Hugo Mスケーラーの効果は音楽の生命力に現れた

 英国コードのD/Aコンバーター、DAVE(デイヴ)を愛用する筆者だが、同機と同じ〈コーラル〉シリーズに位置する最新ステレオ・パワーアンプ、Etude(エチュード)が登場、自宅でテストし、その音のすばらしさに吃驚した。

 同社を主宰するジョン・フランクス氏が考案したスイッチング電源回路を採用した150W+150W(4Ω)出力のAB級パワーアンプで、注目すべきは同社製アンプで初採用された〈フィードフォワード・テクノロジー〉。これは入力信号を監視し、回路上起こり得るエラーを予測、エラー信号に逆相信号を合成して理想的な特性を得るというもの。本機ではNFB(負帰還)を4回路、フィードフォワードを2回路実装しているという。

 そのサウンドはひじょうにフレッシュで、DAVE同様音楽が弾むように闊達に描写され、何を聴いても楽しいことこのうえない。70~80年代のクイーンの音楽を聴く今回の特集にピッタリのパワーアンプと言っていいだろう。そこで、音量調整機能を持ったDAVEと本機をバランス接続、プレーヤーにオーディルヴァーナプラスをインストールしたMacBook Proを用いてクイーン・サウンドをさまざま聴いてみることにした(スピーカーはモニターオーディオPL300Ⅱ)。

 まず48kHz/24ビット/MQAのTIDAL音源の『ボヘミアン・ラプソディ』サントラ盤から「地獄へ道づれ」を。4つ打ちキックとタイトなベース、そしてクリスプなギターカッティングが織りなすグルーヴをみごとに再現、DAVE&Etudeならではと思える躍動感に満ちたサウンドを楽しませてくれた。2011年にボブ・ラドウィックがマスタリングを手がけた『オペラ座の夜』のハイレゾファイル(96kHz/24ビット/FLAC)から11曲目「ボヘミアン・ラプソディ」も聴いてみた。フレディの艶のあるヴォーカルと軽快なギターソロにこの組合せならではの魅力を実感したが、オーバーダビングを180回以上繰り返したというコーラス・パートがもうひとつほぐれきれない印象もなくはない。

 そこでコードの新製品、Hugo Mスケーラーを試してみることに。これは同社のCDトランスポート、BluMk2に実装されたアップスケーラーを単体化したもの。本機のFPGA(プログラム可能な大規模演算素子)内では528ものDSPが並列駆動し、約100万タップの計算機を用いた補間アルゴリズムが形成される。結果、最大768kHzにまでオーバーサンプリングされた音声データがデュアルBNCデジタル伝送によってDAVEに送り込まれ、高速FPGAによって発生するノイズがアナログ回路に影響を及ぼさない、L/Rチャンネルのタイミングエラーが極小化された理想的なD/A変換が実現されるという。

▲まず、Hugo M Scalerを使ったアップサンプラーの効果をチェック。DAVE直結と、Hugo M Scaler経由での音質の違いをハイレゾファイル『オペラ座の夜』(96kHz/24ビット/FLAC)収録の「ボヘミアン・ラプソディ」で聴き比べた

 たしかにこの前人未到の分解能が実現された「Hugo Mスケーラー+DAVE」のサウンドは、ちょっとこれまで聴いたことのない表現力を実感させる。DAVEのみの再生に比べて空間再現能力とトランジェント性能がいっそう向上し、音楽がより生命力の豊かな横顔を見せるのである。「ボヘミアン・ラプソディ」のコーラス・パートの解像感の向上、音場の広がりも明らかだ。

▲Hugo M Scaler(写真)とDAVEは2本のBNCケーブルを使ったデュアルBNC接続とした(右端の2本)。左からふたつめはUHDブルーレイプレーヤーからの同軸デジタルケーブルで、付属のRCA/BNC変換プラグを介して接続している

▲DAVE(写真)はHugo M ScalerからのデュアルBNC入力を受けて、アナログ変換と音量調整を行なったのち、XLRバランス音声出力にてEtudeへ連携している

Etudeアンプを2台使うBTL接続の効果はどれほど?

 さて、今回のテストではEtudeを2台借用できたので、「Hugo Mスケーラー+DAVE」のままパッシヴ・バイアンプ駆動とBTL接続によるモノーラル・モード駆動を試してみることにした。まずバイアンプ駆動で「地獄へ道づれ」を聴いてみる。Etude1基のステレオ駆動とリズム・セクションの力感がまるで違う。低域から中低域にかけての音の厚み、空間感もいっそう広大となった。

 しかし、驚くべき音質向上をいっそうリアルに実感させてくれたのはBTL接続によるモノーラル・モード駆動だった。音圧感が断然上がって音がさらに緻密になり、音楽に信じられないような生々しい生命力が付与されるのである。PL300Ⅱのダブル・ウーファーをしっかりとグリップし、強靱なサウンドでリスナーを熱気に満ちたクラブへ誘うかのようだ。「ボヘミアン・ラプソディ」のハイレゾファイルでもボトムが充実し、揺るぎないピラミッド・バランスを実感させる。フレディのヴォーカルの艶、ギターソロのほとばしるエネルギー、コーラスの解像感の高さ、すべてが驚くべきハイレベルな訴求力で聴き手に迫ってくるのである。PL300Ⅱが旧視聴室とも合わせてHiVi視聴室でこんな凄い音を聴かせたのは未だかつてないのではないだろうか。

接続①

接続②

接続③

▲ステレオパワーアンプのEtudeは、150W×2出力を備えるステレオパワーアンプとしての使用方法のほかに、ブリッジ接続にて300W出力のモノーラルパワーアンプとしても使える。そこで①Etude1台によるステレオパワーアンプ接続(写真1)、②Etude2台によるバイアンプ接続(写真2。スピーカーケーブルをチャンネルあたり2組使用する)、③Etude2台をそれぞれブリッジ接続(写真3。スピーカーケーブルは1と同じチャンネルあたり1組使用)の、3パターンの接続を試した

セリフ、音楽、効果音すべてのリアリティがハンパない!

