この7月から発売が開始された東芝の有機ELテレビ、X920シリーズの出足が快調という。昨シーズンのX910に比べて店頭価格が大きく下がり、高画質大画面テレビを求める方たちから熱い視線を集めているようだ。昨年、各社の有機ELテレビを精査し、筆者は「画質総合力ナンバーワンは東芝X910」との確信を深めていたが、果たしてX920の実力はどうだろう。65型の65X920をチェックしてみた。

TOSHIBA 65X920

 液晶を含む東芝高級テレビの今季最大のトピックは、新4K8K衛星放送に対応したBS/CS 4Kチューナーの内蔵だ。12月1日の放送開始までに該当モデルを購入した方には「BS/CS 4K視聴チップ」を別途発送するとのこと(各自で申し込みが必要)。他社に先駆けて高画質4Kチューナーを内蔵するところに、全録の提案など「こんにちのテレビの在るべき姿」を積極的に模索してきた東芝らしい先進性を感じるのは筆者だけではないだろう。

 では、最新有機EL大画面テレビX920にフォーカスして話を進めよう。ここでは65X920の画質をじっくりチェックできたので、そのインプレッションをお届けしたい。ぼくは昨年発売された65X910を自室で使っているので、その違いについても言及したいと思う。

4K放送用チップも順調に準備が進む

 今年の東芝テレビ新製品は、12月1日に始まるBS/CS 4K放送用チューナーを内蔵している。ただし、視聴には著作権保護技術のACASに対応したチップが必要だ。しかしACASチップは供給数が限られており、現時点ではテレビセットに内蔵できていない。そこで東芝では同社製対応テレビの購入者に写真のような「BS/CS 4K視聴チップ」を後日提供する(申し込みが必要)。これを本体背面の専用端子に取り付けると、4K放送が楽しめるようになるのだ。(編集部)

 

調整から情報表示まで、AVファンが喜ぶ機能が進化

 X920にはLGディスプレイから供給される2018年型最新有機ELパネルが採用されている。明るさはX910の800nit(カンデラ/平方メートル)に対して1000nit。約25%明るくなった計算だ。X910パネルに対して緑の再現範囲が広がっており、DCI(デジタルシネマ規格)色域比99%をカバーするという(X910は98%)。

 ご存じの通りLGディスプレイ製有機ELパネルは白色発光で、RGBW(ホワイト)のカラーフィルターを組み合わせてフルカラーを得ているが、従来他のサブピクセルよりも磨耗が大きかった赤サブピクセル(赤フィルター部分)をケアするため、この最新パネルでは赤フィルター部分の面積を拡大、そのエリアの電力密度を下げることで焼き付きを抑制し、パネル寿命を伸ばしたという。X920の発売が他社よりも遅れたのは、このパネルに最適化した画質チューニングに時間をかけたからだそうだ。

 注目はあらゆるプログラムソースを高画質描写する信号処理回路の進化だろう。

 東芝レグザは以前からこの画質エンジンの性能に自信を持っており、常に他社のエンジニアや高画質マニアの注目を集めてきたが、X920に搭載された「レグザエンジンEvolution PRO」の内容もとても興味深い。とくに放送系コンテンツの高画質アプローチに見るべきものが多い。

 地デジやBSのHD放送はMPEG2方式によって画像圧縮されるが、X920ではその圧縮時に構成される3種類のフレーム構造(I/B/Pピクチャー)の登場周期に注目、同フレーム間どうしで複数(3フレーム)超解像処理を行なうことでその精度向上を果たし、解像感向上とノイズ抑制を実現したという。とくに水平解像度が1440本の地デジや民放系BS放送では、1440→1920変換(水平3分の4倍伸張)時に従来の単純な線型補間から再構成型超解像処理に置き替えることで、いっそうの高画質化を図ったとしている。

 HDR関連で興味深いのは、トーンマッピング手法の進化。現在発売されているUHDブルーレイ等のHDRコンテンツは最大輝度1000nitと4000nitの作品に大きく二分される。

