金沢美術工芸大学とスカパーJSATは、9日(金)〜11日(日)の3日間、六本木のAXISギャラリーで「これからのエンターテイメント展」と題した展示会を開催している。

 これは、両社による産学連携プロジェクトの成果を発表する場となる。「これからのエンターテイメント」というテーマについて、金沢美術工芸大学の製品デザイン専攻の3年生16名が4つのグループに分かれてそれぞれが思うアイデアを形にしたものだ。それぞれのグループにプロのデザイナー(倉本仁氏、鈴木啓太氏、北川大輔氏、上町達也氏)が学生へのデザインメンターとして参加し、方向性を探っていったという。

 金沢美術工芸大学は、数多くのクリエイターを輩出している学校でもある。工業デザイン分野は当然として、イラストレーターやCMディレクター、ゲームクリエイターとして活躍している面々も多い。StereoSound ONLINE読者にはアニメーション監督の細田守氏や米林宏昌氏が馴染み深いのではないだろうか。

 会場内にはそんな大学で学ぶ学生が考えた回答が展示されている。それらを生み出すに際して学生たちは、「エンターテイメントとは何か?」という原点に立ち帰って考えたそうだ。その結果会場には、アウトドア的発想から人とのつながりを志向した提案、VRを取り込んだシステムまで、普段“あたりまえ”の中で過ごしている者には思いつかない素敵な提案が並んでいた。

 今回の提案から、ホームエンタテインメントを楽しく、快適にしてくれる技術が誕生したら素晴らしいことだ。金沢美術工芸大学とスカパーJSATは今後もこの取り組みを続けていくとのことなので、これからの展開に期待したい。

「呟きをその場に残せるシャボン玉」
 髙橋大生君の提案は、観光地や神社などに出かけた際に、その場で感じた思いをデバイスを通じて呟くと、それが3日間保存されるというアイデア。デバイスは虫眼鏡のような形をしており、それを通して場所を見ると、人の呟きがシャボン玉のように見える(見続けるとその内容が聞こえてくる)という発想がすばらしい

「個人が身につけ発信するサイネージの提案」
 田中夢大君は、ウェアラブルデバイスを通じてユーザーが自身の情報を提案することで、快適なコミュニケーションの場を作ることを提案。5cm角ほどのデバイスには、あらかじめスマホアプリ等で選んでおいたマークを表示できる。共通の趣味がひと目でわかる他、マタニティマークのオン/オフなど場に応じた使い分けも簡単

「人生を繋ぐサービス」
 長谷川晧士君は、“これからのエンターテイメントは、人生の本質に近づく”という発想から、人生を共有するサービスを考えたそうだ。まず、ある人物が日記帳のようなデバイスを使って人生を振り返る(デバイスに表示される質問に答える)と、それらを元にAIが自分史を作成してくれる。その内容は一般公開され、多くの人が参考にできるという

「水に触れ、音に触れる」
 浮州直秀君は、水という普段から身近にある液体を使い、耳、目、手など体全体で音を感じることができる楽器「WAVY」を発想。大きなお盆に水が満たされており、その水に触れると波動を感知して音楽がスタートする。再生される音に共鳴して様々な波紋が描き出されるので、それを見る楽しみや、水に触れて波動を感じる楽しさがあるわけだ

「FLASH〜瞬時に感情を可視化・共有するマスク〜」
 江里口裕紀君が考えた「FLASH」は、ヘッドマウントディスプレイの内部に脳波計や心拍計を取り付けたデバイスだ。ユーザーは自分が見たい番組の時間にFLASHを装着すると、FLASHがその番組を観ている全ユーザーの感情をセンシングし、AIがビジュアルとして写し出す仕組だ。感情の共有を可視化するというアイデアが面白い

「精神修行をサポートするスマートデバイス」
 竹本頌梧君は“これからのエンターテイメントは仏教である”という斬新な提案を具現化した。リストバンド状の「RIN」には脈拍や体温を感知するセンサーが仕込まれており、それを元にユーザーに様々な情報を提示する。装着者はそれを確認することで、自分の精神状態をコントロールする方法が体得できるという

