CES2019のパナソニックブースでは、テクニクスの新製品にも大きな注目が集まった。それがDJ用アナログターンテーブル「SL-1200MK7」と、幅広いユーザーに向けた「SL-1500C」だ。特にSL-1200MK7は、前モデルの「MK6」から約9年ぶりであり、プロのDJからの期待も大きい。今回はこれらテクニクス新製品の詳細についてインタビューを実施した。対応いただいたのは、パナソニック 執行役員 アプライアンス社副社長・技術本部長・テクニクス事業推進室長の小川理子さん、テクニクスCTOの井谷哲也さん、ホームエンターテインメント事業部 商品技術部の水俣直裕さんの3名だ。(編集部)

左から、テクニクスCTOの井谷哲也さん、麻倉さん、パナソニック 執行役員 アプライアンス社副社長・技術本部長・テクニクス事業推進室長の小川理子さん、ホームエンターテインメント事業部 商品技術部の水俣直裕さん

テクニクス4年間の歩みは?

麻倉 今日はお時間をいただきありがとうございます。さて、今回のCES2019では、「SL-1200MK7」と「SL-1500C」が話題です。ここに来て、ターンテーブル戦略が一気に加速してきた気がしますが、4年目を迎えたテクニクスの現状をお聞かせ下さい。

小川 最初にテクニクスブランドを復活した時は、流通さんとのお付き合いも含めてすべてを構築しなおさなくてはなりませんでしたし、取り扱う製品数も少なかったので、たいへんでした。それから4年でようやく23機種、29ヵ国まで拡大できました。

 欧州ではドイツとイギリス、あとは日本が大きなマーケットですが、ターンテーブルが加わってから北米でも製品が動き出しています。ラインナップについても、当初の予定通り充実し始めています。

 一番大きい成果は、技術的にデジタルとアナログの両方を展開していることで、このことが社内にいい影響を与えています。アナログ担当者はデジタルの技術者に物づくりの面で刺激を与えていますし、ターンテーブルについては回転の制御を最新のデジタルで行なっています。こういったシナジーを実現出来ているのが、テクニクスの強みだと考えています。

麻倉 いい価値でアナログとデジタルの蓄積が出来てきたということですね。そういった進歩は、当然流通サイドでも評価してくれているでしょう。

小川 そうですね。昨年発売した「SL-1000R」「SP-10R」についても、よくぞここまでやってくれたという評価をいただきました。またすべてのハイファイ雑誌やメディアで高い評価をもらっています。

 それは私達の自信につながっていますし、期待に応えられる製品ができたんだと感じています。営業サイドも自信をつけてきて、SL-1000Rなどは計画の約3倍で動いています。

麻倉 それは凄い。テクニクスとして欠けていたピースが埋まってきて、ジャンル的にはほぼすべてが揃ってきた印象ですね。

小川 テクニクスとしてやるべきカテゴリー、機種は揃ってきたと思っています。

麻倉 そうなると、2019年以降はこれまでと違う展開が必要になりますね。次はどんな作戦をお考えなのでしょうか?

小川 パナソニック全体も今年で創業101年目ということで、変革をしていくという号令がかかっています。そもそも、「新しい時代のライフスタイルの中でいい音を聴いてもらう、暮らしに音楽を」が私のテーマですので、それをテクニクスというブランド資産を活かして展開していきたいと考えています。

麻倉 製品ゾーンとして、横への展開も進めていきますか?

小川 今回展示したヘッドホンも、テクニクスのブランドで発売します。これまでのヘッドホンはパナソニックブランドでしたので、セールスチャンネル戦略をどうするかについて、販売会社と3年くらいかけて議論してきました。

 でも、いきなり量販店に出していくと、特に北米では専門店さんに嫌がられますので、そのあたりのバランスをみて展開していこうと考えています。

新製品のSL-1200MK7

待望の「SL-1200」シリーズ最新モデル

麻倉 さて今回の新製品についてうかがいたいと思います。まずはSL-1200MK7ですが、原点回帰といいますか、DJ用モデルとして開発されています。これはハイファイ用モデルと技術的にどこが違うのでしょう?

