去る9月29日(土)、東京・泉岳寺のヤマハ東京事務所1Fプレゼンテーションルームに於いて、恒例となった同社AVENTAGEシリーズ新製品の発売先行試聴会が開催された。

 今回の主役は、セパレート型AVセンターのCX-A5200+MX-A5200だ。AVプリとしてはCX-A5100から3年ぶり、パワーアンプはMX-A5000から5年ぶりのモデルチェンジとなった。

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セパレート機を待っていた、熱心なファンが詰めかけた

今回の主役、コントロールAVセンターのCX-A5200(右)と、11chパワーアンプMX-A5200(左)

 今回の試聴会は、そんな待望のヤマハ・セパレート型AVセンターの実力を間近で、しかもいち早く体験できる場としてオーディオビジュアルファンの注目を集めた。実際、当日は台風24号の接近に伴なって生憎の小雨模様だったにも関わらず、開場30分前から参加者が集まり、第一回、第二回とも満席という盛況ぶりだった。

 これにはヤマハの開発スタッフも驚いた様子で、「セパレート型への期待がこれほど高いとは思いませんでした。お客様をこんなにお待たせしていたんですね」と話していた。

 さて、そんな待望の新製品の魅力を紹介してくれたのは、本サイトの連載「映画番長の銀幕旅行」でもお馴染みの堀切日出晴さんだ。堀切さんは事前にCX-A5200+MX-A5200で様々なソフトを試聴し、当日の来場者にぜひ聴いて欲しいポイントを見つけたという。

東京会場のプレゼンテーターは掘切日出晴さんが担当。軽妙なしゃべりで来場者を楽しませてくれた

 それがCX-A5200の「ストレート」モード時の音質・表現力の向上だ。ヤマハ製AVセンターの場合、どうしても独自の音場創生機能「シネマDSP」に注目が集まりがちだが、今回のCX-A5200+MX-A5200は、D/Aコンバーターチップの変更やシャーシの強化といった改良を施すことで、アンプとしての基礎体力が上がっている。

 当然それはシネマDSPの再現性にも効果があるはずで、まずはこの3〜5年間の成果を音楽・映画作品で確認してもらうことから試聴会をスタートした。

 とはいってもイベントの最初にかける作品は、やっぱりインパクトが欲しい。そこで堀切さんは、昨年公開されたアクション映画のUHDブルーレイ(音声はドルビーアトモス)から、主人公が滝に落ちそうになるシーンを選んで再生した。ここでは、「SURROUND:AI」(サラウンドエーアイ)をオンにしている。

 JVC DLA-V9Rのe-shift 8Kによる緻密な映像と大迫力のサラウンドの共演に、堀切さんの狙い通りに来場者は圧倒された様子。特に主人公が滝から落ちそうになる場面での高さの表現や錆びた飛行機がきしむ音は、自分が体験しているかのような気分にさせてくれた。

厳選したソフトで、「シンカ」のほどを確認

まずは新製品の開発コンセプトについての紹介が行なわれた

 続いて今回の新製品開発を担当したスタッフから、両機の音づくりで重視した点や、注力した点について解説があった。ここでは音質調整の責任者である加藤尚幸さんのコメントを紹介しよう。

 「ヤマハ浜松本社から参りました加藤です。私はCX-A5200とMX-A5200の音質調整の責任者を、もうひとりの佐藤亮太はCX-A5200の設計を担当しました。

 私は入社10年目で、今日のお客様からみたらこんな若造がフラッグシップの音質調整をして大丈夫かと思われているかもしれません(笑)。しかし、私は今の作品を観て、これはいけるぞ、と確信しました。

 今回は、3つの『シンカ』というキーワードを考えました。CX-A5200は弊社のフラッグシップAVセンターですのでそれを深めて究極を追究していこうという『深化』、またSURROUND:AIなどの技術を常に新しくしていこうという『新化』、そして当り前ではありますがプリが3年ぶり、パワーが5年ぶりのモデルチェンジになりますので、他を寄せ付けない圧倒的なステージに向かおうという『進化』です。

