♪ユ~キャンダ~ンス♪
この曲を聴いたことのない大人を探す方が難しいだろう。スウェーデンが誇る4人組ヴォーカル・グループ、ABBA(アバ)の大ヒット曲「ダンシング・クイーン」だ。1976年に発売され、たちまち世界で300万枚の売り上げを記録。アメリカ・イギリスのヒット・チャートでは第1位に輝いた。それだけなら“昔、ものすごく流行ったヒット曲”のひとつでしかないのだが、今なおキャッチーなものとして歌い継がれ、聴き継がれているところにABBAの持つレガシーの凄みがある。
そしていま、ABBA周辺が再び熱い。1983年以来、35年ぶりに新曲レコーディングを行なってファンを驚かせたのは今年4月のことだ(12月リリース予定)。8月には歴代ヒット曲を満載した映画『マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー』公開。メンバーのアンニ=フリッド・リングスタッドはキューバ出身のトランペット奏者、アルトゥーロ・サンドヴァルの最新作『アルティメット・デュエット』への客演でも話題を集めた(サンドヴァルは9月11日からブルーノート東京で来日公演を開催)。さらに9月7日、東京・有楽町の公益社団法人 日本外国特派員協会では「The Show-A Tribute to ABBA at FCCJ」という記者会見が行なわれた。
「The Show-A Tribute to ABBA」は、ABBA公認トリビュート・バンドによるステージの名称。2001年のスタート以来、40ヵ国でおよそ700公演を開催しており、このライヴ数は本家ABBAをしのぐ。9月10日から19日まで行なわれる日本公演にはABBAのバック・バンドの一員としてツアーや「I Do, I Do, I Do, I Do, I Do」等のレコーディングに参加しているサックス奏者ウルフ・アンダション(ジャズ・ミュージシャンとしても著名で、サド・ジョーンズやモニカ・ゼタールンドなど数々のレジェンドと共演)も加わる。
記者会見にはトリビュート・バンドでリード・ヴォーカルを務めるCamilla Dahlin(カミラ)とKatja Nord(カーチャ)が参加、映画コメンテーターやタレントとして知られるLiLiCo(ストックホルム出身)もABBAファン代表として加わり、日本語、スウェーデン語、英語が混ざり合う賑やかなひとときとなった。カミラとカーチャのふたりは1996年に、ABBAのヒット曲から名前をとったユニット“Waterloo”を結成。「まるでABBAそのもの」という声が相次いだことから、本格的なトリビュートに取り組むようになったという。フェイヴァリット・ソングは、カミラが「Thank You for the Music」、カーチャが「Eagle」。「Thank You for the Music」のミュージック・ビデオには、子供の頃のカーチャが写っているそうだ。
オリジナルのABBAの来日は、現時点では1980年に一度あっただけ。リアルタイム世代にも、後追い世代にも楽しめること間違いなしのステージの開催を楽しみにしたい。そしてジャズ・ファンには、ウルフ・アンダションのサックス・プレイも大きな喜びを提供してくれるはずだ。ここ10年の音楽シーンを見渡しても、JTR、ウルリック・マンター、ダーティ・ループスなどスウェーデン発の才能には事欠かないが、日本とスウェーデンの距離を音楽で近づけたグループといえば、現在も変わらず筆頭に挙げられるのはABBAをおいてほかならない。
今年は両国が1868年に修好通商航海条約を締結してから、ちょうど150周年という記念すべきアニヴァーサリーにもあたる。いまこそABBAルネッサンスを、真正面から感じる時なのだ。