マランツのコントロールAVセンターAV8805の導入記からはや5ヵ月。懸案であったオーバーヘッドスピーカー用のパワーアンプに気になるモデルがある、と麻倉怜士さんから編集部に一報が入った。そのモデルとは同じくマランツの7chパワーアンプMM8077。“純正” 組合せでのイマーシブ・サウンドはいかなる世界を提示してくれるのか。早速、D&Mホールディングスでの取材を実施した。(HiVi編集部)

 

 これまでもHiVi誌内では、自宅ホームシアターにコントロールAVセンターAV8805を導入した話をした。基本的な音質のよさ、音調の端正さ、そして3次元サラウンドフォーマットAuro(オーロ)3Dを再生できる高機能……と、現代のコントロールAVセンターが持つべき条件を備えた傑作機だ。今回はそれからの話。

 私のシアターでは、AV8805の導入以前から、パワーアンプは左右のメインの2ch(スピーカーはJBL K2 S9500)用としてザイカオーディオの845プッシュプル、センターチャンネル(JBL HC5000)用にはマークレビンソンNo20.5を使用していた。今年の夏にオクターブのプリアンプJubilee Preampを導入し、AV8805のフロントL/Rの信号をJubilee Preのユニティゲインを経由してパワーアンプに送付したところ、フロントL/R chの音に、類い希なる「生命力」が与えられ、ひじょうに音が活性化した。

ベーシックに電源にこだわった強力な7chアンプMM8077

 自宅システムをAV8805にてオーロ3D対応にした後の課題は、残るサラウンドとオーバーヘッド(トップ・ハイト)スピーカーを担うパワーアンプをいかにするか。そこで眼をつけたのが、マランツが最近発表した7chパワーアンプMM8077。すでにアメリカ市場にて数年前から販売され、ユーザーの間でたいへんに高い評価を得ている製品だ。電源トランスを日本仕様に変更して日本デビュー。いわば逆輸入の格好だ。12月に200台限定生産にて発売された。

 設計に当たって特に気を配ったのが総合的な駆動力だ。マルチチャンネルアンプの場合、他社製品では2ch駆動時には信号追随のリニアリティが充分であっても、サウンドエフェクトが縦横に活躍する映画のアクションシーンなど、全chが同時に駆動する場合に、出力が大幅に低下する製品もある。設計陣は、このような出力低下をいかに防ぐかに徹底的にこだわったという。

 7chのすべてに同一構成のマランツの基幹技術の電流帰還型アンプを与える、8.2㎏もあるトロイダルトランス(マランツのAVセンター関連では、もっとも重量級、EIコアトランスに比べ、出力確保能力が格段に高い)や大容量(5万マイクロファラッド)のカスタムブロックコンデンサー採用……などの施策により、7ch同時使用でもハイパフォーマンスな瞬時電流供給能力の確保に成功、各スピーカーを充分にドライブする能力を獲得した、としている。

搭載されたトランスは8.2kg。マランツのAV製品として最大級のもの。右の50,000μF(×2本)という大容量ブロックコンデンサーを採用していることも、空間的余裕のあるセパレートモデルならではの特徴だ

 とはいえ、これらはあくまでもメーカー側の謳い文句だ。AV8805と組み合わせた時の音は、実際にはどうなのか。まさにその点こそが大いに気になる。そこで、D&Mホールディングスの視聴室で、B&Wのスピーカー800D3シリーズを鳴らした音を聴いた。

視聴に使ったコントロールAVセンターは、マランツ AV8805。MM8077を2台組み合わせ、4.2.4構成のシステムを鳴らす

 まず私の2chソースのリファレンスCD情家みえの『エトレーヌ』から「チーク・トゥ・チーク」。ボディがあり、ヴォーカルの質感がしなやかで、やさしい歌声だ。音の表面に微少な凹凸があり、声に艶やかなリアリティが付与されている。ピアノの弾力感、ヴォーカルの朗らかさ、ベースの弾み感……も、いい。「アイ・キャン・ギブ・ユー・エニシング」では、優しさ、表情の深さ、感情の暖かさ……が伝わってくる。コーラスに入ると、快適なテンポ感と伸びの快適さが、耳の快感として聴ける。

