各部をブラッシュアップさせることで、さらなる音質向上を果たした
ヤマハから、セパレートAVアンプのフラッグシップAVENTAGEシリーズの新製品として、AVプリ「CX-A5200」と11chパワーアンプ「MX-A5200」が発表された。発売はCX-A5200が10月下旬、MX-A5200は少し遅れて12月中旬となる。価格はCX-A5200が¥300,000(税別)、MX-A5200は¥320,000(税別)であり、前モデルに比べてどちらも2万円のアップとなった。
AVプリのCX-A5200は、2015年登場のAVプリ「CX-A5100」の後継モデル。躍動するサウンド、心震わせる余韻、そして音に没頭できるイマーシブ性といったヤマハが追い求める“臨場感”を再現するために、各部をよりブラッシュアップした渾身のフラッグシップモデルだ。
DACは、先に発売となったAVENTAGEシリーズの4ケタモデル80番シリーズと同様に、ESS社製の「ES9026PRO」に換装。チップの変更とレジスタ設定により、「ES9016S」を使用していたCX-A5100に比べて、ノイズレベルを8dBも改善したという。
さらに、アンプにとって重要な電源部については、搭載トランスをA5100比で約2倍に大容量化し、力強いサウンドの再現を目指した。その土台には、3mm厚の真鍮製ベースプレートを使い、大容量トランスをしっかりと支えている。
シャーシについても、本体底面のボトムカバーに1.6mm厚の鋼鈑を採用。さまざまな組み合わせを試した結果、A5100比で厚みでは2倍(0.8mm→1.6mm)、質量で1.0kg増とすることで、強化した電源をしっかりと活かしきったローエンドの再現性を獲得したのだという。
なお、AVENTAGEシリーズの4ケタモデルと同様に、「Surround AI」機能も搭載しており、ドルビービジョン&HLGのパススルー、DSD11.2MHz対応などの注目フィーチャーにも対応している。
CX-A5200の主なスペック
●接続端子:HDMI入力7系統、HDMI出力3系統(HDCP2.2対応)、デジタル音声入力6系統(同軸×3、光×3)、プリアウト11.2ch(バランス※、アンバランス)、他
●主な特徴:ドルビーアトモス/DTS:X対応、HDR10/HLG/ドルビービジョン対応、サラウンドAI搭載、シネマDSP HD3 34プログラム、ESS SABRE ES9026PRO×2搭載、新デザインバックライト付リモコン、他
●対応ハイレゾフォーマット:DSD11.2MHz、PCM 384kHz/32bit(32bitは整数型のみ)
●消費電力:65W(待機時0.1W、HDMIコントロール/スタンバイスルーオフ)
●寸法/質量:W435×H193×D474mm/15.2kg
※バランス端子は2番HOT
11chパワーアンプ「MX-A5200」は、電源GNDの最適化でドライブ力を向上
11ch分のパワーアンプを搭載したMX-A5200は、2013年登場の「MX-A5000」の後継であり、実に5年ぶりのモデルチェンジとなる。
こちらもキープコンセプトでありながら、登場から5年、その間に蓄積したノウハウを活かしたブラッシュアップを行なうことで、CX-A5200の進化に即したサウンドを獲得している。
メスが入れられたのは、GNDセンシング回路であり、信号用GNDの伝送を共通GNDから分離させることで、CX-A5200同様にS/Nを向上させているのだという。
同時に、各所の配線に用いている線材を見直すことで、低インピーダンス化を進め、ドライブ力、レスポンスを大幅に改善した。
また、ブリッジ接続(フロント2chのみ)に対応したのも注目で、その際は9chアンプとして使用できる。なお、端子の配列も基板に近いところ(配線が短くできる)をフロントチャンネルに割り当てるなど(ch3、4。これをブリッジ接続に使う)、音質に留意した仕様であるところにも、メーカーのこだわりが見て取れるだろう。
その他、シャーシ周りについても各所のブラッシュアップに合わせて強化されており、CX-A5200同様に本体底面のボトムカバーを2mm厚の鋼鈑に変更(こちらも質量が1kg増している)。低重心、低共振化を進展させている。
MX-A5200の主なスペック
●定格出力:170W×11(6Ω、0.06%THD)
●接続端子:11ch(バランス、アンバランス)※バランス端子は2番HOT
●消費電力:650W(待機時0.1W)
●寸法/質量:W435×H211×D463.5mm/26.4kg
【速攻レビュー:木村雅人】
ヤマハAVアンプのフラッグシップモデルとして正統な進化を遂げた
今年のヤマハはAVアンプの新製品が充実していて、ヤマハユーザーとしてはどれにするかうれしい悩みといえるだろう。
今回紹介するAVプリアンプ「CX-A5200」と11chパワーアンプ「MX-A5200」は、ヤマハAVアンプの頂点に君臨するモデルで、CX-A5200は前モデルから3年ぶりに、MX-A5200は5年ぶりにリプレイスされた。
このようなハイエンドクラスはモデルサイクルが長いのが一般的だ。しかし今年から「Surround AI」が下位機種に搭載されたので、フラッグシップ機が未対応とは、ヤマハのプライドが許さなかったのであろう。そこで、どうせやるならパワーアンプも一緒にブラッシュアップを行なったと筆者は推測する。また最新の機能を搭載した最高級モデルを所有したいユーザーの気持ちに応えたとも言えるだろう。
試聴場所は今まで通り、泉岳寺にあるヤマハの試聴室である。試聴は前モデルである「CX-A5100」&「MX-A5000」のペアと、CX-A5200&MX-A5200のペアとを、順次配線を変えつつ、比較しながら行なった。前回の4ケタ型番のAVENTAGEの取材でもそうであったが、このように新旧モデルを直接聴き比べるというのは、ヤマハの自信の表れと言えるだろう。
まずは2chオーディオから聴いたが、CX-A5200&MX-A5200は、澄み切ったサウンドが印象的であった。さらに音の出だしが鮮明で、かつ低音のキレもなかなかいい。適材適所がアップデートされ音質に磨きが掛かったと言えるだろう。
次にマルチチャンネルを聴くと、音の印象はおおよそ2chオーディオと同様だが、出てくる音の情報量の多さからくる空間描写は、さすがの最上位モデルといった所だ。また、ある意味本機は、ヤマハお得意の「CINEMA DSP」を必要としないぐらいのクォリティの高さが感じられたのをお伝えしたい。それ程本機の素性が優れているのだ。
では前モデルと比較してどうだったか。それを一言で表せば「正統な進化を遂げた」に尽きる。確かに前モデルのサウンドクォリティも悪くはない。筆者は試聴前に資料を見た時、DACは新しくなった他は、目に留まる様なアップデートが少ないので、どう成長したのか少し気になっていた。しかしこうやって聴き比べてしまうと、正直に良くなったと思わざるを得ないと感じたのだ。エンジニアの地道なファインチューニングの成果なのだろう。
価格が若干上昇してしまったが、本機はSurround AIのみならずクォリティの底上げなされた対価と考えてみて欲しい。ぜひ、皆さん自身の耳で本機の本質を確かめてみてはいかがだろうか。
CX-A5200とMX-A5200は、ヤマハAVアンプ最高位の後継者として、ふさわしい仕上がりと言えるだろう。