故郷でもある奈良を中心に活動している塩崎祥平監督の最新作となる『かぞくわり』が、1月19日より、有楽町スバル座ほかにて全国順次公開となる。タイトルから内容を推測するのは難しいが、心がバラバラであった家族が「腹を割って話し合う」模様が描かれた、ヒューマンな作品だ。ここでは3世代にわたる家族間の葛藤において、孫という立場から時に激しく、時に繊細な表情を見せた、新鋭・木下彩音に出演の感想を聞いた。
――出演おめでとうございます。まずは、出演が決まった時の感想をお聞かせください。
ありがとうございます。出演のお話をいただいた時はまだ、演技の経験がなかったので、正直、びっくりしたのを覚えています。
――撮影はいかがでしたか?
撮影は、2017年の夏の時期に行なっていて、とにかく暑かったという記憶が一番強いですね。
――最初の演技に臨むまでの準備は?
私の演じた樹月は、物語の中盤から絵を描くようになるので、まずは絵の特訓から始めました。抽象画みたいな感じだったので、絵の内容はあまりよく分かりませんでしたけど(笑)、楽しくできました。
――役作りのほうは?
最初、撮影が奈良と聞いていたので、地元の言葉で話せるのかなって思っていたんですけど、台本を読むと、東京から帰って来た……と書いてあったので(笑)、標準語を頑張りました。現場では、おばあちゃん役の竹下さんが関西弁だったので、ついついつられそうになりましたけど。
役作りの面では、反抗期真っただ中の女の子という設定だったので、お母さんに対するセリフにはきつい言葉もたくさんあって、“こんなにひどいことを言うんだ”って思いながら読み進めて、後半には叔母(陽月華)の魅力に惹かれて絵を描き始めるので、そのギャップをどう見せようか、どう演じようか、と考えながら役に落とし込んでいきました。
ただ、実際に絵を描くシーンでは、無我夢中というか全力で取り組んでいたので、カットがかかったらもう、脱力してしまうほどでした。
――初登場シーンでは、母親の言うことを聞かず、ずっとスマホをいじっているイマドキの子でした。
監督には、“周りで起こっていることは無視して”と言われたので、しゃべらない、(呼びかけられても)反応しないという風に演じていました。
――その後いきなり、すごいことを始めます(笑)。
そうなんです。あんなことをするのは初めてだったので、たいへんでしたけど、楽しかったですよ。ただ、おじいちゃん役の小日向さんのお芝居が面白すぎて、笑いを我慢するのが一番の苦行でした。私を取り押さえようとするときに、見事に頭の上にヤカンが落ちてきて……。1発撮りで失敗は許されなかったので、笑いを堪えるために、なるべく顔を隠して、必死に耐えていました。
――あっ、だからそのシーンは、顔が映っていない(後ろを向いてる)んですね。
実は、そういう理由があったんです(笑)。
――さて、そのトラブルによって、叔母(陽月)が行方をくらまします。たまたま街中で見かけて、尾行して、隠れ家(?)を見つけて、そこへ入ろうか、どうしようかと逡巡する様子は、かわいかったです
ありがとうございます。入りたいけど、中は暗くて怖そうだからどうしよう、と悩んでいるのを表現するために、立ち止まって、考えて、という仕草をしてみたんです。結局、好奇心が勝って入っちゃいましたけど(笑)。
――隠れ家はどうでしたか?
たくさんの人が生活できる空間があって、素敵でした。
――お母さんには反抗していましたけど、その後、隠れ家での生活を通して、叔母とは仲良くなっていきます。
絵を通して、お互いの心が通じ合える何かが生まれたからだと思っています。だから樹月としては、もっと絵を頑張ろうという気になって、無我夢中で描くようになっていくんです。後半では、叔母もびっくりするぐらいのめり込んでいきます。どうしたら見る人(叔母)を驚かせられるかを考えながら演じたので、ご期待ください。
――映画は、家族がテーマですが、木下さんの家族の思い出は?
子供のころは、祖父母の家が近かったこともあって、夜ごはんを一緒に食べることが多かったんです。なので、ラストシーンの撮影はそのころを思い出して、とても楽しかったですね。本当の家族みたいでした。
――おじいちゃん、おばあちゃん役の二人は大ベテランです。
小日向さんはほんとうに気さくな方で、お芝居(&現場)が初めての私に、たくさん話しかけてくださって! おかげで緊張もだいぶ和らぎました。けど、撮影中はちょくちょくアドリブを入れてくるので、笑いをこらえるのがたいへんだったんです(笑)。私が登場する冒頭のシーンは、さきほどもお話したように、周囲を無視して孤立しているんですけど、実は笑いをこらえるのがたいへんで、必死に違うことを考えたり、ほんとうに話(セリフ)を聞かないようにしていたぐらいなんです。
――主演の陽月華さんとの共演はいかがでしたか?
お芝居を間近で見られて感動しましたし、ご一緒できて光栄でした。香奈ちゃんという役を、ほんとうに自然な感じで自分のものにしていて、私が台本から受けた以上の雰囲気・存在感を、さりげなく、それでいて迫力満点に表現されているんです。ほんとうに勉強になりました。
――そうした方々に囲まれて、ご自身の成長にはつながりましたか?
はいっ! 完成した映画を見たのはつい最近(取材時)なんですけど、それまでずっと、自分の演技を見るのが、不安というか怖かったんです。でも映画を見終わって、この役ができてよかったなって、強く感じました。実は、クランクアップした時、感極まって泣いてしまったんです(まさか、泣くとは思っていなかったそう)。監督から花束を受け取った瞬間、号泣というぐらいに涙が止まらなくなって……。この役を一所懸命に生きたからこそ、終わったという安心感がどっと出てきて、泣いてしまったのかなって思います。
これから女優というお仕事を続けていく上で、『かぞくわり』が私の初めての作品ですと胸を張って言えますし、この作品に出演できて、ほんとうによかったと思います。
――ちなみに、多少ネタバレ的なことを聞きますが、ラストでは2030年の樹月さんが出てきました。実際の木下さんは、2030年にどうなっているでしょう?
11年後は、ちょうど30歳になる年ですね。女優という仕事を続けていたいですし、木下彩音という女優の存在を、たくさんの方に知ってもらえるようになっていたいなと思います。
映画『かぞくわり』
1月19日(土)有楽町スバル座ほか全国順次公開
<キャスト>
陽月 華、石井由多加、佃井皆美、木下彩音、松村 武、竹下景子、小日向文世 ほか
<スタッフ>
脚本・監督:塩崎祥平
配給:日本出版販売株式会社
宣伝:アルゴ・ピクチャーズ
(C)かぞくわり LLP