フォーカル ソプラシリーズの技術を継承する
新作カンタのブックシェルフ型スピーカー

 フランスの名門、フォーカルから送リ出された高級ライン、KANTA(カンタ)シリーズのブックシェルフタイプ、Kanta No1(ナンバーワン)。その名称は「歌う」、「演奏する」といった“カンターレ(Cantare)”から由来するもの。同シリーズとしては、フロアー型のKANTA No2に続くモデルで、専用スタンドも別売で用意されている。

SPEAKER SYSTEM FOCAL Kanta No1

SPEAKER SYSTEM FOCAL Kanta No1 ¥740,000(ペア)+税
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:27mm逆ドーム型トゥイーター、165mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数:2.4kHz●出力音圧レベル:88dB/2.83V/m
●インピーダンス:8Ω●再生周波数帯域:46Hz〜40kHz
●寸法/質量:W234×H422×D391mm/13kg
●カラリング:アイボリー・マット(写真)、ほか7種類の仕上げあり
●備考:写真の専用スタンド(¥160,000・ペア+税)は別売

 写真からもお分かりのように、エンクロージャーはフロントバッフルの角度を微妙に調整し、位相特性の最適化を図った独自のスタイル。素材は一般的なMDFと比べ、密度で70%、剛性で15%優れるという高密度ポリマーとし、上級機のSOPRA(ソプラ)と同等の剛性を獲得している。

 27㎜径のトゥイーターは“IAL3(インフィニット・アコースティカル・ローディング・3)”技術を組み込んだベリリウム振動板のもの。軽量で剛性が高く、ダンピング性能にも優れた高価な素材を奢り、同社のキーテクノロジーとなる“逆ドーム形状”に仕上げている。この形状はボイスコイルの小型化に伴なうユニットの軽量化、なだらかな形状による低歪み化といったメリットをもたらす。ちなみに同社のスピーカーラインナップでは、Chorus(コーラス)以上の機種がこの逆ドーム型トゥイーターを採用する。

 前述のIAL3は、振動板の背後に3種類の吸音材を配置し、背圧をより最適な状態で制御、減衰させるというもの。これも高域の歪みを最小限に抑えるための技術だが、実際の高調波歪測定でも確かな効果を確認済みだ。

Tweeter/フォーカルのキーテクノロジーであるベリリウム振動板を使った逆ドーム型トゥイーターをもちろん搭載。この形状は同口径の一般的なドーム型トゥイーターに比べて、ボイスコイルを小型化できるのがポイントのひとつで、ユニットの軽量化にもつながっている。ユニット背面には素材違いの3層構造を使って効率よく背圧コントロールと吸音(消音)を行なっている
Woofer/ウーファーユニットには上級機Sopra(ソプラ)で開発されたTMD(チューンド・マス・ダンパー)技術を採用している。写真では見えにくいがエッジに2本の円形リブが搭載されており、エッジの共振減衰と歪みの低減に効果的に作用している

 16.5cm径ウーファーはフラックス・サンドイッチ・コーンを用いた振動板が特徴的だ。これは亜麻(Flax/フラックス)をグラスファイバーでサンドイッチした3層構造で、軽くて剛性に優れ、さらに適度な内部損失が得られるというユニットの振動板として限りなく理想に近いもの。ちなみにフラックスはフランス・ノルマンディー地方などで収穫されたもので、直径平均が20ミクロンと細く、全体の70~80%がセルロース(細かく繊維が束になった構造)で構成されているという。

 磁気回路ではボイスコイルの近接部分に銅製のファラデーリングを配置しだNIC(ニュートラル・インダクタンス・サーキット)が特徴的だ。これは磁界をコントロールしながら安定させ、歪みを低減させるもの。エッジには2本の円形リブが設けられ、不要な振動を打ち消し合うTMD(チューンド・マス・ダンパー)が投じられている。

バスレフポートはリア側に用意。スピーカー端子はシングルワイヤリング接続専用で、上級モデル同様にY字プラグがしっかりと固定ができるウィング型を用いている

 では早速、聴き慣れたCDで女性ヴォーカル、ピアノ、ジャズトリオと聴いてみよう。まずグレース・マーヤのヴォーカルだが、耳元でささやくように歌い、音像にエネルギーを集中させて、音の厚み、コクで楽しませる。アコースティックギターの弦はしなやかで、余韻の描きわけも意欲的。音量を抑えても、帯域バランスはくずれず、持ち前の量感も薄まることがない。開放感、透明感よりも、声の温かさ、厚み、繊細さを強くアピールしてくる。エッジを立てず、聴き手を面でおおい包むような聴かせ方は、フォーカルの高級ラインの証と言っていいだろう。

 続いてジェニファー・ウォーンズを聴いたが、重厚なエネルギーを音像に集中させていくような聴かせ方は変わらない。音場の拡がりは比較的コンパクトで、開放的、かつ雄大に拡がる感じではない。目の前に定位した音像を中心にして、厚い響きがジワリとゆっくり、空間に染み込み、浸透していく感じだ。

 映画『シカゴ』を再生すると、定位が明確で、空間の拡がりもスムーズ。美女達が自ら犯した殺人を迫力たっぷりに歌う「セルブロックタンゴ」では、弾力性に富んだスネア、バスドラが躍動し、凄味のある声がスクリーンから沸き上がる。セリフ、効果音、音楽と、けっしてうわずることなく、落ち着いたテイストで堂々と描き出してみせた。

 どちらかと言えば、アンプの選り好みするタイプ。試聴に使っていたコードのEtude(エチュード)との相性もけっして悪くはなかったが、純A級のアキュフェーズA75に変えると、空間描写がより意欲的になり、中域から低域にかけてのグラデーションの描きわけも緻密になる。どことなく土臭さを感じさせる素朴なサウンド。しかしその中に知的さが漂い、作り手のセンスのよさを感じさせてくれるスピーカーだ。

Kanta No1は全8種類のカラリングを用意。キャビネットはウッド仕上げと写真のブラックラッカー仕上げがあり、フロントバッフルは8色の展開になっている