UHDブルーレイ『ボヘミアン・ラプソディ』再生の肝はLFE(サブウーファー)の取り扱い、使い方にありそうだ。山本浩司さんから、そう編集部に連絡が入った。ドルビーアトモス再生システムを導入されている多くの方がそうであろうが、山本さんの自宅システムもオーバーヘッドスピーカーはオール「スモール」の設定。これらすべての低域がサブウーファーに集まるのだから、これまで以上にサブウーファーの役割が増すのは必然ということ。ここでは、愛用中のAVセンターデノンAVC‒X8500Hの開発者である髙橋佑規さんを招き、AVセンターでのサブウーファー使いこなしについて検討をしていくこととなった。(編集部)

Auro3Dや7.2.6 最新規格に対応するX8500H

 昨年の春、ぼくはシアタールームにデノンAVC-X8500Hを導入した。デノンの白河工場(福島県)や川崎市のD&M本社の試聴室などでその音を聴き、それまで国産一体型AVセンターで体験したことのないダイナミックなサウンドに驚かされたことが導入の最大の理由だが、当時個人的興味が高まっていたAuro3D(オーロ3D)再生が可能なこと、ドルビーアトモス再生時にトップスピーカー6本再生を試したかったことも本機導入のトリガーとなった。

 現在ぼくはX8500Hのプリアウト(フロントL/R)を愛用プリアンプのオクターブ(独)ジュビリープリのプロセッサー入力(ユニティゲイン)につないで、オーディオ・システムとの共用を図っている。2月中旬に『ボヘミアン・ラプソディ』の米国盤UHDブルーレイを入手、X8500Hを中心とした我が家のAVシステムで再生し、その音のすばらしさに興奮した。

▲︎山本さんの自宅視聴室のスピーカーシステムはセンターレスの6.1.6構成。オーバーヘッドスピーカーは、フロント(ハイト)がMKサウンドのSS150、ミドル/リア(トップ)がリンのCLASSIK UNIKだ

 そこで、以前から親しくさせてもらっているデノンのサウンドマネージャーで、本機の音質設計担当者である髙橋佑規さんにこの音をぜひ聴いてもらいたいと考え、連絡を取ったところ「それはぜひ!」ということになり、3月中旬我が家に来てもらうことになった。『ボヘミアン・ラプソディ』を肴に、ドルビーアトモスの魅力や再生のポイント、X8500Hの使いこなしの勘どころなどを語り合おうというわけだ。

 ではここで、AVC-X8500Hの概要について触れておこう。本機は昨年春に発売された、デノン製AVセンターのフラッグシップ.モデル。一体型で13チャンネル分のパワーアンプを積んでおり、オーバーヘッド(トップ/ハイト)スピーカー3ペア6本の最大7.2.6構成のドルビーアトモス・システムを組むことができる。国産一体型AVセンターでトップ6本再生が可能なのは、今のところ本機だけである。

 13チャンネル仕様のパワーアンプは、チャンネルごとに基板を独立させたモノリス.コンストラクション。ここまで規模が大きくなると発熱によるトラブルが心配になるが、13チャンネル分の大電流型パワー素子DHCT(Denon High Current Transistor)をヒートシンク脇の基板上に格子状に配置、2ミリ厚の銅板を追加して放熱効率を確保したという。

 本機に採用されたDAC素子は旭化成エレクトロニクス社のAK4490で、この高級2chチップを8基(合計16 ch分)採用し、その基板を映像回路やネットワーク回路から独立させることで干渉によるノイズの発生を抑えている。13.2チャンネル分のデコードやアップミックス、デノン独自のアナログ波形再現技術「AL32 Processing Multi Channel」や音場補正機能「Audyssey MultiEQ XT32」など負荷の大きなデジタル信号処理を司るのは、2基の32ビットデュアルコア・タイプのDSPである。

天井は4より6本! ライヴ会場の臨場感が高まる

 現在42歳の髙橋さんは、学生時代にエレクトロニクスを学ぶ傍らジャズ研でギターを弾いていたそうで、今もアマチュア.バンドで音楽活動を続けている。ジャズだけではなくロックも大好きとのことで、学生時代には国産ギターメーカーが発売したブライアン・メイ・モデルを持っていたそうだ。

