4K UHD BLU-RAY レビュー『ディア･ハンター』 マイケル･チミノ監督 【世界4K-Hakken伝】

THE DEER HUNTER - 4K UHD BLU-RAY with DOLBY VISION

Michael Cimino's "The Deer Hunter" is a big, awkward, crazily ambitious, sometimes breathtaking motion picture that comes as close to being a popular epic as any movie about this country since "The Godfather.

Release Dates (Theater)：December 8, 1978 (USA)
Domestic Total Gross： $48,979,328

FILM

汚辱まみれの呪われたベトナム戦争。触らぬ神に祟りナシとしてきたハリウッドであったが、俊才マイケル･チミノは一種の使命感を持って『ディア･ハンター』を発表した（兼製作）。振り返ればクリント･イーストウッド率いるマルパソ･プロダクションに参加、『ダーティハリー2』(脚本)『サンダーボルト』(監督デビュー)で知られていたチミノ。イーストウッドと決別後、EMIからの初の大作を任される。まだ敗北の傷も癒えないアメリカで正面からベトナム戦争を描く、そのリスクも承知の上で本作の演出に挑むことになった。舞台はペンシルベニア州、鉄鋼業の町クレアトン。ここで青春を謳歌する若者たち。やがて苛酷なベトナムの戦地へと駆り出されていく変転の無残。チミノは歪んだ悪夢を描き出し、観る者の心に深い衝撃を与えた挙句、アメリカンドリームなるものの息の根までも止めてしまったのだ。とりわけ劇中のロシアン･ルーレットの拷問シーンがあまりに鮮烈だったため、国内進歩派やソ連をはじめとする旧共産圏から猛反発を買い、一大センセーションを巻き起こした。しかしそれらがかえってアメリカ映画人の反発、チミノへの同情を呼び、アカデミー賞では9部門にノミネート、作品･監督･助演男優･編集･音響賞の5冠に輝くことになる。

主演はロバート･デ･ニーロ。共演に助演男優賞を受賞したクリストファー･ウォーケン、デビュー間もないメリル･ストリープ、さらにジョン･サヴェージ、ジョン･カザールという通好みの顔ぶれが並んでいる。思えば1978年のアカデミー賞は、ふたつのベトナム反戦映画が賞をさらった年であった。主演男優（ジョン･ボイト）･女優賞（ジェーン･フォンダ）はベトナム帰還兵の苦悩を描いたハル･アシュビー監督作『帰郷』がさらい、ハリウッドのタブーは一気に瓦解、ベトナム戦争を扱った作品が堰を切ったように製作されるようになったのである。

AWARDS

アカデミー賞
★作品･監督･助演男優･編集･音響賞受賞
☆主演男優･助演女優･脚本･撮影賞ノミネート
ゴールデン･グローブ賞
★監督賞受賞
全米批評家協会賞
★助演女優賞受賞
NY批評家協会賞
★作品･助演男優賞受賞
LA批評家協会賞
★監督賞受賞

VIDEO

撮影は米国映画界屈指の名撮影監督ヴィルモス･ジグモンド（『ギャンブラー』『スケアクロウ』『未知との遭遇／オスカー受賞』『天国の門』等）。35mm／パナビジョン･アナモフィック撮影。35mmオリジナルネガ（一部インターポジ）からの4Kデジタルレストレーション。DIファイルは4K。映像平均転送レート45.5Mbps（HDR10）+8.1 Mbps（ドルビービジョン=DV）。BLU-RAY版の映像平均転送レート15Mbps（09年UK版／VC1圧縮）、26.9Mbps（12年US版／VC1圧縮）となる。

