大口径ウーファー搭載機のメリットとは何か

 高級ハイファイ・スピーカーで、30cm以上の大口径ウーファーを採用したモデルがほんとうに見当たらなくなった。我が国で人気の高いB&Wのトップエンド機も25cmウーファーになって久しいし、JBLを除けば最新高級モデルで30cmドライバーを積んでいるのはヤマハNS5000くらいではないだろうか。

 小口径ウーファーの俊敏さを活かしてハイスピードな音を狙うというのが昨今のトレンドであることは間違いないが、いっぽうで大口径軽量コーンに大きなメリットがあることも事実。振動板面積を大きく軽くすれば小さな入力信号でも前方の空気を確実に押すことができ、小音量でも低音が痩せず、音量を上げたときは大排気量のクルマを転がしているときのような余裕が感じられる。

 低域再生限界を伸ばそうとコーン質量を重くした小口径の場合は振幅をより大きく取って低音の量を稼ぐことになり、ボイスコイルを支える支持系(ダンパーやエッジ)を柔らかくしているケースが多い。その結果、大きな入力信号が入ってきたときに過応答となり、ボイスコイルがボトミングを起こしてノイズを発生させてしまうことがある。これは音楽ソースでは考えられないような低域エフェクトが含まれる映画再生時にとくに注意が必要だ。ぼくが38cmウーファーを搭載したJBL K2S9900をオーディオ/AV用として使っている理由のひとつは実はコレだったりする。

 JBLから30cmウーファーを搭載した興味深いバスレフ型3ウェイ機が2モデル登場した。4312GとL100 Classicだ。どちらもそのルーツは70年代初頭のコントロールモニター「4310」まで遡る。70〜80年代にかけて音楽好きの若者の憧れのマトは、このシリーズのホワイトコーンだった。

 両モデルに使われたドライバーは微妙に異なるが、ともにミッドレンジは12.5cm、トゥイーターは25MMだ(4312Gはアルミ・マグネシウム合金、L100 Classicはピュアチタン)。ミッドレンジとトゥイーターをミラーイメージ配置した4312Gのデザインは、いかにも「モニター!」という印象だが、 3色(ブラック、オレンジ、ダークブルー)のフロントグリルが用意されたL100Classicは、ミッドセンチュリー風インテリアにフィットしそうなレトロな雰囲気。オリジナルのデザインを手がけたのは、あのパラゴンを手がけたアーノルド・ウォルフである。

ストレートな語り口と太筆で音像を描く音調は共通

 パンチの効いた低音が収録されたスタジアム・ライヴの熱狂をいかに再現するか。UHDブルーレイ『ボヘミアン・ラプソディ』を本格再生するのに、現状でこれほど相応しい手頃な価格のスピーカーはないだろう。そこでまずステレオ仕様で専用スタンドに載せた両モデルを聴き比べ、その持味を探ってみる。テストソースはクイーン作品のみ。アナログLPのサウンドトラック盤と『オペラ座の夜』(2005年に出た30周年記念盤)、96kHz/24ビット/PCMの2ch音声が収録されたBDオーディオ盤『オペラ座の夜』とUHDブルーレイ『ボヘミアン・ラプソディ』だ。

 LP再生にはオルトフォンのMM型カートリッジが標準装備されたエリプソンのアナログプレーヤーオメガ100カーボンを、UHDブルーレイとBDオーディオの再生にはパイオニアUDP-LX800を用いた。駆動するのは、MM/MC独立フォノ入力を装備するラックスマンのプリメインアンプL505uXIIとデノンのAVセンターAVC-X8500Hである。

▲フランス・エリプソン製のシンプルなターンテーブル、オメガ100カーボン(¥98,000+税)。MMカートリッジ付きで基本セッティングが済んだ状態で出荷されるので、すぐにアナログ・レコードが楽しめる●問合せ先:フューレンンコーディネート TEL 0120-004884

▲ステレオ再生では、ラックスマンのプリメインアンプL-505uXII(¥268,000+税)を用いた。2017年リリースの定番モデルで、8Ωで100W×2の出力を発揮。MM/MCフォノ対応のほか、サラウンド再生にも対応可能なセパレート・スイッチを装備●問合せ先:ラックスマン(株)☎︎045(470)6991

 4312Gの魅力は、聴き手の心にまっすぐに届く、もったいぶったところのないストレートな語り口にある。L/Rスピーカーを結んだ線よりも前に音像ができるが、トゥイーター位置を内・外どちらにするかで音像・音場表現が大きく変わることに注意したい。パナソニックの55型有機ELテレビ、TH55FZ1000をL/Rスピーカー間に置いたここでの視聴では、トゥイーター内側配置のほうがファントム音像がピタリとセンターに定位し、帯域バランスも整う印象だった。

▲パナソニックの55型有機ELテレビを中心にして、JBL L100 Classicを左右にセット。テレビ画面の影響を抑えるようスピーカーを少し前方に配置させた

 低域端はさほど伸びてはいないが、30cmウーファーならではの余裕を感じさせる鳴りのよさで、アナログもハイレゾも映画も聴き応え充分。とくにエリプソン・オメガ100カーボンでのアナログ再生が好印象で、厚みのあるふくよかな鳴りでクイーンのマッシヴなバンド・サウンドを心地よく楽しませてくれた。これは基音帯域が充実したラックスマンL505uXIIの貢献も大きいのだろう。