 音づくりとしては、まず『臨場感』をお届けしようという思いで、設計と技術が一丸になって製品を作ってきました。具体的にはCX-A5200では表現力を追究しました。言葉や声、ヴォーカルの繊細さ、響きを表現したつもりです。MX-A5200はとにかく迫力、低域のパワフルさを追究しました。最後にこだわったのが、静けさと動きの表現です。今回の組み合わせでは、前モデルよりもグレードアップした体験をお届けできると考えています」(加藤さん)

解説を担当してくれた、ヤマハ株式会社 音響開発統括部 AV開発部 電気グループ 主事 加藤尚幸さん

CDやハイレゾで、格段の進化を聴き取れた

スピーカーシステムは、モニターオーディオのGOLD、SILVERシリーズを使用。CDやハイレゾの試聴時には2.0chのみを鳴らしている

 「ここからは、いよいよ比較試聴タイムです」(堀切さん)ということで、CDやハイレゾ音源を使っての、CX-A5200+MX-A5200とCX-A5100+MX-A5000との聴き比べがスタートした。

 CDは女性ヴォーカルから、声とベースの再現性を聴く。その際にプレーヤーとCX-A5200、CX-A5100をそれぞれ同軸デジタルケーブルで接続し、パワーアンプとスピーカーもその都度つなぎ替えるという厳密な比較を心がけている。

 「一聴して中低域、特にベースの弦の伸び、ビターテイストの声の中での高域の伸びなど、解像感の違いが分かっていただけたのではないでしょうか。どちらも『ピュアダイレクト』で2ch再生していますが、音の押し出し感も変わってきていますね」(堀切さん)

 続いてハイレゾ楽曲の試聴に入る。96kHz/24ビットの音源を記録したUSBメモリーをフロントパネルのUSB端子に挿して再生するという方法で、こちらもCX-A5100、CX-A5200の順番で進めている。

 「これは明快に違いが分かっていただけたのではないでしょうか。楽器の数は少なくシンプルな構成なのに、音の伸びや情報量がこんなに違うんです。楽器の音質や暗騒音など、今まで聴き取れなかった情報が出てきています。この情報量の違いは大きいですよ」(堀切さん)

 確かに両システムでのハイレゾ音源の再生では、S/Nといい、打ち込みのアタックの強さといい、こんなに違っていいの? というほどの差があった。そこでこの差が、映像付き作品でどのように感じられるかを、堀切さんのお薦めディスクでチェックしてもらった。

0.2秒単位で最適な音場を判断している

「SURROUND:AI」のコンセプトを紹介したチャート

 ここからの映像作品試聴はAVセンターをCX-A5200+MX-A5200に固定し、「ストレート」と「SURROUND:AI」で映画作品の再現性がどのように違っているかの比較になる。

 その前に、新たに提案された「SURROUND:AI」の仕組みについてもおさらいをしてもらった。これは、シーンの内容に応じて最適な音場効果を判別し、自動的に切り替えてくれるものだ。説明は先ほどと同じく加藤さんが担当してくれた。

 「『SURROUND:AI』は、一体型のRX-A1080/A2080/A3080で先行搭載している機能です。音声特性を瞬時に判断し、各シーンに適切な音場空間を提供します。セリフ、BGM、環境音、効果音といった情報を分析して、場面に応じた最適なDSPプログラムの効果をリアルタイム、かつシームレスに音場処理しています。

 そのために膨大な映画を分析してデータベースを蓄積しました。そこから各シーン最適な音場を選んでいます。この音場も従来のプログラムと同じではなく、それぞれに最適化しているのです。

 「SURROUND:AI」ではプログラム音場を0.2秒単位で判別しています。その0.2秒を1つのフレームとして9つのフレームごとにどのプログラムが適しているかを決め、その結果で一番多かったものを次の音場に反映させる仕組を作っています。それをシームレスにつないでいきます。