製作40周年記念版。BLU-RAY版からのアップグレードが明快。HDRグレーディングの恩恵は随所で視認できる。アヴェイラブルライト(その場にある光)を巧みに取り入れながら、絶妙のサジ加減で強調するジグモンドのカメラ美術を蘇生、ソフトでディープな絵作りが披露される。彼の才気とセンスは、製鋼所の町、鹿狩りの山岳地帯、そしてベトナムの描画に結晶し、なおかつリアリズムを基調としながら劇的に撮り分けた手さばきに注目されたい。フラッシング（生フィルム／ネガ現像の前段階）を多用した結婚式シークエンスと教会の描画、製鋼所内（暖色／暗色）と外景（靄／低輝度）の対比、ニュースフィルムのような鋭利で粗目の輪郭をもつベトナム、鮮度の高い空気感で染め抜いた山岳シークエンスは観応えたっぷりだ。グレインの描出はいささか不規則。肌や明部の階調は滑沢だが、暗部階調の振り幅は狭い。毛髪、髭、衣服の製織、背景テクスチャ等の詳細な細部描画も目を奪う。HDRエンハンスや色域拡張は派手さとは無縁だが、ストーリーテリングに寄り添いながら効果を上げる。例えば溶鉱炉の炎、車の発光ライトや反射光、湿り気を感じさせる二次色、山岳地帯の木々や葉の深色や澄み切った青空、ベトナムの森林の緑などなど、BLU-RAY版からの色域アップグレードを存分に楽しめよう。クライマックスでウォーケンが纏うヘアバンドの赤は、苦悩や痛みを体現するほどに苛烈だ。DVでは低輝度ショットや暗部階調、透過光やキャッチアイ、早朝の陽光、教会の蝋燭やステンドグラス、披露宴会場や出征前のバーのインテリア光、ベトナムの河川の反射光、銃の鈍い光沢、爆撃や火炎放射器の炎、戦闘服の汚れた色味などの描画力を伸長する。

AUDIO

音楽は『愛はエーゲ海に燃ゆ』『マイ･ビューティフル･ランドレット』のスタンリー･マイヤーズ。オスカー音響賞を受賞した面々は、サウンドデザイン／リレコーディング･ミキサーとして『ゴッドファーザー』のリチャード･ポートマン、『2010年』のアーロン･ローチン、そして『ロッキー』のウィリアム･マッコーイー。オリジナルDTS-HDマスターオーディオ2.0音声、ブローアップ70mm上映版／6チャンネル磁気サウンドトラックからリミックスされたDTS-HDマスターオーディオ5.1音声を収録。2.0ch音声平均転送レートは2Mbps、5.1ch音声平均転送レートは2.9Mbps。

HDR絵画を補強、増幅するシネソニック。40年前のシネソニックゆえに最新サウンドと比較するのは酷だが、新たな整音は目が行き届いている。発声は明快、会話劇としての魅力も増している。本作は当時最先端のドルビー･ノイズリダクションシステムのパイオニアであり、70mm版サウンドトラックはチミノが意図したサウンドデザインを実現したと言われている。2.0ch音声と比較するとヒスノイズの改善を聴取でき、明瞭感を提供している。開幕から大型トレーラーの走行音、空気を揺らす製鋼所の工業用炉音、心のこもった結婚式に聴くスラブ系コミュニティの温かな音彩の輪、出征前夜の静謐な空気感、山岳地帯の透明なる大気、過激で鋭利な戦場音、皮膚をめくるような戦時の発声、帰国後の垂れ込める悲愴なトーンと、リスナーを虜にする音彩操演が連続。心を揺さぶる音彩浸透力を持つ。但し、映画ならではの｢音の雑味感｣の蘇生は2.0chトラックに軍配が上がる。スタンリー･マイヤーズのスコアの存在感はただならぬものがあり、｢カヴァーティーナ｣の調べは必聴。

FINAL THOUGHTS

上映時間3時間超。チミノは観客に媚びない監督だが、本作ではまったく妥協がない。それだけに観る側にも覚悟がいるが、込み上げる感情の波に抗することはできないであろう。御年40歳。時の流れのなんと早いことよ。製作40周年を記念した特典も満載だ。64ページ小冊子、脚本づくりの元ネタとなったシナリオ｢The Man Who Came To Play｣、サントラCDを同梱し、パッケージデザインも気魄がこもっている。

SPECIAL FEATURES

THE COLLECTOR'S EDITION FOUR-DISC SET WILL INCLUDE THE TWO BLU-RAY DISCS AS ABOVE, THE FIRST 4K BLU-RAY RELEASE OF THE FILM, AND:

SCREEN CAPTURES（1280pix × 720pix）

DISC SPECS

FILM SPECS

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