「香りを運び 身を彩る蝶」
 番匠香純さんは、これからのエンターテイメントはロボティクスのファッション化と捕らえて、可愛らしいシステムを提案。蝶の形のデバイスは毛細管現象を利用しており、空間を動き回ることで様々な香りを届けてくれる。ライブ会場や結婚式場といった空間を演出する手段としても色々な応用が効く技術になりそうだ

「みんなで焚いて入る」
 細川岳君は、テクノロジーが進んだ今だからこそ、エンターテイメントはプリミティブな体験によって作られると考えた。そこから大昔の「ひもぎり式火起こし」で火を付けて、お風呂を沸かすというストーリーに発展、みんなで沸かすお風呂を提案している。このお風呂は屋外のあちこちにあり、キャンプ感覚で楽しむ場になるという

「みんなで服を作るコラージュキット」
 乙部那未さんは、着なくなった服をコラージュしてみんなで新しい服を生み出すためのツールを考えている。「PeTaCo」と名付けられたアイテムの中にはアイロンテープが入っており、服を切り貼りすることで新しいものをつくりだす楽しみを味わおうというものだ。大人数で同時に楽しめるように配慮されている点も注目したい

「熱中していることについて語るラジオ」
 川村美月さんは、色々な会合に参加した際の楽しさを再現する手段を提案した。地球儀のような形をしたラジオは、チャンネルを選ぶことで様々な投稿者の話を聞くことができる。そして熱狂が高まってきたら、自身もラジオに内蔵されたマイクに話しかけて投稿できるので、双方向での楽しみが得られるだろう

「野生動物になれるエンターテイメント」
 坂上立朗君はエンターテイメントにはリアリティが重要だと考えて、360度カメラとVR技術を駆使したシステムを発案した。小型カメラを野生動物に取り付け、豹やコンドル、魚が見ている映像をクラウドに転送、それを人間が疑似体験するというものだ。人間では考えられない視点でどんな映像が楽しめるのか、興味深い

「悪口カラオケサービス」
 髙田えみさんの提案は、ネガティブなことをエンターテイメントにするという逆転の発想が素晴らしい。特製のカラオケマイクに愚痴を叫ぶと、そこからキーワードが抽出され、自動的にそのワードに合わせて替え歌(歌詞)が作成されるというものだ。歌を通じてストレスを発散できる、実際にあれば人気を呼びそうなサービス

「体験の記憶を涙の結晶で残すサービス」
 中村有希さんは、人の涙は流した際の環境などに応じて結晶の形が変わることに着目、それを記憶として残すサービス「Tear record」を提唱している。スカパー!で映画を見て感動したら、その時の涙をTear recordキットに採集して送付する。するとその結晶の写真が送られてくるという。こんなにロマンチックな記憶方法があってもいい

「音を印刷し、様々なものを拡張できるデバイス」
 濱野青空君は、500円玉くらいのチップに音を印刷(録音)することで、イマジネーションを拡張するという提案を行なった。音を印刷したチップには人感センサーやタッチセンサーが内蔵されているので、子供の工作に取り付けて遊んだり、展示会のサポート用など様々な面での活躍が考えられるだろう

「オリジナル花火を製作、ARで花火大会を開催」
 松本姫佳さんは、日本の風物詩である花火大会をバーチャルで再現し、現実と仮想のいいとこどりを提案している。小さなチップを組み合わせて花火の元を作り、それをスマホアプリに取り込むとARで花火を楽しめる。その花火を使ってオリジナルの花火大会を開催し、他のメンバーにも開放するという

「VRによる立体制作ツールの提案」
 山本恵さんは、自分が本当に欲しいものを手軽に作れることがエンターテイメントに通じるとして、VRによる立体制作ツールを考えたそうだ。仮想空間で物づくりを習得し、作った作品をバーチャルで保存もできるというアイデアだ。作品は仮想空間内で公開されるので、他の人の作品を参考にしたり、共同制作を楽しむこともできそうだ

スカパー×金沢美術工芸大学 これからのエンターテイメント展」

●日時:11月9日(金)〜11月11日(日)11:00〜20:00(最終日は18:00まで)
●会場:AXISギャラリー(東京都港区六本木5-17-1 AXISビル4F)
※協力:株式会社JIN KURAMOTO STUDIO/株式会社PRODUCT DESIGN CENTER/株式会社DESIGN FOR INDUSTRY/secca inc./株式会社第一興商