パナソニックとJVCケンウッドが、高画質映像再現のためにメーカーの垣根を越えた画期的な取り組みを実施。その成果を体験できるお披露目&内覧会が開催された。

今回の連携は、パナソニックのUHDブルーレイプレーヤーとJVCのプロジェクターをつないで、HDR10コンテンツをいかに理想的な状態で再現できるかに注力している

 今回の新提案は、パナソニックのUHDブルーレイプレーヤー「DP-UB9000」と、JVCのプロジェクター「DLA-V9R」「DLA-V7」「DLA-V5」を組み合わせた場合に有効なもので、「HDR10」方式で収録されたUHDブルーレイを理想的な状態で再生できるように考えられている。

 そもそもHDR10で収録されたUHDブルーレイは、理論的には最大10,000nitsまでの信号が記録可能だ。ただし実際にはスタジオのマスターモニター等の制約もあり、その多くが1,000nits(一部4,000nitsもあり)までのピーク輝度で収録されている。

 一方で映像を表示するディスプレイやプロジェクターの表示能力は機種ごとにまちまちで、1,000nitsの表示能力を持っている製品は一部に限られているのが実情だ。特にホームシアター用プロジェクターで1,000nitsの明るさの映像をきちんと投写できる製品はない。

 そのためHDRで収録された映像が飽和(白飛び)しないように、ディスプレイの表示能力に合わせて、もともとの映像信号の輝度レンジを圧縮する必要がでてくる。この機能は「トーンマップ処理」と呼ばれ、HDR対応ディスプレイ等に搭載されている。

 ただしこれにはひじょうに高度な処理が必要となる。例えば、一定値以上のピーク輝度を均一化してしまうと(固定トーンマップ)、高輝度部分の情報が飛んでしまうし、高い輝度を寝かせていく際のカーブの作り方次第では色がおかしくなってしまう可能性もある。

 逆に、単純にディスク側のピーク輝度をディスプレイの最高輝度に合わせてしまうと全体的に輝度を落とすことになり、画面が暗くなって暗部情報がつぶれてしまう。実際にプロジェクターユーザーでUHDブルーレイの絵がぱっとしないという場合は、HDR再生がうまくいっていないケースが多い。

高輝度部分のトーンマップ処理をUB9000が受け持ち、低〜中輝度の再現性をJVC側で改善することで、いっそうの高画質化が可能になっている

DP-UB9000は、自動独自のオートトーンマップ機能を搭載

 パナソニックではいち早くこの問題を認識しており、今回のDP-UB9000では、ディスクのタイトルごとに最適なトーンマップ処理を行なう「HDRトーンマップ」機能を搭載してきた。再生機側でこの機能を搭載しているのは、国内モデルではUB9000のみだろう。

 この機能を「オン」にすると、再生するUHDブルーレイのHDR10メタデータ(Max CLL=コンテンツの最大輝度とMax FALL=フレームごとの平均最大輝度)を取得し、その内容に応じて自動的に最適なトーンマップ処理を加えた信号として出力してくれるという。

 ちなみにディスクによってはMax CLLやMax FALLの値が記録されていないものもあるが、その場合も制作時のマスターモニターの最大輝度は記録されているので、そちらを参考にして処理を行なっているそうだ。

 ここでもうひとつパナソニックならではの配慮は、低〜中輝度部分の信号に手を加えていない点だろう。こうすることで画面が暗くなるといった弊害はないし、高輝度部分のみを最適にトーンマップすることで、色の歪み等の発生も抑えることができるそうだ。

 ちなみにパナソニックではトーンマップ時の色再現にも配慮して、RGB信号それぞれの連携を取りながら処理を行なっている。たとえば夕日の映像で、太陽の明るいオレンジ色を抑えようとしてR(赤)のみ極端に抑制してしまうと、結果としてオレンジ色が正しく再生できなくなる。