D&Mホールディングス グローバルプロダクト ディベロップメント プロダクト エンジニアリング 髙橋佑規さん

 髙橋さんは言う。

 「ギタリストの目から見てもブライアンは興味深い存在です。そもそも自作のギターを使っていますしね。ギブソン、フェンダー2大巨頭時代に特異な24インチのショートスケールのギターを自作している。弦もすごく細いのをゆるく張って、パワーのないピックアップを使って自作のトレブルブースターを組み合わせ、あのヘヴィな音をつくっていたのだから驚きです」

ーー天文学を学んでいた「ザ・理系ギタリスト」らしいエピソードですね。「ボヘミアン・ラプソディ」の録音シーンで、ギターソロのダビングをするブライアンにフレディが「もっとロックしろ!」と激励する場面がありますが、ああいうところを端折っていないところにこの映画の魅力があると思います。

 のっけから「重箱の隅」話になったが、まずX8500Hを設計する上でどんなことに留意したかをここで改めて髙橋さんに訊いてみよう。

 「AVC-A1HD以来、10年ぶりの旗艦モデルでしたから、一体型として考え得る最良の設計ノウハウをすべて投入した「やり切った」モデルに仕上げようと張り切りました。セパレート型には小信号系と大信号系を分けられる利点があり、一体型は電源トランスのリーケージフラックスや映像.デジタル系のノイズの影響を受けやすい弱点があるわけですが、そこをうまく処理できればセパレート型に対して信号経路を短くできるメリットがあります。そこでノイズ対策を徹底するため基板設計から機構設計に至るまで徹底的に考え抜きました。と同時に、信号の純度を維持するためにバッファーやリミッターを排除していくことにしたのです。X8500Hはほんとうにシンプルな構成なんですよ。DSPからDAC、ポストフィルター一基を通ってボリュウムからダイレクトにアンプという流れですから。このシンプル化を実現するにはAVC-A1HD以来10年間の経験がおおいに役立ちました」

 ということで、さっそくぼくの部屋の6.1.6システム(センターレスでサブウーファー1基、オーバーヘッドスピーカーが6本)でUHDブルーレイ『ボヘミアン・ラプソディ』の主要なシーンをを観ていった。

 「このお部屋は何度かおじゃましましたが、相変わらずすばらしい音だと思いました。この作品でとくに感激したのは分厚いバンド・アンサンブル、その力感がみごとに再現されていたことです。すごくナマっぽい。このサウンドにX8500Hが貢献できていると考えると、とてもうれしいですし、誇りに思います。

 それからオーバーヘッドスピーカーは2本よりも4本、4本よりも6本だと改めて確信しました。クイーンの前身バッド「スマイル」が演奏する100人規模のライヴハウス(チャプター2)、クイーンのサウンドが確立された大会場のアメリカ.ツアー(チャプター7)、数万人がひしめく最後のライヴ.エイドのウェンブリー.スタジアム(チャプター22〜)と演奏会場の違い、プレゼンス感がこのシステムではみごとに描き分けられている。この臨場感の豊かさはオーバーヘッド3ペア6本の効能が大きいと思いました」

ーー4本でも聴いてみましたが、たしかに臨場感がだいぶ削がれる印象でした。オーバーヘッド6本を家庭で実現するのはハードルが高いと思いますが、X8500Hのオーナーは、前後の壁を利用する「ハイト」配置などをうまく活用して挑戦してほしいですね。

サブウーファーの音量は聴きながら、の調整が重要

ーーところで、ぼくの部屋のX8500Hですが、音場補正機能「Audyssey MultiEQ XT32」を利用してレベル・距離補正を行ない、音を聴いて判断し、現在イコライザーはオフに設定しています。しかし、このレベル設定だと『ボヘミアン・ラプソディ』のライヴ・シーンではサブウーファーの音圧が高すぎるので、手動でレベルを下げるようにしています。ライヴ・エイドのキックのレベルが異常にデカいんです。

 「たしかに。設定を確認するとL/Rchにたいしてサブウーファーのレベルがプラス方向に大きく振られていましたが、これはちょっと考えにくい設定です。しかしこれだけのプラス設定でもまったく低音が歪んでいない。お使いになっているイクリプスTD725SWの実力の高さでしょう。ふつうはL/Rchにたいして⊖6dBあたりに落ち着くはずですが……」

ーーいや、それでは我が家では聴感上低すぎますね。だいたい0dB前後が好ましい印象です。

 「ソフトによってLFEレベルはまちまちですから、サブウーファーのレベルを適宜調整するというのは大事なポイントかもしれませんね。とくに音楽が主役の映画のLFEは、メイン信号と相関性があるので、そのレベル設定がいっそうシビアだと思います」