 最後にこの状態のまま、UHDブルーレイ『ボヘミアン・ラプソディ』をステレオ再生してみよう。パイオニアUDP-LX800の48kHz/16ビット/2chPCM変換出力をHugo Mスケーラーに同軸デジタル接続、100万タップの演算精度で768kHzにアップサンプリングされたデータをDAVEに送り込み、その音量調整機能を用いてEtudeを2基用いたBTL接続によるモノーラル・モード駆動でモニターオーディオPL300Ⅱを鳴らそうというわけである。映像表示にはJVCのDLA-V9Rとスチュワート スタジオテック130G3の123インチ・シネスコスクリーンを用いた。

 当初、映像と音声のタイミングが合わなかったのだが、Hugo MスケーラーにはVIDEO機能があり、これをオンにするとリップシンクのズレが収まり、映像と音声がピタリと一致した。これはたいへん有用な機能と言っていいだろう。

 さて、本特集では『ボヘミアン・ラプソディ』のドルビーアトモスによる3次元立体音響効果のすばらしさが繰り返し述べられていると思うが、いっぽうでここまで2チャンネルの音質を磨き上げていくと、それはそれで有無を言わさぬ独特の臨場感、説得力に満ちた映画体験ができるものなのだナと納得させられた。セリフ、音楽、効果音ひとつひとつのリアリティがハンパではないのである。

 雨の降りしきるミュンヘンの夜、フレディとメアリーが語り合う声に含まれた感情の襞がこれまで体験したことがない生々しさで迫ってきて胸がつまり、雨音の哀しさにまぶたが濡れた。

総括

音を高度に磨き上げれば2ch再生でもOK!特にEtude2台のモノーラル再生は圧倒的だ

DAVE、Hugo M Scaler、Etudeとコード製品の最新主力モデルをひとつずつ加え、さまざまな使いこなしでその魅力に迫った今回の取材はとても実り多いものだった。Etudeを2基用いたBTL接続によるモノーラル・モード駆動は圧倒的なすばらしさだったし、最後に体験したUHDブルーレイ『ボヘミアン・ラプソディ』の2チャンネル再生の音も忘れられそうもない。個人的にはHugo M Scalerの購入を心に決めた取材となりました。

 

CHORD

UP SCALER
Hugo M Scaler
¥660,000+税
●接続端子:デジタル音声入力5系統(同軸[BNC]×2、光×2、USBタイプB)、デジタル音声出力2系統(同軸[BNC]×2、デュアルBNC出力可能)●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:PCM・最大768kHz/24ビット、DSD・最大22.5MHz/1ビット●寸法/質量:W235×H40.5×D236mm/2.55kg
 

D/A CONVERTER
DAVE
¥1,500,000+税
●接続端子:デジタル音声入力8系統(同軸[BNC]×4、光×2、AES/EBU×1、USBタイプB×1)、アナログ音声出力2系統(XLR、RCA)、ヘッドホン出力1系統(標準)●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:PCM・最大768kHz/32ビット、DSD・最大11.2MHz/1ビット●寸法/質量:W338×H65×D150mm/3.7kg
 

STEREO POWER AMPLIFIER
Etude
¥748,000+税
●定格出力:150W×2(4Ω)、300W(4Ω、ブリッジ時)●接続端子:アナログ音声入力2系統(XLR、RCA)●寸法/質量:W340×H65×D145mm/3.5kg
●問合せ先:㈱タイムロード☎03(6435)5710

 

PROFILE
英国・コードは近年、D/Aコンバーター等のデジタル機器の人気が突出しているが、もともとは業務用パワーアンプなどの増幅系エレクトロニクスを得意としている。今回は、同社フラッグシップD/Aコンバーターとして高い人気を誇るDAVE(デイヴ)をデジタルプリアンプとして使い、DAVEと同じChoral(コーラル)シリーズの最新のステレオパワーアンプ、Etude(エチュード)を組み合わせた。加えて、Etudeは2台用意し、バイアンプ接続やブリッジ接続での音の変化をチェックしている。DAVEの前段には、昨年12月に登場したばかりのアップスケーラー、Hugo M Scalerを用いて、本機とDAVEの連携によるデジタル信号の高精度処理も試している(編集部)

 

そのほかの使用機器
●D-ILAプロジェクター:JVC DLA-V9R●スクリーン:スチュワート スタジオテック130G3(123インチ/シネスコ)●UHDブルーレイプレーヤー:パイオニアUDP-LX800●パーソナル・コンピューター:アップルMacBook Pro●デジタルファイル再生ソフトウェア:Audirvana PLus3