新4K8K衛星放送がスタートして間もなく1ヵ月が経とうとしている。さらに年末年始を控え、そろそろ4K放送受信を実現しようとしている方も多いだろう。そんな人にとって一番現実的な選択肢は、単体4Kチューナーを導入することだ。そこでStereoSound ONLINEでは、現在発売中の単体4Kチューナーの一気視聴を実施。麻倉怜士さんと酒井俊之さんのおふたりに、6モデルそれぞれに違いがあるかを検証してもらった。果たして今一番お薦めの単体4Kチューナーは?

−−今回は単体4Kチューナーを集め、それぞれの画質・音質についてチェックしてみたいと思います。アイ・オー・データ、ピクセラ、パナソニック、シャープ、ソニー、東芝の6社の取材機をお借りしています。

麻倉 とても面白い取材になりそうですね。単体4Kチューナーは外見からも分かる通り、ODM(相手先ブランド名製造)されている製品も多く、その場合は機能的にも、画質・音質も同じかもしれませんが、違う可能性もありますね。そのあたりがどうなっているのかも、しっかり確認してみたいと思います。

−−では視聴の前に、麻倉さんと酒井さんは現在どんなシステムで4K8K放送を楽しまれているかを聞かせて下さい。

麻倉 わが家は11月に、シャープの8Kチューナー内蔵テレビ8T-C80AX3を導入しました。右旋左旋対応のアンテナもすでに設置済みなので、8K放送を含めてすべてのチャンネルを受信できます。気になる番組は、8Kは専用HDDに、4Kはチューナー内蔵HDDレコーダーの4B-C40AT3に録画しています。

 4K放送では、NHK BS 4Kの気になる番組を、民放系ではアップコンではない番組を選ぶようにしています。最近は、仕事から帰ると、毎日番組表をチェックしたり、録画した番組を観るというスーパーハイビジョン生活を送っています。80インチのテレビは実に大きい。これまで、50インチの2Kプラズマテレビを、1.8メートルの位置で見ていた。50インチの縦方向は60センチだから、ハイビジョンの仕様どおりの、ジャスト3Hでした。ところが、同じ距離に80インチ!

麻倉さんは既に自宅で4K8K放送に対応済で、日々エアチェックに励んでいるとのこと

酒井 ぼくはさすがに麻倉さんのように8K導入! というわけにはいきませんでした(笑)。実はぎりぎりまで、単体4Kチューナーがいいのかレコーダーなのか、レコーダーとすると何をエアチェックしたいのか、4K放送開始の直前まで毎日ずっと考えていたんですよ。

 結論としては、ケーブルテレビで4Kを視聴することにしました。以前から携帯電話とセットでJ:COMのインターネットサービスを使っていたので、その契約内容を変えれば4K放送を観るこ
とができるんです。これだと月額800円ほどのアップで済むんですよ。ヒューマックス製のSTB(セットトップボックス)はレンタル扱いなので録画用のUSB HDDだけ新たに購入しました。ひとまずこれで様子をみようというわけです。

 そもそもわが家のプロジェクターはJVC DLA-X75Rで4K上映には対応していますが、2K信号しか入力できません。かといって今の段階で4Kモデルに買い替えるのも厳しい。以前から麻倉さんもおっしゃっていますが、映像の“上流”が4Kなり8Kなりのクォリティになれば、“下流”にもそのご利益は必ずある。せめて上澄みだけでも味わいたい(笑)。そういう意味では最小の投資で4K放送に対応できる今回のプランがぴったりでした。

酒井さんは、ケーブルテレビで4K放送を視聴中とのこと

麻倉 それはとても賢い選択だったのではないでしょうか。しかも月額800円アップで済むのはお得ですよ。

酒井 ただし、今のところJ:COMで観られるのは右旋チャンネルだけで、左旋チャンネルについては未定のようです。また、外付けUSB HDDへの録画機能は来月末のバージョンアップ予定なんです。ですので最近は、気になる番組がある時は早めに用事を済ませて、放送時間までにプロジェクターの前に座るようにしています。まさにビデオ登場前、昭和の視聴スタイルに戻っています(笑)。

オンエアコンテンツで、違いが分かるか?

−−さて、今日は4K対応の手段として一番注目されている単体4Kチューナーについて、各社の違いを探っていきたいと思います。視聴方法としては、アンテナを分配して全チューナーにつなぎ、リアルタイムで放送をご覧いただきます。録画機能を持っている製品については視聴しながら番組をUSB HDDに録画しておき、後から見直して確認したいと思います。

 ディスプレイには視聴室の常設機であるソニーの有機ELテレビKJ-65A1を使い、HDMIケーブルをつなぎかえながら順番に視聴していきます。映像モードは「シネマホーム」とし、視聴室の照明は手元が見えるくらいまで落としています。

 まずはNHK BS 4Kから、『NHKスペシャル 秘島探検 東京ロストワールド 第1集「南硫黄島」』と『仏像ミステリー 運慶とは何者か?』をご覧いただきました。4K/SDR番組で、音声は2chです。