小川 まずはDJのお作法にあっていないといけません。つまり、DJの方に実際に使ってもらった時に、操作がどれだけ違和感なくできるかが重要なのです。ここがきちんとしていないと、使い物にならない。そこで試作機を世界中の有名なDJに使ってもらい、フィードバックをもらいながら開発を進めました。

麻倉 具体的にはどんな反応があったのでしょうか?

小川 今回のSL-1200MK7は逆回転ができます。今までのSL-1200シリーズにはなかったものですが、逆回転ができたら面白い使い方ができるかもしれないと考えました。

 そのお話をしたところ、アーティストやクリエイターさんたちは、面白い音づくりができる可能性を感じ取ってくれました。ピッチコントロールの幅もかなり広げたので、表現力としてもかなりアップしているはずです。

 またどうやったらスクラッチがうまくできるかなといったフィーリングの部分についても意見をいただき、回転制御などを含めて検証していきました。

井谷 技術的にはトルクとブレーキをどうするかが重要でした。

麻倉 通常とは違うトルクやブレーキの制御が必要だと?

井谷 そうですね。人にもよりますが、ずっとSL-1200シリーズをご愛用いただいているDJの方もいらっしゃいます。そうなると、これまでのSL-1200から感覚的に外れてしまうと、戸惑ってしまうそうです。ですので、この部分は過去のモデルに合わせ込んで、今までと変わらずに使っていただけるように仕上げています。

麻倉 2016年発売の「SL-1200G」や2017年発売の「SL-1200GR」は、DJ用とは違う音づくりがされていました。

井谷 そうですね。SL-1200G/GRで狙っている部分は、DJ用とは少し違いました。高音質のためにプラッターの重さなどが変更されています。

麻倉 プラッターの重さは音質を狙うなら重たい方がいいけれど、DJ用としては重すぎてはいけない。

井谷 そのあたりのバランスですね。ただ、昨年SL-1000Rを開発したときに、学習サーボ機能をアップさせています。それによってわかったのが、最適なサーボ機能を搭載できれば、音質的にも有利になるということでした。

 今回のSL-1200MK7やSL-1500Cではそれらの発想を投入して、値段を安くしても、音質的には変化させないことを目指しました。実際にSL-1200MK2やMK5をお使いのDJの方などは、音が違うねと驚いてくれます。メリハリが付くというか、ダイナミックレンジの広い部分で差が出てきます。

麻倉 それは設計側としても、狙っていた部分なのでしょうか?

井谷 もともとの音質がくっきりさを志向していますので、そういった音づくりも意識していました。

麻倉 今の音楽を聴くのなら、しゃきっとした音が合うという面もあるでしょうね。

小川 しゃきっとした音も必要だとは思いますが、しゃきっとしすぎて軽くなってはいけないですね。やはりずっしりとした重み、コクの部分と、キレを両立しなくてはいけないと思っていました。

 CES直前にベラッジオホテルで開いたDJイベントでは、3人のスタイルの違うDJが1時間ずつプレイしてくれましたが、ずっしりしたおなかに響く低音と、リズムのキレのよさが体験できたと思います。

テクニクスの一体型システム「OTTAVA SC-C70」で、UAレコードの2nd CD「バルーション/小川理子」を再生

「SL-1500C」は、“賢い”ターンテーブル

麻倉 さて、次にSL-1500Cですが、これは普及モデルという位置づけになりますね。

小川 今は市場に3万円くらいのターンテーブルが沢山あり、ここが若い人の購入ゾーンとも言われています。テクニクスでもそこまでではありませんが、買ったらすぐに音が出る製品を、と考えました。

 今回は入門層に向けてあらかじめカートリッジも付いていて、さらにMMフォノイコライザーも内蔵しています。それらのトータルで、いままでこんな音は聴けなかっただろうというくらい、音質にこだわりました。

麻倉 SL-1500Cは、お値段はどれくらいを想定しているのでしょう?