 続いてUAレコードの第2弾、小川理子『バルーション』から1曲目「オー・レディ・ビー・グッド」。しなやかで、美しく、深みのあるピアノのヴァース。マイナー調が音に潤いと、暖かさを与えている。コーラスに入ってのスウィング全開は弾力感とスピード感にて快適な音楽進行を演出。特に小川の特長であるアクセントの強靭さと、その弾き具合が実に愉しい。ギターソロではそのセクシーさを満喫。響きの美しさも特筆される。バイソン片山のドラムソロも実にブリリアントだ。これら2chソースから、すでにAV8805+MM8077のコンビネーションの優秀さが分かってくる。

 続いて、同じくCDウィーン・フィルの『ニューイヤー・コンサート2013』から「スーブレット・ポルカ」(ヨーゼフ・シュトラウス)。溌剌とした弾み感が愉しい。空間を響きが埋めるアコースティックの緻密さも、いい。ウィーン・フィルらしい艶々とした弦、木管の深くも朗らかな音色も魅力的。リズムの進行感がとても快適で、なめらかにして、しなやかな剛性感が耳に心地好い。

MM8077の天板を開けると、シールドケースに入った大型のトロイダルコアトランスのほか、ぎっしりと詰まった内部パーツが見える

フロントパネル側に収納されているのがパワーアンプ部。7ch分のパワーアンプは「同一構成、同一クォリティ」

上写真の下部に見えるのがパワートランジスター「LAPT」(Linear AmplifieD Power Transistor)。このサンケン製デバイスはマランツの2chオーディオ製品でも採用されているという

優れた低音部の安定感、剛性感。空間再現は実にナチュラルだ

 ここからは、MM8077を2台使用し、4.2.4スピーカーによるイマーシブ・サウンドを聴こう。ドルビーアトモス音声を収録したUHDブルーレイ『グレイテスト・ショーマン』から「ネバー・イナフ」はどうか。冒頭のバーナムのMCからして実存感が高い。声に粘りと剛性があり、クリアーだ。発せられる声が会場に拡がる再現もいい。冒頭のピアノの音場が深く、そこに被るヴォーカルの囁きのようなヒューマンな優しさが、心に深く染みる。

 楽曲全体を概括すると、まず弱音ピアノから始まり、オーケストラの低音部、弦部が少しずつ加わりクレッシェンドし、トゥッティで最大限に盛り上がる。音場が徐々に充填され、より緻密になり、突きぬけるような感情の盛り上がりを見せるに至るのだ。この絢爛なサラウンド演出を、AV8805+MM8077は見事にこなしている。

 同じくドルビーアトモスの『ラ・ラ・ランド』の丘の上のラブリーシーン「A Lovely Night」。冒頭の男女の台詞がいい。ライアン・ゴズリングの曖昧さのある弱音の声とエマ・ストーンのシャープな声との対比が鮮やかだ。ゴズリングの優しさ、リズムに乗る楽しさ、表情のさわやかさが上手く再現され、バンドが入り、弾むようなリズムで踊るシーンの愉しさは格別だ。ハリウッドミュージカルならではの音の煌めくような色彩感を、上手く演出する。

 次にアクションシーンのサウンドエフェクトを聴く。ドルビーアトモスで聴く『マッドマックス 怒りのデス・ロード』だ。岩が爆破され轟音と共に落下するシーン。トラックの走向音から始まり、次にほとんど無音になる。本作で無音がチェックできる部分はたいへん珍しい。トラックがブレーキを掛けると、3D的にSEが拡がる。弱い風音もクリアーだ。叫び声、オートバイの走行騒音、打楽器と弦の緊迫した攻撃感……など、SEが演出するアクションの剛性と暴力性を、緻密に、ハイスピードに、高質感で描きだす。特に低音部の安定感、その剛性感、充実感は刮目だ。

 オーロ3Dはどうか。ガッティ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のBD『ストラヴィンスキー:春の祭典、ほか』。まず、「牧神の午後への前奏曲」。冒頭のフルートの半音階旋律がコンセルトヘボウの会場にすべらかに広がり、音の軌跡を残しながら輝き、そして消えゆく。そんなイマーシブな音のドキュメントのようだ。AV8805+MM8077には、まるで現実にコンセルトヘボウにいて、その場で聴いているかのような上質な臨場感と立体感が、ある。フルートとハープ、クラリネット、オーボエの各楽器の質感がよく、なにより、広い空間の密度感が格段だ。