麻倉 これまでの地デジ等では、まず放送フォーマットが変わって、それをハードが追いかけるという構図でした。しかし4Kはハードウェアが先行しており、最近では50インチ以上はほとんどが4Kテレビになってしまった。

酒井 確かに、ここ数年で4K対応テレビを購入している人は多いようですね。

麻倉 その意味でも、単体4Kチューナーへの期待は高いと思います。今日の視聴で単体4Kチューナーをまとめて観た印象としては、基本的な性能が高く、その期待に応えるには充分な品質を持っていました。4K放送の画質のよさをどれもきちんと再現できています。

 しかしじっくり観ていくと、各製品で絵づくりの方向性の違いがあることが分かりました。ピクセラとパナソニック、アイ・オー・データとシャープはそれぞれ製品外見が同じで、誰が観てもODMだということがわかります。でも、だからといって画質・音質まで同じかというとそんなこともない。

酒井 てっきりパフォーマンスはそれほど変わらないのではないか?と思っていたのに、予想以上に個性がありました。

ピクセラPIX-SMB400はバランス志向

ピクセラPIX-SMB400 市場想定価格3.3万円前後

麻倉 最初に観たピクセラのPIX-SMB400は、基本的なクォリティも高く、クリアーな映像でした。どちらかというとバランス志向で、派手な演出はしていません。ただ、空や雲などは若干白が飽和気味のところもありました。

酒井 個人的には、もっと4Kとしてのわかりやすい精細感があってももいいのかなと感じました。岩肌のディテイルや木々の葉っぱの階調などでも、もう少していねいな表現が欲しくなります。

麻倉 基本的なポイントはしっかり押さえているけれど、それ以上の演出や色づけはしていない印象ですね。絵づくりはテレビに任せて、チューナーは元々の信号を素直に出すというスタンスのように感じました。謙虚な絵づくりともいえます。

−−ピクセラPIX-SMB400とパナソニックTU-BUHD100は、アンドロイドTVを採用していて、4K放送や地デジの放送以外に、ネットフリックスなどの配信も楽しめます。その意味では放送・ネットを問わないマルチソースプレーヤーでもある。なお、USB HDDへの録画機能については、ピクセラは2018年12月25日から、パナソニックは2019年3月下旬のアップデートで対応するそうです。

パナソニックTU-UBHD100はおいしい4Kを演出

パナソニックTU-BUHD100 市場想定価格3万円台前半

酒井 そのパナソニックTU-BUHD100ですが、絵がきりっとして、切れ味のいい表現に驚きました。4Kらしさ、鮮明さが全面に押し出されていますね。といって演出過多でもないし、素直にいい絵だなぁというのが第一印象です。画面全体の輝度が上ったように感じられて、いい意味で4Kらしい演出がされています。

麻倉 ピクセラ機がバランスのいい真面目な絵だとすると、パナソニックはそこにおいしさのフレーバーを加えたような変化があります。

 『南硫黄島』は細かい葉っぱのグラデーション再現が難しいのですが、そのあたりの情報量や色の違いもよく出ていましたね。白側が伸びて、その力感が有機ELテレビらしい説得力で再現されています。

酒井 ピクセラとパナソニックの絵づくりの違いは確実にありましたね。

麻倉 極端な差ではありませんが、観ると確かに違う。素直な4Kを見せているピクセラに対し、エンタテインメントとして楽しませてくれるパナソニックという印象でしょう。断言はできませんが、ソフトウェアのパラメーター等が違っているとしか思えませんね。

アイ・オー・データHVT-4KBCはふたつの顔を持つ

アイ・オー・データHVT-4KBC 市場想定価格3.5万円前後

--続いてはアイ・オー・データのHVT-4KBCをご覧いただきました。こちらは地デジチュ-ナーは搭載していない純粋な4Kチュ−ナーで、ネット系のコンテンツにも非対応です。

麻倉 アイ・オー・データは全体的に落ち着いた絵づくりでした。4Kらしい精細感は感じられますが、全体的に抑えたフラットな絵調で、色の階調再現をもう少し頑張ってくれるとよかったかもしれません。

酒井 バランスがいい絵ですね。パナソニックの絵が鮮明志向だったので、それと比較するとおとなしく感じてしまいました。

麻倉 4Kの魅力である解像感や情報量はきちんと再現できていて、基本的な完成度は高い。ただし、アイ・オー・データとしてどんな絵を観て欲しいのかという主張、個性が弱い気がします。

 従来の2Kならそうでもなかったのですが、4Kはもともとの情報量が多いのだから、それを活かした上で各社がどんな映像を再現してくれるか、これは4Kチューナーに期待されるポイントだと思います。