小川 北米で1200ドル以下を予定しています。

麻倉 普及型とはいえテクニクスの精神、音はしっかり再現できないといけない。それをクリアーするための、音をよくするポイントはどこだったのでしょう?

井谷 先ほど申し上げたように制御系に学習機能をいれていますが、それが功を奏しています。コストダウンをすると部品の精度は下がりますが、それを制御側でカバーして性能は落とさないようにしました。それぞれのパートごとに精度を上げていくと、音にもいい効果があることはわかっています。

 例えば、SL-1500Cはデジタルで回転制御をしていますが、最後はモーターなので3層の交流を作ります。ここでD/A変換がばらついてしまうと、回転にムラができます。しかしそのあたりをきちんと学習させると、きれいにバランスしますので、余分なサーボをかける必要もなくなります。結果として性能をしっかり引き出せるわけです。

小川 “賢い”ターンテーブルなのです。それがコストダウンのひとつの要因になっています。

井谷 また、フォノイコライザーを内蔵したことも、音質的に有利だったかもしれません。フォノケーブルがなくなると、それなりに音にもいいのかなという気もしています。

 カートリッジも付属していますが、将来的にユーザーさんが音をよくしたいと思ったら、カートリッジを交換していただければグレードアップも可能です。

麻倉 フォノイコライザー付のアンプじゃなくても、簡単にアナログレコードを楽しめるという点もユーザーにはありがたい。

井谷 そうですね。中級クラスのプリメインアンプでは、フォノイコライザーを搭載していない製品もありますので、そういった製品と組み合わせていただければと思っています。SL-1500Cはそれなりのグレードのフォノイコライザーを内蔵していますので。

上段がネットワーク/SACDプレーヤーの試作モデル

ネットワーク/SACDプレーヤーはミュージカリティの再現を目指す

麻倉 さて、いよいよ期待のネットワーク/SACDプレーヤーについてうかがいましょう。この製品は昨年IFAで発表され、テクニクスがSACDを採用したということで、大きな話題になりました。今回の展示品も開発途中ということですが、現時点で技術的にこだわった点があったらお聞かせ下さい。

井谷 今回は、音のチューニングに時間をかけたいと考えています。それもあり、担当者の水俣が試行錯誤を繰り返しています。

 パーツとしてはAKM(旭化成エンジニアリング)のDACチップを使い、それ以降の回路はディスクリートで、細かなチューニングを加えている段階です。電源回路も、スイッチングでありながらノイズをどうやって減らすかに注力しています。現段階でもなかなか高S/Nなものが出来上がっています。

麻倉 スイッチング電源でS/Nがいいというのは難しそうですね。

井谷 とても難しいのですが、スイッチング電源は瞬時のパワーは持っていますので、そこを上手く活かしたいですね。

麻倉 小川さんからみて、テクニクスのSACDプレーヤーの意義というのはどこにあるのでしょう?

小川 お客様がSACDを再生したいというニーズがある以上は、テクニクスとしても発売して当然だと思っています。今までテクニクスのディスクプレーヤーはSL-C700しかありませんでしたので、そこにネットワークとSACDが楽しめるプレーヤーを投入することにしたのです。

 スイッチング電源については、テクニクスを始めた当初から取り組んできました。最初はざらつきが気になっていたのですが、今回は3年をかけて電源まわりを研究した結果、デジタルの革新をできたのではないかと感じています。

 開発者にはアナログのリファレンスの音、厚みや重みがあって、かつ違和感なく、すっと心に入ってくる、そんな音を実現できないと駄目だと話していました。今回はその目標をしっかり実現できていると思います。

麻倉 その点について水俣さんにもうかがいたいのですが、スイッチング電源の開発ではどんな目標をあげていたのでしょう?

水俣 情報量と空間表現という点に加えて、低域の押し出し感、音楽性を意識しました。数字では見えないところをどうやって表現するかを常に意識してチューニングを行ないました。

麻倉 今の段階で、完成度はどれくらいでしょう?

