卵形のシェルは近未来的でSF映画に出てきそうだ!

1960年代にフィンランドのデザイナー、エーロ・アールニオがデザインしたボールチェアをオマージュしたというVRS-1。本機はスピーカーユニットや外装のシェルを含めて100%受注生産。納期は3〜4ヵ月を要する

 自宅にホームシアターを実現するうえでの難関はいくつかある。前方だけでなく、後方や天井などいくつものスピーカーを設置すること。スピーカーが生活動線の邪魔になることも深刻だ。そして、近隣の迷惑になるため大きな音量を出せないこと。こうした難関に真っ正面から向き合い、解決を目指したのが、オーディオハートの「VRS1」。

 同社は、スピーカーユニットメーカーの北斗音響(現ミネベア音響)や赤井電機に在籍してスピーカーの設計・開発に携わり、独立後もOEMスピーカー設計などに関わった人物が設立したブランドだ。海外の著名なスピーカー設計者との交流も豊富だという。「VRS1」はそんな彼の最新作であり、簡単に言えばサラウンド機能の付いたパーソナルチェアだ。卵形シェルの内部には、ドルビーアトモスなどに対応する7・2・4構成のスピーカーを内蔵している(センターは2スピーカーによるファントム再生)。本機と7・2・4対応AVセンターや映像を表示する薄型テレビなどと組み合わせれば、それだけでホームシアターシステムを構築できる。一番の難関である設置や配線の手間などを最小限とした、ありそうでなかったシステムと言えるだろう。

搬入や移動の際は、天面、座面、脚部に分割が可能。総質量が約100kg近くになるため設置する場所に配慮が必要だ。遮音性の高いシェル内部に7.1.4構成のスピーカーが備わる。

フロントL/Rとセンタースピーカー(センタースピーカーは左右に振り分けた仮想再生)は2ウェイ方式の密閉型。

サラウンドとハイト用のスピーカーは50mmのパルプコーンフルレンジタイプを合計8個を用いている

 本体である卵形シェルはマイナス20 dBほどの遮音性も備えており、ユーザーとスピーカーの距離が近いこともあって、充分な音量でも周囲に迷惑をかけることもない。集合住宅など、大音量を出しにくい環境での使用にも配慮されている。おひとりさま専用ではあるが、防音されたホームシアターを容易に実現できるシステムとしてはひとつの理想形とも思える。

 シェルは、これまでのスピーカー設計などで関わりのあった台湾のサンフィールド社製で、高い強度を確保できているだけでなく、見た目の仕上がりもよい。外観もスマートで、側面から後方はカプセルのようになっており、スイーベル可能なスタンドで自立している。大人の男性でも快適に過ごせる空間の確保を目指しているので、サイズは大きく、テレビの前に巨大なオブジェが屹立している様子は初めて見るとギョッとする。

 前方に回ってみると、座面とその両脇、腰部に厚めのクッションが配置されており、それが椅子であるとわかる。SF映画で見るような、未来的な印象だ。シェルはFRP製でかなり厚みがあり、内部は吸音性の高いやや硬めのウレタンが張り巡らされている。そこにフロントとセンター用に8㎝口径のスピーカーが4個、サラウンドとハイト用に5㎝口径のスピーカーが6個と16㎝口径のサブウーファーが2個埋め込まれている。

 スピーカーユニットは独自に開発したもので、フロントとセンター用のスピーカーユニットとサブウーファーともにアルミ振動板を採用し、比較的小口径ながらも16㎐〜55k㎐(マイナス10 dB)の周波数帯域を実現している。スピーカーはパッシブなので、すべての音を出すには11 ch駆動に対応したAVセンターが必要になる。サブウーファーもアンプを持たないので、さらに2chのアンプが必要だ。

 取材では、HiVi視聴室のリファレンスであるデノンのAVC–X8500Hとサブウーファー用にPMA–SXを使用した。スムーズな導入を考えるとサブウーファー用のアンプを内蔵した方が使いやすそうだ。

 VRS1に腰を下ろしてみると、吸音性が高くシェル内のノイズレベルはかなり低い。違和感を覚えるほどではないが、ややデッドな印象だ。前方は大きく開放されているので閉塞感はないが、首をめぐらせても横や後ろは完全に遮蔽されているので、まさしくカプセルに入った感じになる。遮音性が高いこともあって周囲に人が居てもその存在を感じにくく、映画鑑賞やゲームなどの没入するには適した環境と言える。

背もたれ側の背面に配置したサブウーファーユニットは160mm口径を左右両サイドに配置。サブウーファーはパッシブ型のため別途アンプが必要となる

映画はもちろん、ゲームでもじっくりと使いこなしてみたい

 さっそくPS4のゲーム『グランツーリスモ:スポーツ』をプレイしてみたが、7・1ch音場がしっかりと再現され、なかなかの臨場感。特に、マシン同士が接近するテール・トゥ・ノーズではエンジン音の移動感もスムーズだ。スピーカーとの距離が近いので、音源位置がクリアーなのがやや気になったが、音のつながりは良好で、自然な空間感が得られる。空間の広がりは若干狭く、レースゲームの車内の感じがリアルだ。

 『モンスターハンター:ワールド』では、モンスターがいる森の環境音も明瞭な定位で再現。斜め後ろに現れた野生動物の気配もリアルに表現されるし、狩猟目的である巨大なモンスターの咆吼や迫力ある足音もパワフルに描く。目の前の画面に集中してしまうと、ほぼ完全に外界から遮断され、没入感もなかなかのもの。

 ドルビーアトモス収録のUHDブルーレイ『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』なども観てみたが、ファントム再生のセリフの定位がやや実体感に乏しいことが気になったくらいで、音質もクセがなく低音もしっかりと鳴る。細かな音の再現も優秀で、高域のキツさもなく聴きやすい音に仕上がっている。

 VRS1は、住宅事情でホームシアターを諦めていた人には、かなり魅力的な製品だ。筆者としてもよりじっくりと使ってみたい! というわけで、次回は使いこなしも含めて、音の実力や実用性についてリポートしたい。

Multichannel Speaker System
Audio Heart
VRS-1
¥980,000+税(受注生産)
●寸法/質量:W995×H1340×D1080mm/93kg
●問合せ先:オーディオハート株式会社
04(7193)2608

オーディオハートは、2018年9月22日(土)~23日(日)に幕張メッセで開催される「東京ゲームショウ2018」に出展する。卵型シェルのサウンドを実際に体験できるチャンス!

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