−−ちなみにHVT-4KBCでは、「映像・音声」設定メニューで「プロジェクターモード」を「入」にすると絵づくりが変化するんです。

酒井 これはわかりやすい。黒がわずかに沈んで、メリハリを付けた印象になりました。

麻倉 プロジェクターユーザーには、こういった絵づくりの方がしっくりきそうですね。これに関してはとてもポイントが高いですね。

酒井 自宅のシステムで4K放送を観ている印象だと、これまでのUHDブルーレイとも違うイコライジングが必要だと感じています。やや白を立てて、黒を安定させてというアプローチなので、「プロジェクターモード」の絵づくりと方向性は同じですね。

麻倉 4Kでは画素数が増えるので、コントラストも上げていかないと絵としてのバランスが崩れてしまいます。特に黒が浮いていると、ひとつひとつの画素の締まりがなくなってしまう。プロジェクターは有機ELテレビなどに比べると黒を沈めるのが難しいので、こういったチューナー側での絵づくりも有効でしょう。

シャープ4S-C00AS1はS/Nがよく、絵が栄える

シャープ4S-C00AS1 市場想定価格3.2万円前後

−−次はシャープの4S-C00AS1です。こちらも外見や基本機能はアイ・オー・データとほぼ同じで、「プロジェクターモード」も装備されています。

酒井 外見同様にアイ・オー・データ機と似た傾向の絵でした。クォリティの高い、バランスのいい仕上がりです。抜けがよく、絵が映えるキャラクターを感じました。ただ、S/Nはシャープの方がいいかもしれない。

麻倉 アイ・オー・データとシャープの絵については、大きな差は感じませんが、それでも違いはあります。シャープはクリアーさ、色の抜けを重視していて、若干のエンタテインメント志向が見えますし、人物の立体感をくっきりと描き出していますね。

酒井 「プロジェクターモード」にすると、S/Nのよさと相まって、馴染みのある気持ちいい映像で楽しめますね。

麻倉 くっきりして、落ち着いている。「プロジェクターモード」はやはり使えます。これは他の4Kチューナーメーカーも検討して欲しいアプローチですね。

ソニーDST-SHV1は4Kとしての説得力が凄い

ソニーDST-SHV1 市場想定価格5.5万円前後

−−続いてはソニーDST-SHV1になります。こちらは実勢価格5.5万円前後と今回のテスト機中一番高価ですが、4Kダブルチューナーを内蔵し、裏番組録画が可能です。また地デジや2KのBSもダブルチューナーで搭載しています。

麻倉 先に気になった点を申し上げますが、番組表が黒バックにゴシック文字なので、ちょっと見にくいのが残念です。あと、4Kダブルチューナー内蔵なので、観ている番組と裏番組のダブル録画ができたらよかったんだけどなぁ。

酒井 他社はACアダプターでの対応ですが、本機は電源回路を内蔵しているんですね。AVコンポらしいモデルになっています。

麻倉 画質は、すごくいい。黒の締まりがよくコントラスト再現が素晴らしい。絵づくりの要諦を踏まえています。4Kは黒再現がポイントになるということをわかっているから、演出をしなくても精細感が出てくるし、しっかりとした造形感も感じられます。

酒井 端正な絵づくりですが、黒が締まっていて透明感も感じられる。パナソニックとも違うディテイルの再現力が感じられました。無理のない、上品な映像が再現されています。

麻倉 パナソニックはお化粧が綺麗で、美人像をメイクアップしているような印象ですが、ソニーは素顔が綺麗であり、ピラミッド的な階調感で4Kらしさを描き出しています。4Kらしいわくわくしたニュアンスも感じられます。

酒井 正統派の絵づくりと、わくわく感のバランスが高次元でとれていると思いました。端正だけど品のいい映像は、ソニーならではと言えるかもしれません。

麻倉 電源やシャーシもしっかりしています。物づくりとして、きちんとやろうという開発の気合いも感じられます。

東芝TT-4K100は、4K放送の情報を素直に出している

東芝TT-4K100 市場想定価格4万円前後

——最後は東芝TT-4K100です。4Kと地デジのチューナーを内蔵したモデルで、2KのBSと地デジはダブルチューナーという仕様です。

麻倉 バランスのいい、コントラストもしっかりついている映像でした。パナソニックやソニーほどではありませんが、力感もあるし、白側の伸びがちゃんとしている。今日はライティングが抑制された仏像の番組を観ましたが、表面の木肌の再現性もとても繊細だと感心しました。

酒井 仏像の木肌のリアルさ、女優の肌の再現などどちらも演出過多にならず、細かくなりすぎずといったところで、いい案配だと思います。

麻倉 ソニー機は4Kらしい押し出し感がありましたが、東芝はそうではなく、いい意味での中庸さが持ち味です。

酒井 峻厳さを感じるソニーに較べると、東芝では仏像の表情に優しさが漂ってくる気がしました。パナソニックはさらに柔らかい印象ですね。

麻倉 チューナーで仏像から感じる意味が変わってくるというのも面白いですね。まさにそれぞれの絵づくりの指向性が如実に表れています。

後編に続く