 当初は音場の切り替わりがわかってしまうのが問題だったのですが、製品版では自然すぎて切り替わったことに気がつかないくらいの完成度を持てたのではないかと思っています」(加藤さん)

作品世界の印象まで変化する、サラウンドの力

 加藤さんの説明を受けて、その実力を検証してみる。最初は酸性雨が降る未来のL.A.を舞台にしたSF映画のUHDブルーレイで(音声はドルビーアトモス)、飛行車の移動感や主人公が室内に入ったシーンを「ストレート」と「SURROUND:AI」で再生した。

 「まず驚いたのが、『ストレート』時の解像度が高いことですね。情報量が多いうえに、高さ方向の音場感がよく出る。『SURROUND:AI』の場合は、サラウンド空間がひじょうにシームレスです。この映画の世界では、お金持ちは高い所に住んでいるんです。だから、音も高い方向を目指して伸びていく。

 これがアトモスを採用した一番の理由だったらしいのですが、CX-A5200では音場効果によって高さや広がりの表現が微妙に変化していました。いずれも映画のテーマ性を踏まえながら、ふたつの味わい方がある。そのどちらを選ぶかは皆さん次第です」(堀切さん)

『グレイテスト・ショーマン 4K ULTRA HD+2Dブルーレイ』(フォックスFXHA-80160)(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

 続いては『グレイテスト・ショーマン』のUHDブルーレイからチャプター11をチョイスした。ここでのチェックポイントは、バーナムの前説の声、さらに歌姫ジェニー・リンドが登場するまでの客席のざわめきと彼女の歌声など。ドルビーアトモス音声を、最初は7.2.4の「ストレート」、続いてチャプターの頭に戻って「SURROUND:AI」で曲の終わりまでを再生した。

 「観ていただいたシーンは5分くらいですが、音楽や効果音、観客のざわめきなどのいろいろな要素が混在しています。しかし両モードとも実に味わい深く再現してくれていたと思います。

 『ストレート』は感情表現が豊かですが、聴き込んでいくとアフレコだなと気がついてしまう瞬間もあった。それだけ再現が厳密だという言い方もできますね。一方の『SURROUND:AI』では、客席側と一体化する没入感を楽しむことが出来ました。

 また曲の終わりで、ジェニーがバーナムの方を向いて『For Me……』とつぶやくように歌う。このかすかな声のニュアンスに彼女の思いがこめられているんです。その思いが、今日の映像と音からはしっかり伝わってきました。このグレードのプロジェクターとAVセンターだからこそできる体験です」(堀切さん)

 来場者の皆さんも、その圧倒的な映像と音に圧倒されたようで、上映が終わってもまだじっと前方を観つめていた、堀切さんのいう“特別な体験”の衝撃はそれくらい大きかったのだろう。

 だがイベントはまだ半ば。この後も数々のお薦めディスクで究極の体験が続くことになる。その様子は18日(木)公開予定の後編でお届けしよう。
 
※後編のページはこちら → https://online.stereosound.co.jp/_ct/17212354

来場者を魅了した、究極の再生システム

前モデルのCX-A5100とMX-A5000(写真右側)も準備され、新製品との厳密な聴き比べも実施した

●AVセンター:ヤマハCX-A5200+MX-A5200
●スピーカーシステム:モニターオーディオ
 GOLD300PB(フロント)、GOLD C350DW(センター)、SILVER 300BO(サラウンド)
 GOLD200DW(サラウンドバック)、SILVER100BO(フロントハイト)
 SILVER100WN(リアハイト)
●サブウーファー:ヤマハNS-SW1000×2
●UHD BDプレーヤー:オッポデジタルUDP-205
●プロジェクター:JVC DLA-V9RDLA-V5
●スクリーン:スチュワートHD130(150インチ/シネスコ)

JVCのこの秋の新製品、DLA-V9R(下)とV5(上)も準備され、最高の絵と音が楽しめた