パナソニック、サムスン、20世紀フォックスの3社が制定したダイナミック・メタデータHDR規格「HDR10+」。3社はライセンス管理会社(LLC)を設立し、2018年6月20日、ライセンスプログラムが開始された。

サムスンエレクトロニクスの8K液晶テレビ

 大きなハイライトは昨年9月のIFA。直前にSoC、コンテンツ、制作ツールなどの5つのカテゴリ
ーから19社が採用を発表していたが、IFAが始まってすぐに26社まで増えた。さらにその後のCESまでの半年で59社が正式にアダプター契約を結んだ。

 わずか半年で、倍増以上だ。HDR10+は勢いが強いのである。外部認証拠点(テストセンター)も順調にワールドワイドに展開する。これまでの日本、韓国、北米に新たに中国TIRTが参加した。日本のAllionもヨーロッパに拠点を設ける予定。

 では、ライセンスカテゴリー別に参加企業を紹介しよう。

①ディスプレイ(TV):パナソニック、サムスンエレクトロニクス、台湾のTPV(ヨーロッパ向けのフィリップスブランドのテレビを製造)……など、5社。
②ソース(UHDブルーレイ、OTTなど):アマゾン、OPPO、パナソニック、サムスンエレクトロニクス……など9社。
③SoC:Mediatek, Novatek, Qualcomm、サムスンエレクトロニクス、V-silicon……など12社。
④コンテンツ:ワーナー・ブラザース、20世紀フォックス……など10社。
⑤制作ツール:アストロデザイン、Ateme、Color Front、Deluxe、Grass Valley、Rohde & Schwarz、Teledyne Lecroy……など26社。

 タイトルは順次発売予定で、開発会社の20世紀フォックスとワーナーがリリース予定だが、少し遅れているという。パナソニックやサムスンエレクトロニクスの19年モデルは出荷時から対応する。

パナソニックGZ2000

 今後のHDR10+の展開では3分野がターゲットだ。

①プロジェクターは、HDR10、Dolby Vision、HLGの既存HDR規格はすべてテレビ用だ。画面サイズや、投写距離で輝度が変わるプロジェクターは、出荷台数が少ないこともあって、無視されてきた。私がDolbyに「ぜひ、プロジェクター用のDolby Vision規格を作って欲しい」と頼んでも、無関心だった。

 これまでプロジェクターメーカーは、プロジェクター用のHDR規範がなく、困っていた。HDR10をベースに独自のHDR回路を組むしかなかったが、HDR10+によりダイナミック・メタデータによる精密なHDR動作が得られるのは、朗報だ。

②AVR(AVレシーバー)カテゴリーは、パススルーの実現である。UHDブルーレイプレーヤーや、セット・トップ・ボックスからのHDR10+信号をHDMIを使いAVR経由で、テレビに回す規格が必要だ。サウンドバー、リピーター、スプリッターも対象だ。

③モバイルカテゴリー。SoCの参加社にQualcommが入ったことでもわかるが、モバイルは有望なカテゴリーだ。すでにライバルのDolby Visionは、モバイル参入を果たしている。スマホ画面の輝度性能に基準を設ける、認証プログラムだ。

 最後に意外なニュース。昨年春にディズニー・ジャパンから発売されたUHDブルーレイ『メアリと魔女の花』『イノセンス』は、実はすでにHDR10+が仕込まれていたことが、CESで判明。20世紀フォックスタイトルのリリースが遅れているので、実質的に世界初のHDR10+タイトルということになる。世界最速にHDR10+を味わうには、パナソニックの対応テレビ、対応UHDブルーレイプレーヤーで再生すれよい。

『メアリと魔女の花』のUHDブルーレイ(※4K/UltraHD版は初回数量限定生産)

『イノセンス』のUHDブルーレイ