オーディオテクニカは低インピーダンス型MCカートリッジ用昇圧トランスAT-SUT1000と、端末の仕様が異なる4タイプをラインナップするトーンアームケーブルAT-TC1000を11月22日より発売する。いずれもオープン価格で、想定販売価格はAT-SUT1000が約50万円、AT-TC1000が約15万円となっている。
AT-SUT1000とAT-TC1000は、同社が創業以来こだわり続けているアナログリスニングのさらなる理想を追い求めて新たに起こした“オーディオテクニカ・エクセレンス”に属する製品。2016年に発売された同社最高級MCフォノカートリッジAT-ART1000がその第一号機で、今回発表されたこの2機種は、AT-ART1000の再生クォリティを新たな次元に引き上げることを目標に開発された製品だ。もちろん、両機ともAT-ART1000専用というわけではなく、他社製のMCカートリッジにも使用することもできる(詳細は後述)。
Lコア型トランスと撚り線コイルを採用する超ワイドレンジ特性のMCトランス
AT-SUT1000は極めて強固な筐体構造を持つ総重量5kgのMCカートリッジ用昇圧トランスで、インピーダンス2Ωから17ΩまでのMCカートリッジに対応すると発表されているが、マイソニックやテクダスなど2Ω未満の超低インピーダンスMCカートリッジにも使用可能だ(AT-ART1000のインピーダンスは3Ω)。発表された周波数特性グラフを見ると、MCカートリッジのインピーダンスが3Ωの場合は100kHzまでほぼフラットで、17Ωの場合は100kHzで7~8dB程度ロールオフするようだ。
搭載された昇圧トランスは長辺58mmのLコア型。コア材には透磁率の高いパーマロイが採用され、それをラミネート構造とすることで、漏れ磁束を低減しているという。過去に同社MCトランスでLコアが採用されたのは2006年発売のAT5000Tだけで、同機のLコアは長辺36mmだったという。熟練職人によって手巻きされるコイルには表面積が大きい撚り線を使用し、高域成分の伝導効率アップを図っている(一般的に、高周波信号は導体の表面を通るので、導体=コイルの表面積を大きくすれば、高域信号の伝導効率が上がる)。この昇圧トランスを支える筐体は、8mm厚の鉄鋼材削り出しベース部と、アルミ製フロントパネルを組み合せた構造となっている。
AT-SUT1000の主なスペック
型式:MCカートリッジ用昇圧トランス
昇圧比:22dB
対応カートリッジ:インピーダンス2~17Ω
推奨負荷インピーダンス:47kΩ
再生周波数帯域:10Hz~200kHz(-3dB~+1dB@3.0Ω)、10Hz~60kHz(-3dB~+1dB@10Ω)、10Hz~40kHz(-3dB~+1dB@17Ω)
寸法/質量:W196×H92×D150mm/5kg
両端のコネクター形状が異なる4タイプをラインナップ
AT-TC1000は低出力MCカートリッジの出力信号の伝送に最適な設計が施されたトーンアームケーブルで、導体には三菱マテリアルの7N-Class D.U.C.C.(デュアル・ウルトラ・クリスタライズド・コッパー)が採用されている。7N-Class D.U.C.C.は「純度」「結晶の大きさ」「結晶の配向性」を最適化した高純度銅であるという。
両端のコネクター形状が異なる4タイプがラインナップされているが、いずれもMCカートリッジから出力されるバランス信号をバランス信号のまま伝送することができる。ケーブル長は1.2mのみ。最初に記したとおり、本ケーブルは低出力MCカートリッジからの出力信号の伝送に最適化された設計がなされているが、MMカートリッジにも問題なく使用することは可能だ。ただし、ケーブルの静電容量がMMカートリッジからの出力信号の伝送に適した値にはなっていないそうなので、使うかどうかは、実際に音を聴いて判断したほうがよいだろう。
関係者向け試聴会では、2006年発売のAT5000Tと新製品AT-SUT1000を比較試聴
AT-SUT1000とAT-TC1000の正式発表直前の10月3日(水)と4日(木)に開かれた販売特約店/メディア関係者向け試聴会では、2006年に発売されたMCトランスAT5000Tと新製品AT-SUT1000の比較試聴が行なわれた(MCカートリッジはAT-ART1000)。ともにLコアトランスを採用し、昇圧比も同じ22dBだが、AT5000TとAT-SUT1000の音質差は明らかで、AT-SUT1000をつなぐとAT5000T使用時よりも再生のスケール感や聴感上のダイナミック感がひとまわり以上大きくなる印象だ。AT-SUT1000はAT-ART1000ユーザーのみならず、他社製低インピーダンス型MCカートリッジのユーザーにも注目していただきたいMCトランスである。