本格的なベッドシーンや初の母親役にも挑む

 『メアリーの総て』は、ゴシック小説の金字塔と賞賛される『フランケンシュタイン』を描いたメアリー・シェリーの物語だ。

 時は、男尊女卑の風潮が色濃い19世紀のイギリス。そんな環境の中で、なぜ18歳という若さで“死者の肉体を蘇らせる”という奇想天外なアイディアが生まれたのか? またその“怪物”に、深い愛と哀しみを織り込むことができたのか? そこには自分を産んで亡くなった母への憧憬や罪悪感、愛する男の手ひどい裏切りなどがある。それこそが、世間知らず=イノセントだったメアリーに、深い洞察力と真の強さを与えたのだと思う。

 若きメアリーの愛と哀しみ、そして成長をみごとに演じているのはエル・ファニングだ。撮影時は、メアリーと同じ年ごろの19歳。純真で想像力豊かなメアリーに知的な輝きを添え、初めての恋に突っ走る情熱も垣間見せる。ほんのり赤く染まった頬が初々しい。

 そして、度重なる裏切りと悲劇に打ちのめされながらも自分自身の人生を切り拓く凛とした姿! 自立した女性の強い意志と毅然とした美しさに、クズ男に怒り心頭だった私の心も洗われて、すがすがしい気分になった。

▲恋に情熱を捧ぐメアリーを演じたエル。本格的なベッドシーンにも挑戦するなど、子役時代からのファンにはドキドキしてしまうシーンも

▲本作はエルにとって初の母親役で、かつ初の歴史映画出演。さらに、誰かがメアリー・シェリーの人生を演じるのはこれが初めてとなる

▲メアリーは次々と襲いかかる辛い出来事を、文章へと昇華させていく

▲エレガントでクラシカルな衣装も見どころのひとつ

ソフィア・コッポラの『SOMEWHERE』で頭角を現す

 エルは知っての通り、『I am Sam アイ・アム・サム』(2001年)で天才子役と称されたダコタ・ファニングの4歳違いの妹だ。姉が浴びた脚光の影響で彼女自身も早いデビューを飾ったが、当然ながら“誰かの子供その1 or その2”の役柄が多かった。

 そんなエルにスポットを当てたのが、女性監督として脚光を浴びていたソフィア・コッポラ。彼女の監督第4作目『SOMEWHERE』(2010年)でも、エルはスティーブン・ドーフ演じるスター俳優の娘を演じたが、本作の役は単なるティーンエイジャーとはひと味違う。

 “有名人の娘”という特別な境遇への違和感と、父親への愛を素直に表現できない自分へのもどかしさなど……。複雑な娘心を新鮮に演じて存在感たっぷりで、子役から脱皮の予感あり! さすが“ガーリー文化”を描く達人ソフィア・コッポラならではの、絶妙なキャスティングだった。

▲11歳の少女の心の機微を繊細に演じた『SOMEWHERE』/DVD/¥3,800(税別)/TCエンタテインメント

まるで本物のオーロラ姫! まばゆい笑顔に魅了される

 エルに会ったのは、それから4年後。2014年の『マレフィセント』のために催されたニューヨーク・ジャンケットだった。“子役上がり”という先入観を持っていた私は、それなりに生意気な16歳を想像していた。本当に失礼しました!

 鮮やかな黄色い花柄ワンピースで登場したエルは、太陽のようにまばゆい笑顔で、純真無垢な輝きと上品さに包まれていた。まさに、アニメ版『眠れる森の美女』を実写化したこのリメイク作で演じたオーロラ姫が、目の前に現れたかのよう。

 いや、大袈裟ではなく。175センチの細い長身を持て余すこともなく、姿勢正しくソファーに腰をかけての語り口は丁寧でお行儀も良し。時に「ディズニーのプリンセスになれるなんて、子供の頃からの夢が叶った瞬間よ!」と両手を振ってはしゃぐ姿も、微笑ましくエレガント。こよなく愛らしい。

 もちろん、「オーロラはたくさんの人に愛されているキャラクターだから、それにふさわしい人物を演じたいと思ったの。そして、これはどんなキャラクターを演じる時も同じだけれど、その人の本質をちゃんと出せたらいいなといつも願っているわ。その本質を探ることはむずかしいけれど、楽しみでもあるのよ」と言った真剣な表情も印象的だった。

▲画像は2014年の来日会見にて。オーロラ姫さながらの明るく溌剌としたエルに、報道陣もメロメロになっていた。彼女の性格のよさは、一緒に来日した主演のアンジェリーナ・ジョリーも太鼓判を押す(Stereo Sound ONLINE)

(Stereo Sound ONLINE)

 日本での公開は2018年となったが、『マレフィセント』の翌年に製作された『アバウト・レイ 16歳の決断』(2015年)では、「男の子として生きたい」と願う主人公レイを熱演。髪を短く切って、カラダを鍛えながら本当の自分になろうとするひたむきなレイの姿は感動的。エル自身が、トランスジェンダーのキャラクターの“本質”を、ちゃんと掴んでいると感心した

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 カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(2017年)をたずさえて来日したソフィア・コッポラが、2回目の起用となったエルのことを「クラシカルな優美さと現代的な強さを同時に持ち合わせた類希な存在。どんどん美しく、巧くなっていて、いまも成長し続けているわ」と評するのも納得だ。

 本作でエルが演じるのは、南北戦争時代のアメリカで、男子禁制の女の園に迷い込んできた負傷兵を挑発する思春期の乙女。「まさに性に目覚めたばかりの女の子の激しさと危うさを、とてもうまくアピールしていた」と、監督も大満足していた。

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 どんな分野でも、七光りを自分自身の輝きに昇華させることはむずかしい。大物監督フランシス・フォード・コッポラを父に持つソフィアも「最初のチャンスは貰い易いけれど、その分、色眼鏡で見られたりするリスクも大きい」と言っていた。

 奇しくも、エルも姉ダコタの“七光り”を浴びて幼いデビューを果たしたけれど、いまとなっては若手演技派としての評価も確立して自分自身の輝きを放っている。まだ20歳……この先がとても楽しみだ。

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『メアリーの総て』

監督:ハイファ・アル=マンスール
出演:エル・ファニング、ダグラス・ブース、ベル・パウリ―、トム・スターリッジ
原題:MARY SHELLEY
2017年/イギリス=ルクセンブルク=アメリカ/121分
配給:ギャガ
12月15日(土) シネスイッチ銀座、シネマカリテほか 全国順次公開
(c) Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017