 こんなことがないように、UB9000では、Rに加えた補正と同じバランスになるようにB(青)やG(緑)にも連携処理を行なっているのだ。結果として夕日の明るい部分でも、ピークは抑えつつ、正しい色あいを保った映像として再現できるそうだ。

 さらにUB9000から信号を出力する際には、処理した内容に合わせてHDR10のメタデータを書き替えている。これにより、ディスプレイやプロジェクター側が入力信号に合わせたトーンマップ処理を行なっている場合でも、映像が破綻することはない。

連携動作のイメージ。UB9000側で500nitsにトーンマップ処理した信号をV9Rが受け取り、JVC側のトーンマップを加えると同時に、カラープロファイル処理を18ビットで行うことで、より滑らかな階調再現を獲得している

JVCプロジェクターでチューンしたふたつのモードが搭載された

 なおUB9000の「HDRトーンマップ」には接続するディスプレイとして6種類が準備され、それぞれに合わせてトーンマップの目標輝度が設定されている。例えばディスプレイタイプ「有機EL」と「中・高輝度の液晶」はどちらも目標輝度1,000nitsで、「超高輝度の液晶」は1,500nits、「ベーシックな輝度の液晶」は500nitsだ。

 そして残りのふたつが、今回のJVCとのコラボレーションを通して、プロジェクターに最適化したモードとなる(実際の絵づくりをJVCのプロジェクターで行なった)。「高輝度のプロジェクター」は500nits、「ベーシックな輝度のプロジェクター」は350nitsという目標輝度に設定されている。

 ふたつの違いは、「高輝度のプロジェクター」はどちらかというと明るさ重視で、「ベーシックな輝度のプロジェクター」では若干暗くなるが、色再現性は向上するという。普段は「高輝度のプロジェクター」で使い、色の豊かさを楽しみたい映画作品などで「ベーシックな輝度のプロジェクター」を選ぶといいだろう。

 一方のJVCプロジェクターも、もちろん入力信号に対してMax CLL/Max FALLを参照にしたトーンマップ処理は行なっているが、UB9000で500nitsの信号として送りだしてくれることで信号処理が楽になり、映像自体も明部の色や階調の再現性向上を達成できるという。

 なおここまでの処理については、UB9000の「HDRトーンマップ」を「オン」にして、「HDRディスプレイタイプ」から上記ふたつのいずれかを選んでおくだけで、JVCプロジェクターも連動して最適な映像を再現してくれるので、ユーザーは特に意識しなくてもいいそうだ。

UB9000の映像調整メニュー。「詳細設定」の「HDRディスプレイタイプ」という項目の中に6種類の選択肢が準備されている。DLA-V9R/V7/V5と組み合わせる場合は、「高輝度のプロジェクター」か「ベーシックな輝度のプロジェクター」を選ぼう

暗部階調を改善する、JVCならではの提案も

 とはいえJVC側もUB9000から最適化した信号をもらって再生するだけでは“連携”とはいえないと考えたようで、今回独自の提案を行なっている。

 それが、UB9000の信号に合わせた専用カラープロファイルの提供だ。UB9000のディスプレイタイプが「高輝度のプロジェクター」の場合は、カラープロファイル「Pana_PQ_HL」、「ベーシックな輝度のプロジェクター」では「Pana_PQ_BL」を選ぶといい(この組合せを間違えると映像が正しく再現されないので注意)。

 両モードはJVCが業務用プロジェクターで使っていたアルゴリズムを家庭用機に応用したもので、RGBそれぞれを18ビットで処理している。この結果、低〜中輝度部の情報が細やかに再現され、より滑らかで階調再現も豊かな映像が楽しめることになる。映像全体としても、精細感、立体感、透明感がアップする。

 なおJVCではこの新しいカラープロファイルの提供を3月中旬にスタートする予定という。V9RとV7は同じ内容だが、V5は搭載しているカラーフィルターの違いもあり、「Pana_PQ_HL」のみの追加となる。

