承知しているが、8T-AX1は首を振るとコントラストと色合いが変化する視野角の狭さや動画応答のぎこちなさ、ハロ(黒画面に浮かぶ輝点周辺がぼんやりと明るくなる現象)の発生など、液晶テレビの問題点を完全解決したモデルではない。地デジやブルーレイ、UHDブルーレイを観る時間が多い我が家の状況を考えると、どうしても「今すぐ8K液晶テレビを導入しなきゃ!」と思い切ることができないのである。

 そこでまず従来の右旋用BSアンテナで受信できるBS4K放送を観るため、該当チューナーを内蔵したパナソニックのBDレコーダーDMR-SUZ2060を入手、まずはその画質を精査することにした。ぼくはこれまでずっとパナソニック製BDレコーダーを使い継いできたが、従来の同社製トップエンド・モデルに比べてSUZ2060は造りがちゃちで頼りない。電源回路も貧弱なのだろう、オーラのマルチチャンネル入力付プリアンプVARIEとつないで聴いた音は、アナログ/デジタル音声出力ともに薄くやせていて聴き応えがない。BS4Kチューナー内蔵の最新高画質エンジン搭載機で実勢価格13万円。音質面に物量を投入できないことは重々承知のうえで、ここはもうひと頑張りしてほしかったというのが正直な感想だ。

 しかし、しかしである。本機と東芝65X910をHDMI接続して観るBS4K放送の画質は、予想をはるかに上回るすばらしさだった。もっとも2K収録のアップコンがほとんどの民放系には観るべきコンテンツはあまりなく、もっぱらNHKのBS4Kばかりを観て録っている。とくにその画質のよさに驚嘆させられたのは、超ゴージャスなレンズを奢った8Kカメラで撮られたコンテンツを4K変換して放送される『8Kベストウインドー』。中でもシャープ8T-C80AX1で体験して大感激した『ルーブル 永遠の美』の画質は格別で、2H(画面の高さの2倍)弱の視距離で観る65X910でもほぼ同質の感動が得られる。そのすばらしい画質で西洋美術の細部を凝視していると、オーディオの至高体験と同じように脳内に快感物質が分泌され、何度も繰り返し観たくなるのだ。こんなことはぼくの30年以上にも及ぶAV歴の中で初めてのこと。『8Kベストウインドー』を得て、ついにハイエンドオーディオに拮抗する映像の世界が出現したとぼくは本気で考えている。

↑従来からの「ディーガ」ユーザーには馴染みのある操作画面。4K番組には「4K」のアイコンが表示される

4K放送でさらに際立つ東芝65X910の魅力

 65X910は2017年の春に発売された有機ELテレビだが、4K放送を得てその魅力がますます際立ってきた印象だ。白ピークの伸びが適正で、色合いはリッチでノイズ処理も巧い。高精細で色鮮やかな4K高画質は、完成度の高い「おまかせ」モードでその魅力が充分に伝わるが、暗室環境で『ルーブル 永遠の美』をじっくり観るときにすごくよかったのが「ライブプロ」モード。色温度8000K相当というこのモードのホワイトバランスと色合いがぼくにはしっくりくる印象で、2次平面の西洋名画の数々が立体的に迫ってくるのである(コンテンツモード=4K放送、ピュアダイレクト=オン)。

 4K放送された小津安二郎監督の『浮草 4Kデジタル修復版』もブルーレイをはるかに上回る美画質だった。十代の若尾文子のチャーミングなことといったらない。青と緑の彩度が落ち、赤の色相がシフトするというアグファフィルムの特性に徹底的にこだわってIMAGICAの精鋭スタッフが仕上げた4Kマスターの魅力は、色温度6500Kの「映画プロ」よりも「ライブプロ」のほうがよりいっそう浮き彫りになる印象で、これも意外な発見だった。

 BS4Kと付き合うようになって新たな発見と感激に出会う日々。SUZ2060+65X910で観るネットフリックスの4K&HDRコンテンツの画質のよさについても触れようと思ったが、それはまた別の機会に。まあいずれにしても、この先にはBS8Kという巨大なお楽しみが待っているわけで、我が国の高画質環境に感謝しながら、あせらずじっくりとさまざまなソフトを楽しんでいきたいと思う。

↑こちらは東芝65X910の映像メニュー。環境に応じて映像が最適化される「おまかせ」モードを常用しているが、BS4K放送には「ライブプロ」がよりフィットしたという

PANASONIC
DMR-SUZ2060
オープン価格(実勢価格13万円前後)
●再生対応ディスク:UHDブルーレイ、BD、ブルーレイ3D、DVD、CD 他●内蔵HDD容量:2Tバイト●内蔵チューナー:地上デジタル×3、BS/110度CSデジタル×3、4K BS/110度CS×1●接続端子:HDMI出力2系統 他●寸法/質量:W430×H66×D129mm/2.8kg

↑2月号で詳細をレビューしたパナソニックの4Kチューナー内蔵レコーダー。UHDブルーレイの再生にも対応するので、システム更新にうってつけの1台と言える

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