 X920は1000nitの明るさを持っているので、前者の場合は何をせずともその作品のPQカーブを忠実に再現できるが、後者(4000nit)の場合はやっかい。最大輝度を1000nitに置き替えると映像全体が暗くなってしまうし、そのまま表示すると1000nit以上の明るさの情報が欠落、白トビが起きてしまう。

 そこで本機の「HDRリアライザーPRO」では、HDR入力信号の500nitを境にそれ以下とそれ以上に分けて別個にゲイン制御することで、映像全体が暗くならず、ハイライト側の階調情報をぎりぎりまで粘って表示できるように工夫したという。つまり500nit以下はそのままのトーンカーブで表示し、500nit以上は入出力特性をマッピングして最適な階調表示を実現するという仕組みだ。

 また、興味深いのが情報表示の新提案で、刻一刻と移り変わる入力信号のピーク輝度と平均輝度の推移を「映像分析情報」としてグラフ化した。いやはや、よくまあこんなマニアックな機能を盛り込んだもの。このグラフを見ることによってHDRコンテンツの分析・研究が進むことは間違いなく、AVファンを代表して「東芝さんありがとう」と言っておきたい。

 

HDRを快適に楽しむための、有効な調整項目も追加された

メニュー表示も、前作のX910から細かく改良されている。基本となる「映像設定」はこれまでとほとんど同じだが、「映像メニュー」や「コンテンツモード」の名称は一部変わっている

「映像設定」から」「映像調整」を選ぶと、詳細なイコライジング項目が表示される。本文にもある通り、下から2段目の「映像分析情報」はこれまで以上にマニアックな内容に進化した

「レゾリューションプラス」は再構成型の超解像技術で、地デジ等の水平方向の画素数が少ない信号をフルHDに変換する際にも使われている。「ゲイン」ではその効果を微調整できる

「映像調整」の「コントラスト感調整」には、HDR関連の調整を行なう項目が並ぶ。写真でグレイアウトしている「アドバンスドHDR復元プロ」はSDR信号をHDR変換する機能となる

「HDR調整」では、HDRコンテンツを視聴している場合の効果の観え方も細かく調整できる。「HDRエンハンサー」を「オート」にしておけば、HDR信号の入力時に常に白トビを抑えて、ハイライトの階調をきちんと再現してくれる

「映像調整」から「映像分析情報」を選ぶと、再生しているコンテンツの輝度分布等がモニターできる。今回から2ページ目(写真右)が追加され、リアルタイムでのピーク/平均輝度もわかるようになった

 

放送、パッケージとも出色!高画質競争の最前線に躍り出た

 まず100ルクス相当の電球色照明下で、地デジのニュース番組を「おまかせ」モードでチェックする。X910比で輝度25%アップというスペックがうなずける、明るくてキレのよい画調。他社の最新有機ELテレビを傍らに置いて見比べてみたが、放送系画質はX920の圧勝だ。超解像処理の巧さが際立ち、登場人物の肌のディテイルが克明に描かれ、なおかつノイズの粒子がとても細かい。店頭モード「あざやか」は目が痛くなるくらいの明るさだが、それでも「おまかせ」モードの高精細&高S/N映像の持味は生きており、販売店を訪れた方たちを驚かせているのは間違いないだろう。

 本機の音声系は前作X910をそのまま引き継いだもので、小さなキャビネットに収められた2ウェイ・スピーカーが画面下部に下向きでビルトインされている。しかし、その音は声の明瞭度が高く、予想以上の健闘ぶり。音がいかにも画面下から出ているという違和感も少ない。独自開発の音響パワーイコライザーによって音像を上方にリフトアップする工夫が施されているようだ。もっとも本機の画質のよさにバランスさせるには、やはりテレビ両サイドに良質なステレオスピーカーを置くべきだとは思う。

 部屋を全暗にし、映像モードを「映画プロ」に変更、見慣れたUHDブルーレイとブルーレイでそのパフォーマンスをじっくり精査した。UHDブルーレイを観ての第一印象は、やはり「明るい」ということ。「映画プロ」モードでもX910以上に白ピークが伸び、じつに明快でフレッシュな画質が実現されている。とくに『ハドソン川の奇跡』『マリアンヌ』などの夜景の中に浮かぶ照明の輝きのヴィヴィッドさは、思わず感嘆の声を上げたくなったほど。