「オーディオ」設定

▲Audussey(オーディシー)関連の設定項目はすべて「オフ」。あえてEQを使わないのが髙橋さんとしてもおすすめだという。この場合でも、測定した距離(ディレイ)や音量は活きるのでご安心を

ーーそのほかX8500Hの使いこなしのポイントはありますか。

 「『ダイナミックレンジ』設定ですね。ドルビーアトモスやトゥルーHD音声を再生するときはこれをオフにしてください。デフォルトの『オート』だとソフトによってはDレンジが圧縮されてしまいます。この機能はサウンドバー等の再現能力に限界がある製品向けのものですから。それからEQをすべてオフにしているのは正解だと思います。この部屋のように音響特性が整っていてこのクラスのオーディオ機器で再生するならEQは必要ありません、というか音を鈍らせることになるかもしれませんから。

 もうひとつ。サブウーファーのローパスフィルターの設定がデフォルトでは120Hzですが、コンテンツによってはそれ以上の帯域からLFEを使っている可能性があるので、ここは最大値の250Hzに設定することをお勧めします」

 こうして髙橋さんのアドバイスに従ってX8500Hを再設定、UHDブルーレイ『ボヘミアン・ラプソディ』を編集長含めて3人で堪能したのち、場所を居酒屋に移し、夜遅くまでクイーン談義に花を咲かせたのでした。

スピーカー」設定

▲「スピーカー」設定で確認したいのが「スピーカー/低音」内にある「LFE用ローパスフィルター」という項目。LFEの再生帯域を指定するものだが、整った環境であれば、最大限幅を取る「250Hz」が推奨とのこと

▲現状のクロスオーバー周波数設定値。フロントハイト(MKサウンドのSS150)のみクロスオーバー周波数が高めの「110Hz」。これはUHDブルーレイ『ブレードランナー2049』の冒頭を再生する際に放たれる、膨大なエネルギーに対応するため。これら以下の低域がすべてサブウーファーから再生される

 

 

▲AVC-X8500Hは、最新ファームウェアでIMAX Enhancedにも対応している。当日はこれを試すため、DTS音声収録のDVDをあえて再生。クイーンとゆかりのあるフリーのライヴを堪能した

▲IMAX Enhancedモードの再生時には「IMAX DTS」の表示がされる。今回は強制的にDTSの音声で試したが、IMAX Enhanced仕様のディスクを再生すると、自動でこのモードに切り替わる

▲サブウーファーのレベル調整は「オーディオ設定」からも可能。言ってみれば特別扱いであり、サブウーファーの調整が重要であることを物語るひとつだろう

 

「サラウンドパラメーター」は随時チェック!

初めの設定時だけでなく、随時確認したいのが「オーディオ」設定内の「サラウンドパラメーター」。この内容は入力している信号によって変化するのだ。本誌でもたびたび言及しているが、特にドルビーの信号(ドルビーデジタル、ドルビーTrue HD、ドルビーアトモスなど)入力時に注目したい。DTS入力時に表示されるIMAX Enhancedについては、追って詳細を取材していく予定だ。(編集部)

▲「オーディオ」設定の浅い階層にあるのが「サラウンドパラメーター」。見落としがないよう各種信号を入力して、項目を確かめてみよう

ドルビー入力時

▲こちらがドルビー系の信号入力時。「ラウドネスマネージメント」はダイナミックレンジ圧縮の項目。十全に音を出せる環境であれば、迷わず「オフ」

DTS入力時

▲では、DTS信号を入力するとどうなるのか。最新のファームウェアではIMAX Enhancedに関わる項目が表れる

▲「IMAXオーディオ設定」はマニュアルでの変更も可能。デフォルトではスピーカーはオールスモール設定、クロスオーバー周波数70Hz

AV Center
DENON
AVC-X8500H
¥480,000+税
●内蔵アンプ:13ch●定格出力:150W+ 150W(8Ω、20Hz〜20kHz、T.H.D.0.05%、2ch駆動)●接続端子:HDMI入力8系統、HDMI出力3系統、15.2chプリアウト1系統(RCA)、ほか●寸法/質量:W434×H195×D482mm/23.3kg●問合せ先:デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様ご相談センター☎0570(666)112