“DREAMS COME TRUE”の結成にも影響を与えたと伝えられる英国のユニット、スウィング・アウト・シスター(SOS)が10月11日と12日「ビルボードライブ東京」に登場した。彼らの日本公演は2014年以来だが、今回は10年ぶりの新作オリジナル・アルバム『オールモスト・パスウェイディッド』を携えてのそれであるところに特別感がある。
レコード・デビューは1985年。当初はヴォーカルのコリーン・ドリューリー、キーボードのアンディ・コーネル、ドラムスのマーティン・ジャクソンの3人編成だった。翌年「ブレイクアウト」の大ヒットを飛ばし、89年のセカンド・アルバム『カレイドスコープ・ワールド』以降はコリーンとアンディのふたりで活動している。かつてレイ・ヘイデンや、デンジル・フォスター&トーマス・マッケルロイ(“アメリカのC.C.ガールズ”ことアン・ヴォーグの音作りも担当)をプロデューサーに起用したこともあるふたりだが、最新作はセルフ・プロデュース。ホーン・セクションには“サイケデリック・アラビック・ジャズの女教皇”の異名をとるトランペット奏者ヤズ・アーメドなどUKジャズ・シーンの注目株も参加しており、「かつて全盛を築いたグループの久々の新譜」と思って聴くとしっぺ返しを食らうことになる。
ステージはいきなり新作から「ドント・ギブ・ザ・ゲーム・アウェイ」「ハッピアー・ザン・サンシャイン」の連発で開始。その後3人時代の懐かしい「サレンダー」をはさみ、さらに新作から「オールモスト・パスウェイディッド」や「ウィッチ・ロング・イズ・ライト?」を届けた。もちろん「あなたにいてほしい」(織田裕二と常盤貴子が共演したドラマの主題歌だった)、「ブレイクアウト」、「セイム・ガール」といった黄金ナンバーの数々もたっぷり味わえた。コリーンはステージ中央で歌い、アンディは上手奥で淡々とキーボードを操る。このプレイを聴く限りでは、彼がウェザー・リポートなどで活躍した故ジョー・ザヴィヌルの大ファンであることなど予想もつかないだろう。しかしサポート・メンバーたちのサウンドはアグレッシヴかつ自然発生的、アドリブをガンガン入れながらの熱演。リチャード・ボナやジャコ・パストリアスへの傾倒をうかがわせるデリック・ジョンソンのベースと、90年代からSOSのバックを担当している(マンチェスター・ジャズ界の重鎮でもある)マイク・ウィルソンのドラムスの絡みはとくに鮮やかだった。
歌メロ以外の部分はもはやジャズじゃないか、と思い、しかしそれもまた良きかなという気がした。十八番に関しても往年のCDやレコードとはかなりアプローチが異なる。とくに「ブレイクアウト」は最近、あのソレイユがカヴァーしていて、SOSがヒットさせていた時代には生まれてもいなかったリード・ヴォーカルのそれいゆが、もう最高の歌声で現代に蘇らせているけれど(YouTubeに載っている、投げ銭ライヴの映像は特に素晴らしい)、オリジナル・テイクに近いアレンジは今のSOSではなく、ソレイユの解釈のほうにあるよなあ、と感じた。と同時に、SOSは決して過去をなぞらず、ノスタルジーにひたらず、熱く前進し続けるユニットであることを再認識させられた。『オールモスト・パスウェイディッド』をもっともっと聴いて、次の来日を楽しみにしたいと思う。
カメラマン:Masanori Naruse