全国のNHKが、放送の現場で得たノウハウやアイデアを生かして開発した機器や取り組みなどを展示・紹介する「第48回NHK番組技術展」がNHK放送センターで開催された(2月10日~13日)。

 今回の展示は全部で23項目。NHKが総力を挙げて開発・運用している8K関連の展示から、近年話題のAIを活用した番組制作技術まで多彩な内容となっていた。ここでは、編集部が気になった展示、受賞展示などをメインに紹介したい。

国際宇宙ステーションからの8K映像
 国際宇宙ステーション「ISS」に滞在している宇宙飛行士が撮影された8K映像が、8Kディスプレイで上映されていた。収録カメラはREDの「WEAPON Helium」、レンズはニコン製だという。

ISSの模型

深海8Kプロジェクト
 国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMS-TEC)とNHKが共同で開発した深海撮影用の8Kカメラシステムを展示。昨夏に小笠原沖の海底(水深約1300m!)で、生物や熱水噴出孔(チムニー。出口付近の水温は300度という)などを撮影。麻倉さんの連載でも紹介したように今月、8Kでオンエア済だ。耐圧式のLED照明を使ったことで、深海の鮮やかな色彩を映し出すことに成功

映像を元に制作されたジオラマ(?)。エビがリアル!! 本物の色味に近いという

奥がカメラ収納用ケース(水深3000mまで対応するとか)。右下が照明。照明は遠隔操作できないので、タイマーで点灯時間を設定して使ったそう(バッテリーは約1時間)。左下とそこからケーブルが伸びているのがマイク

実際に持っていったというカラーチャート。これを使って深海の色彩を再現した

4K-HDRドラマ制作技術
 4K-HDR(HLG)で制作したドラマを効率的にSDRに変換するというシステム。色域を含めた変換のアルゴリズムを3D-LUTとして出力。小さな筐体(LUT BOX)にデータを内包しており、ハードウェア的な感じで一括変換が可能。4K撮影の現場などで、リアルタイムにSDRの確認も行なえるという

D-LUTを使った一括変換システム

立体音響再現技術を使ったオーディオドラマ
 ラジオドラマを、イヤホンやヘッドホンで聞く祭に、より音響効果を楽しめるようにする技術。ダミーヘッドマイクによる録音手法だけでなく、ソフトウェアを使った立体空間の再現にも対応する。すでに「FMシアター」や「青春アドベンチャー」などでその技術を使った作品を放送中という。8K放送の22.2chの変換も視野に入っているそう

立体音響再現技術を使ったオーディオドラマ

ロケミキサー用バッテリーと専用充電器
 ロケ用の音声ミキサーに使う専用バッテリーを、USB給電可能な仕様に改造。モバイルバッテリーからの充電にも対応するようになった。今春より運用開始予定だとか

茶色のものが新タイプ。写真の3chミキサーは「ブラタモリ」のロケでも使っているという

クロマキーレス背景分離・合成システム「Keydream」
 松江放送局が実際に運用している、タイトルの通り、従来のクロマキーセット(緑バックの室内で撮影して、その緑の背景に他の映像を合成する手法)を使わずにCG合成ができるシステム。カメラ上部に、距離センサーと骨格センサー(人間の動きを識別する)を設置し、それを使って人と背景を分離、分離した人間と別の背景をリアルタイムで合成できるものだ。現状ズーム、フォーカスには非対応とのことで、そこは今後の課題になるという

カメラ上部に距離センサー骨格センサーを搭載

人物が緑で表現(識別)されている

全方位カメラを使用したサーバーシステム
 360度カメラを球体の円周上(赤道部分)に配置し、全方向の映像を記録できるシステム。サーバーには3日分の映像をストック(記録)しておけ、好きな(任意)の部分を切り出すことが可能。ハウジングは全天候型であり、下部の黒い筒部分には冷却のためのシステムが収納されているそう(かなり発熱するという)