この秋、DELA(デラ)からハーフサイズ(横幅215mm)、電源部別筐体の本格オーディオ専用NAS(=HDDトランスポート)N10が登場した。その音のよさが高く評価され、本号発表の『Hi Viグランプリ2018』で〈デジタルオーディオプレーヤー部門賞〉を獲得したことはご承知の通り。そこで改めてぼくのリスニングルームで本機の音質を精査することにし、そのインプレッションをお届けする。
Music Server
DELA N10
¥648,000+税
●型式:DLNA/UPnP互換メディアサーバー ●ストレージ:3TバイトHDD ●接続端子:LAN2系統、USB3系統(タイプA×3、うち前面1系統) ●サーバーソフト:Twonky Server8.5 ●寸法/質量:W215×H61×D269mm/約3.5kg、電源部:W215×H61×D273mm/約5.0kg
●問合せ先:バッファローサポートセンター TEL.0570-086-086
DELAの歴史を振り返る
その前に、本機に至るDELAの歴史を振り返ってみよう。2014年に誕生したDELAは、PC周辺機器大手のバッファローを母体とするメルコシンクレッツが擁するデジタルファイル・オーディオ専業ブランド。設立と同時にN1A、N1Zという史上初の「オーディオ専用NAS」を発表した。2008年にリンのネットワークオーディオプレーヤーKLIMAX DSを購入したぼくは、それまでの汎用NASの使い勝手の悪さに閉口しており、DELAの作るオーディオ専用機の機能性・操作性のすばらしさに大感激、すぐさまN1Aを自室に導入した。導入後、こんどはその音のよさに感心、NASによってここまで音質が変わるのかという発見に心を躍らせたのだった。
その後DELAは、2016年にN1A/2、N1ZH/2、N1ZS/2を、2018年1月にN1ZS/2Aを発表したが、それと同時にファームウェアを繰り返しアップデート、操作性をより洗練させ、機能性を拡充させてきた。とりわけ衝撃的だったのが、2014年12月に実現された「USB DAC接続機能」の追加だ。これにより世の中に数多あるUSB DACの多くと組み合わせて、N1AとN1Zをネットワークトランスポートとして機能させることができるようになったわけだ。
ぼくは2016年の初夏にコード(英国)のD/AコンバーターDAVEを購入、N1Aとその後買い足したN1A/2(4TバイトのHDDタイプ)とUSB接続してハイレゾファイル再生を楽しむようになったが、それによって「我が家史上最高音質」が実現されたといっても過言ではない。それくらいDELAの進化はぼくにとって有り難かったのである。
そしてもうひとつ個人的にうれしかったのが、2017年5月のアップデートで実現された、CDクォリティ以上の定額制ストリーミングサービス、TIDAL(タイダル)とQobaz(クーバス)への対応(編註:日本には未上陸。自己責任とはなるが海外渡航時などの際にアカウントを取得すれば日本での利用は可能)。ぼくはそれ以前にTIDALのアカウントを取得し、KLIMAX DSで未知の音楽を様々に探索する面白さに夢中になっていたのだが、今度はN1A/2+DAVEでも同じような楽しみ方ができるようになったわけで、ぼくのミュージック・ライフはいっそう豊かなものになっていったのである。
N10はアナログ電源を初搭載
先述のようにN10は、ハーフサイズのヘッドユニットと電源部で構成される2筐体のHDDトランスポート。その物量投入が凄い。ヘッドユニットと電源部とも底面を除く5面に肉厚なアルミを採用、底面には2㎜厚の鋼板が使われている。3点支持のフットは振動吸収効果の高いTAOC製鋳鉄インシュレーターである。
ヘッドユニットに搭載されたのは3TバイトのHDDだが、その制振対策は瞠目に値するもので、ドライブ下部にステンレス鋼板を固定、その下にダンプ効果と放熱効果の高い制振素材を介して2mm厚鋼板ベースシャーシにつなげるという構造だ。ヘッドユニットの前面には有機ELディスプレイと4つの操作ボタンがあり、USBメモリーからのファイル取り込みやUSB接続のCDドライブからのCDリッピングなどが、本体だけで直感的に操作できるのも本機ならではの魅力だろう。
電源部はDELA初のアナログ・リニア電源回路(他はすべてスイッチング電源回路)で、本機専用設計の大容量(約100VA)トロイダルトランスとコンデンサーバンクが用いられている。高価なノイトリック製コネクターを採用した専用ケーブルを介してヘッドユニットに電源を供給する仕組みだ。
「我が家史上最高」を更新!