 本機でHDRコンテンツを観る際には、先述した「HDRリアライザーPRO」が効くように『HDRエンハンサー』を常時オート、またはオンにしておくことが肝要。こうしておけば最大輝度4000nitの作品でもハイライト側の階調が精妙に描写されるわけで、安心してHDRコンテンツを楽しむことができる。

 壁や夕景など大面積部分でノイズが目立つUHDブルーレイ『ラ・ラ・ランド』は、良くも悪くもソースに忠実な描写。最新パナソニック機やソニー機に比べるとノイズは目立ちやすい。『グレイテスト・ショーマン』の発色のよさ、階調の安定感は出色で、ふだん見慣れているX910以上に清新で鮮やかな印象を受けた。

 また、1080/24P入力で観たブルーレイ『浮草』がとても素晴らしかった。小津安二郎監督の1959年作品だが、当時のアグファカラーフィルムの発色をシミュレーションしたていねいなマスタリングが施された作品ならではの色合いの美しさが実感できた。

 東芝レグザの最新有機ELが、各社がしのぎを削る高画質競争の最前線に躍り出たことは間違いないだろう。

レグザエンジンEvolution PROを活用した超解像で、放送画質もさらに向上させている

X920シリーズと、昨日発表された4K液晶レグザのトップモデルZ720Xシリーズに搭載される、「レグザエンジンEvolution PRO」。写真のふたつのチップで多様な信号処理を受け持っている

4K放送といえども圧縮されている限りノイズとは無縁ではない。X920ではGOP(グループ・オブ・ピクチャー)構造に注目し、相関関係の強いフレームを参照する仕組を考えたという

放送のアップコンバート画質にもこだわっている。X920では地デジからフルHDに、さらにフルHDから水平方向を2倍、その後垂直方向を2倍と合計3回の超解像を加えている

 

「高画質」「4K放送対応」「タイムシフトマシン」の3拍子が揃う

4K OLED DISPLAY TOSHIBA 65X920
オープン価格(実勢価格65万円前後)

● 画面サイズ:65型 ●解像度:水平3840×垂直2160画素
● 接続端子:HDMI入力4系統、デジタル音声出力1系統(光)、アナログAV入力1系統、
● 接続端子:USBタイプA 4系統、LAN1系統 他
● 内蔵チューナー:BS/CS 4Kチューナー×1、地上デジタル×9、
● 内蔵チューナー:BS/110度CSデジタル×3、スカパー! プレミアムサービス×1
● 消費電力:495W(待機時0.4W) ●寸法/質量:W1446×H846×D267mm/46.5kg(スタンド含む)
● ラインナップ:55X920(実勢価格45万円前後)
●問合せ先:東芝テレビご相談センター TEL 0120-97-9674

X920の背面端子部。なおBS/CS 4K放送は、これまでの右旋円偏波に加え、左旋円偏波の電波も使っているので、すべてのチャンネルを視聴したい場合は対応アンテナをつなぐ必要がある

X920に搭載されるフルレンジスピーカーユニット。これと、同じく新設計のトゥイーターをバスレフボックスに格納して、総合出力46Wのマルチアンプで駆動している

リモコンのボタン配置が変更され、左上の目立つ位置に「4K」ボタンが置かれている。東芝のテレビで4K放送を楽しんで欲しいという開発陣の願いが強く感じられる

 

主な視聴システム
●UHDブルーレイプレーヤー/HDDレコーダー:パナソニックDMR-UBZ1

主な視聴ディスク
●UHDブルーレイ:
『マリアンヌ』『ハドソン川の奇跡』
『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』
『ゲット・アウト』『未知との遭遇』
『フィガロの結婚』
●BD-ROM:『浮草』
●エアチェック:『ミステリースペシャル 「満願」』
(NHK BSプレミアム)