 UHDブルーレイのウェンブリー・スタジアムのステージも、ダイナミックレンジの余裕を感じさせるスケールの大きなサウンド。ボリュウムを上げていってもまったく不安を感じさせないが、キックとベースがふくらみ気味でもう少し低域のタイトさが欲しいとの思いも。

 L100 Classicが4312Gを凌駕するのがまさにこの点、低域の解像感の高さだった。L100 Classicのほうがブレーシング(キャビネットの内部補強)に意が尽くされており、それが低域の澄明さに結びついているようだ。音像をしっかりと太筆で描くその音調は4312Gと大きく変わらないが、よりクリアーなハイレベルな音を聴かせてくれるのである。両モデルのユニットのスペックを眺めて価格差が1本当り10万円以上あることに疑問を抱いていたが、音を聴き比べて納得した。

 低めの専用スタンドはスピーカー本体が後ろに傾斜するタイプ。ウーファーと床との距離が近すぎるのでは? と思い試しにスピーカー本体が直立する4312G用の高めのスタンドに本機を載せて聴いてみたところ、音場表現が平板に感じられて好ましくなかった。音を聴いてそれぞれに専用スタンドを用意している理由が深く理解できた次第だ。

一体感充分の4.0ch再生。スタジアムの迫力がホットに迫る!

 最後にフロント用にL100 Classicを、サラウンド用に4312Gを充てた4.0ch再生でUHDブルーレイ『ボヘミアン・ラプソディ』を再生してみた。30cmウーファー搭載3ウェイ機同士の組合せならではの音の溶け合い、一体感、そして悠揚たる低域の余裕度が好ましい。レコーディング・シーンなどの現場の空気感が2ch再生よりもより生々しく感じられると同時にスタジアム・ライヴシーンの熱狂がいっそうホットに迫ってきて胸が高まった。この4.0chに安価な同社コントロールXをトップスピーカー用に4本加えた4.0.4再生システムをぜひ一度試してみたいと思う。

▲フロント側にL100 Classicを、サラウンド側に4312Gを用いた4.0ch再生もトライ。AV センターは、デノンの最上位機、AVC-X8500Hを使っている(プロジェクターは使用していない)

総括

マッシヴなバンド・サウンドにはJBLの30cmウーファー搭載機が最良の選択だ!

クイーン全盛期の70年代は、マルチトラックを駆使したアナログ録音時代。当時のロック・ポップス作品は総じて低域端はあまり伸びていないが、マッシヴな厚みのあるバンド・サウンドがうまく捉えられており、それをいかに上手く引き出すかが重要なポイントとなる。その意味で今回起用したJBLの30cmウーファー搭載機は最良の選択のひとつだと確信した。L100 Classicのほうがより洗練された現代的な音を聴かせることを最後に付記しておく。

 

JBL
SPEAKER SYSTEM

L100 Classic
¥456,000(ペア)+税 スタンド別売
●型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型●使用ユニット:25MMドーム型トゥイーター、125MMコーン型ミッドレンジ、300MMコーン型ウーファー●クロスオーバー周波数:450Hz、3.5kHz●出力音圧レベル:90dB/2.83V/m●インピーダンス:4Ω●寸法/質量:W390×H637×D372MM/26.7kg●備考:写真の専用スタンドL100 STAND(¥58,000・ペア+税)は別売。グリルカバーはダークブルー、ブラック、オレンジから選択が可能

4312G
¥240,000(ペア)+税 
●型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型●使用ユニット:25MMドーム型トゥイーター、125MMコーン型ミッドレンジ、300MMコーン型ウーファー●クロスオーバー周波数:640Hz、5kHz●出力音圧レベル:90dB/2.83V/m●インピーダンス:6Ω●寸法/質量:W362×H597×D298MM/25.2kg●問合せ先:ハーマンインターナショナル㈱☎0570(550)465

 

PROFILE
JBL製の30cmウーファー搭載の3ウェイスピーカー2機種。いずれも1970年代にオリジナルモデルが登場していることが特徴となる。L100 Classicは、1971年に登場したJBLの銘機、L100 Centuryをオマージュしたモデル。スタジオモニターで使われているユニットを採用しながら家庭用スピーカーとしてのエクステリアデザインを施した製品として人気が高かった。多数のキューブ状スポンジが外観上の特徴となる。4312Gは、1971年登場の3ウェイスタジオモニター4310を始祖とする4312シリーズの最新仕様で、L100 ClassicとJBL70周年記念モデル4312SEで開発された技術的成果を盛り込んでいる(編集部)

 

そのほかの使用機器
●D-ILAプロジェクター:JVC DLA-V9R●スクリーン:スチュワート スタジオテック130G3(123インチ/シネスコ)●UHDブルーレイプレーヤー:パイオニアUDP-LX800●アナログレコードプレーヤー:エリプソンOMEGA100 Carbon●プリメインアンプ:ラックスマンL-505uXII