ハイレゾファイルを中心に愛聴曲を本機にコピー、①本機をKLIMAX DS/3にLANケーブルで直結し、ファイルを供給するLANトランスポートとして使ったときと、②本機とコードDAVEをUSB接続してUSBランスポートとして使う方法、その2通りの使い方で音質をチェックしてみた。自室で愛用しているN1A/2と比較しながらのテストだったが、いやはやちょっと笑ってしまうくらいの音質差だった。
本機N10は、音楽をいっそう緻密に、力強く闊達に伸びやかに描くと同時に、休止符の静寂の気韻や気配を見事に描写するのである。60万円を超える値段だけに、いい音してくれなきゃ困るといえば困るが、20万円前後のN1A/2とは音の品格がまるで違う。ここまでの音質差があるとは正直予想していなかったのである。
とくに驚いたのは、①LANトランスポートとして使ったときの音のよさ。愛用するN1A/2と比較すると、そこには「千里の径庭」とも言うべき音質差があった。「NASで音が変わるなんて考えられない」と言い放ったリンの総帥ギラード・ティーフェンブルンくんにこの音を聴かせたいとふと思う(ずいぶん昔の発言なので、今は宗旨替えしているかもしれないが)。
もちろん、②USB接続したN10+DAVEをネットワークオーディオプレーヤーとして使ったときの音質もすばらしい。「我が家史上最高音質」の更新であることは間違いない。心地よい温度感、明るい音色、伸びやかで闊達なリズム表現、幅と奥行と高さをリアルに実感させる生々しいサウンドステージの提示といったDAVEならではの魅力をN1A/2以上に明らかにしてくれる印象だ。
とくに感激したのは、ジャズ・ピアニスト望月慎一郎の『ヴィジョナリー』の11.2MHz/DSDファイルの再生音。「ZEN」という曲の冒頭のシンバルレガートが、まるで眼前で打ち鳴らされているような生々しさで提示され、思わず周囲を見渡した次第。聴感上のSN比の高さも比類がなく、シンバルやグランドピアノの余韻を精妙に聴かせ、いい音でジャズのピアノ・トリオを聴く醍醐味を満喫させてくれたのである。
さて、N10と同時発表されたハーフサイズ一体型のN100もテストしてみたが、値段がN10の約5分の1ということを考えると大健闘。低域の伸びと量感、音の密度感などでN10にとてもかなわぬが、軽快で小気味よいサウンドがN100の持味と聴いた。同サイズのDELA製光学ドライブD100と並べて置くと美しいし、D100を用いたCDリッピング・データの音質がたいへん優れていることも申し添えたい。
まあいずれにしても、オーディオ・エレクトロニクスの高音質の基本は「本格電源」と「筐体剛性」。そんなことを改めて実感させられたN10との自宅邂逅だった。
Music Server
DELA N100
¥138,000+税
●型式:DLNA/UPnP互換メディアサーバー ●ストレージ:1TバイトHDD ●接続端子:LAN2系統、USB3系統(タイプA×3、うち前面1系統) ●サーバーソフト:Twonky Server8.5 ●寸法/質量:W215×H61×D269mm/約3kg
リファレンス機器
●ネットワークプレーヤー:リンKLIMAX DS/3 ●D/Aコンバーター:コードDAVE ●コントロールアンプ:オクターブHP700 ●パワーアンプ:オクターブMRE220 ●スピーカーシステム:JBL S9900+ エニグマ・アコースティクスSopranino
試聴ソフト
『A Brand New Me / Aretha Franklin with The Royal Philharmonic Orchestra』(44.1kHz/24ビット/FLAC)、『伊福部昭:シンフォニア/バッティストーニ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団』(96kHz/24ビット/WAV)、『All For One / Jamison Ross』『In The Blue Light / Paul Simon』『ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調/チョ・ソンジン(p)、ラトル指揮ベルリン・フィル』(以上、96kHz/24ビット/FLAC)、『If The Moon Turns Green / Diana Panton』『Visionary /望月慎一郎』(以上、11.2MHz/1ビット/DSF)
関連サイト
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