ステラは16日(土)の午後、TechDAS(テクダス)ブランドの最上級アナログプレーヤー「Air Force ZERO」の発表会を開催した。

 発表会の冒頭で、Air Force ZEROの開発責任者である西川英章氏は、「最高のアナログプレーヤーを作りたいという想いから、Air Force ONEを開発しました。その後多くのブランドから高級レコードプレーヤーが発売されています。

 そして私のオーディオ人生最後の製品として企画したのがAir Force ZEROです。機械加工、図面などかなりハイレベルの要求があり、開発には2年以上かかってしまいました。社員はもちろん、材料の加工や表面処理に関しても協力会社の皆さんから多大なるご支援をいただいて完成しました。

 まだ価格も決まっていませんが、海外から10台近いオーダーいただいております」と、既にこのモデルが大きな話題を集めていることを紹介してくれた。

Air Force ZERO開発経緯について解説する西川氏

 そもそも同社は、高級アナログプレーヤーのAir Forceシリーズを発売し、ハイエンドオーディオファンから高い支持を集めてきた。現在は「Air Force One Preium」を筆頭に7モデルをラインナップするほどだ。

 それらに共通する特長は、レコードの製造過程であるカッティングの状態を再現することこそレコード再生の究極であるという考えの下、「エアーバキュームシステム」と「エアーベアリング機構」を搭載している点にある。

 エアーバキュームシステムは、重量級の金属製プラッターの表面にレコード盤を空気で吸着させることで、トーンアームやカートリッジのストレスをなくし、最高のトレース能力を発揮させようというものだ。

 その重量級の金属製プラッターをスムーズに回転させるための仕組がエアーベアリング機構だ。こちらはプラッターを空気の力で浮かせることでなめらかな回転性を実現できる他、シャーシ等からの振動を遮断することで、圧倒的な静粛性も獲得したという。

 そして今回のAirForce ZEROでは、それらの特長を最大限に活かすべく、徹底的な作り込みが行なわれている。

Air Force ZEROの肝となるモーター部分のパーツ(左)。最終的に右のような形状に収まっている

 まずAir Force ZEROの開発は、3年前に回転計の基本となるモーターを探すところからスタートした。最終的にはドイツPapst社の3相12極シンクロナスACモーターをベースに、エアーベアリング方式のモーターを開発している。

 ちなみにAir Force ZEROのモーター駆動の仕組は下図の通り。水晶発振器で基準クロックを作成し、DDS(ダイレクト・デジタル・シセサイザー)でモーターの回転数に合わせた周波数に変換する。次のトルク切り替え回路では、起動時や回転数を変える際の、モーター電圧を調整しているそうだ。

 そしてモーター駆動用の3相生成回路を経た後、3台のモーター駆動アンプ(1台あたり150W)でシンクロナスモーターを駆動している。これまでのトップモデルAir Force ONEでは2基だったので、その点でも大きく改善されているわけだ。

 最終的なプラッターの回転精度についてはセンサーで検出しており、その結果をDDSとトルク切り替え回路にフィードバックすることで、安定した回転を確保している。これらの仕組によって、DDモーター並みの回転制御も実現出来ているそうだ。

 Air Force ZEROの一番の肝が、このモーターで駆動するプラッターだろう。なんと異種金属を5相組み合わせることで振動吸収特性を高めているのだ。第一層は40mm厚の鍛造ステンレス(重さ34kg)、以後第二層が31mm厚の鍛造ステンレス(重さ20kg)、第三層が31mm厚の鍛造砲金(重さ20kg)、第四層が31mm厚の鍛造ステンレス(重さ20kg)、第五層が30mm厚の鍛造タングステン(重さ26kg)というもので、なんとプラッターだけで厚さ163mm、重さ120kgという桁外れなものになっている。

 なおこのプラッターはディスクバキューム用のエアーで吸着される仕組で、機械的なストレスがかかるネジなどは使われていないのも特長となっている。ちなみに回転時はプラッターベース(超超硬質ジュラルミン製で、重さは35kg)からエアーで10ミクロン浮上しているそうだ。

 これらの徹底した素材へのこだわりの結果、Air Force ZEROのターンテーブル部総重量は350kgにも達したという。サイズもW910×H335×D677mmと、かつてない大きさだ。

本体前面操作部。3つのダイヤルは左から電源、回転数/ピッチ、モニター部を挟んでディスク吸着用

 Air Force ZEROはターンテーブル部以外にパワーサプライが3台セットになっている。ぞれぞれプラッター浮上用ポンプやモーター用、ディスクバキューム用ポンプに電源を供給しており、すべてW430×H205×D365mmというフルサイズだ。

 さすがにこのサイズを乗せるラックはなかなかないのではと心配にもなるが、今回はAir Force ZEROの専用ラックも準備されている。スペインのアルテニアオーディオ社製で、本体とパワーサプライを2台収納できるラックAと、パワーサプライ1台とフォノイコライザー(別売)を収納するラックBがセットになっているそうだ。

 音質に関連してAir Force ZEROならではだったのが、吸引用ホースの材質でも音が変わるということだろう。今回も数十種類のホースをテストして、最終的には黒のシリコン系が採用されている。こういった細かい点まできちんと配慮されているのは、高級機ならではだ。

 試聴タイムでは、西川氏のレコードコレクションの中から、高音質ディスクを再生してくれた。再生システムは、フォノイコライザーがスイスHSEの「ML7」で、アンプはコンステレーションオーディオのセパレート型、スピーカーはウィルソンオーディオ「ALEXX」という布陣だ。

当日の試聴では、ステラが輸入販売を手がけるスイスHSEのフォノイコライザー「ML7」を組み合わせている

 ハリー・ベラフォンテの「ダニー・ボーイ」や美空ひばりの「悲しい酒」、マイルス・デイヴィス「ライブ・アラウンド・ザ・ワールド」など様々なジャンルの音楽が再生されたが、共通しているのは音に深味があることだ。

 音の出方がひじょうに静かで、スクラッチノイズもまったく気にならない。アナログレコードらしい自然さ、心地よさがありつつ、同時に情報量も多い。こんなレコードの音は初めて聴いた。西川氏も話していたが、極めていくとここまでのことが出来るのかという、素直な驚きを感じさせてくれた。

 Air Force ZEROは、今年の秋頃までには発売したいとのことで、価格は未定ながら4000万円台になる見込みとか。価格、サイズ、音質のすべてが桁外れのこのモデル、貴方も一度はその音を体験してみていただきたい。

Air Force ZEROのトーンアームベース。左のチタン製が通常仕様で、右のタングステン製はオプションとして準備されている

フロントパネルには、「Zero」の文字が刻印されていた