水俣 ディスク再生機能としては、9割くらいのレベルには到達できたと思います。

麻倉 そこまでできているのですね。その中で特に気を配ったポイントはありましたか?

水俣 ひとつはアナログ出力です。D/A変換に使用するフィルター回路には、通常はオペアンプICを使いますが、ここは音質への影響がとても大きいのです。そこで今回はICではなく、アンプモジュールを自分たちで作りました。

 アンプモジュール内部の電流量とか、使うトランジスターでも音が変わります。ここをディスクリートで組むことで、狙った音を実現しようと考えたのです。抵抗自体も薄膜抵抗を使うなどして、最終的にはオーディオ用オペアンプに比べても雑音の低い、いいレベルに仕上がったと思います。

麻倉 確かにオペアンプは重要なパーツですから、音質への効果は大きいでしょうね。他にはありますか?

水俣 もうひとつは電源です。

麻倉 ちなみに、今回はアナログ電源を使おうという発想はなかったんですか?

水俣 スイッチング電源の応答性のよさはアナログでは出せません。ここは音の立ち上がりに寄与する重要なポイントですので、活かしたかったのです。

 一方でS/Nが問題で、今回はスイッチング電源そのものを負帰還にしてスイッチング周波数を変動させないようにしました。変動するとどうしてもそれがノイズになりますので。

 さらにその後段にアクティブのフィルター回路を入れて、ノイズを抑えました。ここは帰還型ですが、そこの制御に使う基準電圧は何ボルトがいいのかなどを、細かく詰めていきました。最終的には、オーディオ用のアナログ電源と比べても劣らないほどのノイズフロアーを実現できています。

麻倉 先ほど小川さんから、リファレンスとしてアナログプレーヤーの音を目指すように指示したとうかがいましたが、その点はどうでした?

水俣 音がデジタルっぽく、硬くなってはいけないと考えていました。中でもミュージカリティ、空間の暖かさを出せないかと考えました。

麻倉 “ミュージカリティの再現”といっても難しいですよね。

水俣 そうですね。ここは素直に、私自身が聴いて楽しいかということで考えました。

小川 デジタル特有の耳に付く部分、ざらつきを感じたり、音の輪郭がぎざぎざしているといった気になる部分を、すべて乗り越えていこうというのが今回の目標でした。

麻倉 今回はMQA-CDにも対応していますが、ここでの音づくりはどうなっているのでしょうか?

井谷 そこは、これからです。MQA-CDについては、DAC以降のチューニングはメリディアンさんのお墨付きが必要になります。

麻倉 SACDとMQA-CDでは、そもそもの音づくりが違います。同じマスターであっても、アナログ的な感じはSACDの方がでてきますが、粒立ち感やディテイル再現、情報量はMQA-CDが際立ちます。MQA-CDはカラフルすぎるくらい華麗なのです。そのあたりの違いもうまく再生できるように、チューニングしてもらいたいと思います。

学びから活用へ。テクニクスの次世代を

麻倉 では最後に、今後のテクニクスについて、お願いします。

小川 2015年から4年間の技術の蓄積がようやく定着したかな、と感じています。技術者ひとりひとりが成長してきて、現場の開発プロセスの中で必要なことをきちんと入れ込んでいけるようになっている。このことが、チームの強さにつながっているのではないでしょうか。

麻倉 ベルリン・フィルとの協業についてはどうでしょう?

小川 昨年は、ベルリン・フィルのトーンマイスターであるクリストフ・フランケさんにたいへんご尽力いただきました。そのおかげで、基本的なポイントを学ぶことは出来ましたので、これからは自分達の頭で考える時期、“学びから活用”のシーズンに入るタイミングだと思っています。あまりご負担を掛けないような形で、ご指導をお願いしたいと思っています。

麻倉 学んだことが製品に反映される時期になりますね。楽しみにしています。今日はありがとうございました。