 「春の祭典」の冒頭の単音ファゴットも、空間にきれいに拡散し、染み入る。「ハルサイ」の冒頭は木管の饗宴だが、木管群のひとつひとつの固有の音色が明瞭に示されるのみならず、合奏感として濃密に複合音色が演出される描写もスリリング。いよいよ弦楽が、野蛮なリズムで登場。ミュートトランペット、ピッコロ、オーボエの活躍と弦の量感と輝きの表現も堂に入ったものだ。

 トゥッティでは複雑なオーケストレーションにもかかわらず、各パートの明瞭性とホール音響の融合性のどちらも聴ける。これこそが本コンビネーションで聴く、オーロ3D再生の醍醐味だ。シューボックス的な量感と剛性感を持つコンセルトヘボウの特有の濃密さが、リスニングルームで聴けることには大いなる感慨を覚える。

 空間再現が自然で、濃密さ、音の粒子のこまやかさなど、音楽的な空間の演出性がよいオーロ3Dの能力を最大限に発揮するコンビネーションとして、AV8805+MM8077は価値がひじょうに高いことが、「牧神」と「ハルサイ」を聴いて識れた。

裏ワザ的使いこなしもできるMM8077の導入を決めた!

サラウンド、およびオーバーヘッドスピーカー用のパワーアンプ選択が懸案事項であったという麻倉さん

 最後に使いこなしの特別な作戦をひとつお教えしよう。表示と違う端子使いの提案だ。背面のスピーカー端子とライン入力の表記は背面左からC / SBR / SBL / SR / SL / R / Lとなっている。このままの順番で入出力ケーブルを挿すのでなく、表示を無視し、背面左からR / SR / SBR / C / SBL / SL / Lと接続する(7.1 chの場合)。RとLの物理的な距離を離して左右対称とすることで、右と左の音声信号の相互影響を軽減させる目的だ。

視聴時にも、“左右対称”の接続方法を実施。写真では、外側にフロントL/R、ひとつ空けて内側にサラウンドL/Rスピーカーを接続している

 すると、S/N、チャンネルセパレーションに対する効用が顕たかだ。『バルーション』で比較したメモの文言をそのまま記すと、「よりしなやかになり、音の体積が増え、表面がより微細に美しくなった。ベースもさらに雄大にしっかりとしてきた。スケールが大きく、よりヴィヴィッドさ、スピードが増す。奏者の間のコミュニケーションが濃密に見え、ピアノもより躍動的。ギターの官能的な響きの美しさも増した」。

 MM8077は基本音質が高いだけでなく、使いこなしがいのあるマルチチャンネルパワーアンプなのだ。サラウンドとオーバーヘッドスピーカー用のアンプとして、私は本機の自宅への導入を決めた。

 

チャンネルセパレーションに効く
“左右対称” 接続法

本文にもある通り、この方法はアンプに印刷されているch表記を無視するもの。通常であれば右、あるいは左からFL / FR / SL / SR……と並べて行きたくなるところだが、センターchを中心に左右対称にすることがポイント。(編集部)

5.1chシステムの例

2ch分のアンプが余ることになるので、負荷の大きくなりがちなフロントスピーカーの横を空ける、という構成。センターレス構成であれば、センターchの接続部分をそのまま空けておく

7.1.4システムの例 ※アンプは2台使用

7.1.4システムであれば、図のようにすることが考えられる。負荷の大きくなりがちなフロント、サラウンドスピーカーをふたつのアンプに分担させる方法だ。フロント、サラウンドスピーカーが大型の場合に、こうした構成を検討する余地があるだろう

 

7ch POWER AMPLIFIER
marantz MM8077
¥270,000+税

●内蔵パワーアンプ数:7
●定格出力:180W(6Ω、20Hz〜20kHz、THD0.08%、2ch駆動時)、150W(8Ω、20Hz〜20kHz、THD0.08%、2ch駆動時)
●接続端子:アナログ音声入力7系統(XLR×7、RCA×7)
●消費電力:800W●寸法/質量:W440×H185×D384MM/18kg
●問合せ先:デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター☎0570(666)112

 

特別企画/協力:ディーアンドエムホールディングス