3月中旬提供予定のファームウェアーをインストールすると、UB9000向けのカラープロファイルが選べるようになる。対象モデルはDLA-V9R/V7/V5の3機種だ

これまでのHDR10映像から、ベールが一枚剥がれる

 内覧会では、実際のUHDブルーレイを使って画質の違いのデモも行なわれた。再生機はUB9000と、最新カラープロファイルをインストールしたV9R、スクリーンサイズは120インチだ。

 『ハドソン川の奇跡』や『マリアンヌ』『ボヘミアン・ラプソディ』などのUHDブルーレイを再生してもらったが、どの作品でもフォーカス感やS/Nの改善が一目で分かる。さらに画面のヌケがよくなり、立体感も際立ってくる。

 『ハドソン川の奇跡』のニューヨークのネオンは、明るいながらも階調が出て、モデルの女性の表情まで見えるし、従来は飛び気味だった「ライオン・キング」の看板の文字までしっかり判別できた。

 『ボヘミアン・ラプソディ』では、フレディの肌や衣装の質感がここまで見えるのかと驚くほど。さらにスタジオに並んでいる録音機材のランプは、強い輝きを持ちながら、同時に赤や青の色がちゃんと乗っている。

 4K/HDRというフォーマットの恩恵は、これまでのプロジェクター視聴でも充分に再現できていると思っていたのだが、今回のUB9000とV9Rが“連携”した画質を観てしまうと、まだまだ先があったのだと痛感させられた。

 また面白い試みとして、MGVC(マスターグレードビデオコーディング)収録のブルーレイ『山猫』をUB9000で4Kにアップコンバートした映像も観せてもらった。

 こちらはブルーレイなので、信号自体はSDR&色域BT709となる。UB9000で解像度を変換しているので、V9Rには4K/SDRとして入力されるわけだ(MGVC収録なので階調は12ビット)。

 その恩恵か、舞踏会シーンの壁紙の描写のなめらかさや、バート・ランカスターやアラン・ドロンの燕尾服の微妙な描きわけ、さらに絶妙な色の再現性などは2Kのブルーレイを観ているとはにわかには信じられない。なおUB9000ではアップコンバートの際に、輪郭などの強調感をDMR-UBZ1等よりも抑えているという。それもあり、120インチで観ても輪郭をきついと感じることはなかった。

パナソニックのUHDブルーレイプレーヤー「DP-UB9000」。市場想定価格は21万円前後

プロジェクターでHDRディスクの実力を楽しめる、貴重な提案

 今回の両社の“連携”は、パナソニックのUB9000開発担当者が、個人的に交流のあったJVCのプロジェクター技術者に声をかけたことから始まったそうだ。

 パナソニックとしては、現在プロジェクターをラインナップしていないが、実際にはUB9000クラスのプレーヤーはプロジェクターと組み合わせて使われることが多く、その際の画質がよくなれば、オーディオビジュアルファンにも喜んでもらえるという発想だろう。結果として、予想を遙かに超えた成果が達成できたと開発陣も驚いていた。

 当然ながら、JVC以外のプロジェクターでも同様な“連携”を実現して欲しいと思うオーディオビジュアルファンは多いだろう。今回はパナソニックとJVCの製品ラインナップや、お互いの製品に於ける絵づくりの方向性などが一致した結果“連携”が実現したとかで、他のプロジェクターメーカーとはそういった話し合いの前の段階のようだ。

 とはいえ、日本のメーカーが協力することでこれだけの成果が達成できる以上、より多くのブランドが集まった取り組みに期待したくなるのは当然のこと。ぼくを含めて、HDR10ディスクの再生に苦労しているプロジェクターユーザーが喜ぶような、各社の展開を期待したい。

内覧会のデモで使ったDLA-V9Rは、市場想定価格200万円前後だ。同じく連携機能対応の弟機DLA-V7は市場想定価格100万円前後で、V5は75万円前後