映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第20回をお送りします。今回取り上げるのは、稲垣吾郎の新たな一面が垣間見えるという『半世界』。ファンも観たことがないかも? という稲垣の芝居をとくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

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『半世界』
2月15日(金)TOHOシネマズ日比谷 全国ロードショー

 TV「金田一耕助」シリーズのような主演作がある一方で、超マザコン男(「不機嫌な果実」)や極悪藩主(『十三人の刺客』)など傍役でもギラッとするところを見せてきた稲垣吾郎。

 今年は、手塚治虫原作の実写映画化『ばるぼら』(二階堂ふみ相手にけっこう踏み込んだ濡れ場があるそう)、大林宣彦監督直々の指名で出演が実現した『海辺の映画館-キネマの宝箱』の新作2本が待機中。でもその前にこれだ。

 長谷川博己(『ラブ&ピース』『シン・ゴジラ』)や池脇千鶴(『そこのみて光輝く』)といった実力派を前にしても、自分の気配で画面を染める。『どついたるねん』(1989年)から『KT』(2002年)、キューバ・ロケを敢行した昨年の『エルネスト』まで、映画監督は映画を撮ってナンボ、を実践してきたベテラン、阪本順治監督の最新作。

 自分は人生の岐路に立っているのか。そうではないのか。四十間近い幼馴染みの男3人の物語。田舎町に広がる波紋を描く。

 稲垣が演じるのは、今日は昨日の延長と、ある種の鈍感さをまとって、妻(池脇)や息子に接してきた平凡な男・紘(ひろし)だ。父親がやっていた炭焼きの仕事を継いでいるが、それも望んだものではなく、かといって反発したものでもない。この役作り、個性の消し方は見事。ファンもこんな稲垣吾郎を見たことはないのではないか。

 答えを示す作品ではない。なので、受け取り方はひとそれぞれだろうけれど、題名の「半世界」とは一体なんだろうか。

 夫婦、親子、友人、仕事仲間。ひとは身体の半分ほどを世間にさらして、さまざまな関係性のなかで生きている。そのどれもが自分であり、どれもが自分でない曖昧とした感覚。14歳のころから芸能界で育ち、にもかかわらず中心線からズレたような、稲垣吾郎の後ろ半分がこの物語にフィットしたように思われる。

 おじさんが共感できる(元?)アイドル・スター映画。三重県志摩地方の景色もいい。面白いところに球が投げられ、それが成功している作品。

『半世界』
2月15日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー
監督・脚本:阪本順治
出演:稲垣吾郎 長谷川博己 池脇千鶴 渋川清彦 小野武彦 石橋蓮司
配給:キノフィルムズ
2019年/日本/1時間59分/ビスタサイズ
公式サイト http://hansekai.jp/

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