今回のステレサウンドオンラインレビューは、STAX(スタックス)から4月に発売された開放型のイヤースピーカー(同社ではヘッドホンではなく、イヤースピーカーと呼ぶ。本稿では以降はヘッドホンで統一する)「SR-009S」を紹介したい。ヘッドホン好きのみならず、オーディオファンの間では『STAXと言えば静電型(コンデンサー型とも言う)ヘッドホン』と言われるほど有名。それもそのはず、同社は1960年に世界で初めて静電型ヘッドホンを世に送り出し、以来58年もの長きにわたって静電型ヘッドホンを作り続けている希有なメーカーなのである。

STAXの静電(コンデンサー)型ヘッドホン「SR-009S」

静電型とは、薄い膜を静電気で振動させる方式

 静電型ヘッドホンは、ほとんどのヘッドホンが採用するダイナミック型ドライバーとは発音の仕組みが異なる。平らな2枚の固定電極の間に振動膜(ダイヤフラム)を配置。電極に電圧をかけた際に生じる静電気によって振動膜を動かして、発音する。振動膜がほぼ均一に動くため歪みが少なく、微少な音楽振動にも忠実な再現力がある。しかし、再生には電圧をかけつつ微細な再生音を取り出す専用のアンプが必要となる。

 発音の仕組みや再生に必要な機器が特殊なのもあって「静電型ヘッドホン=高額製品」と言うイメージが定着しているように思う。中でも、今回紹介するSR-009Sは、フラッグシップ機「SR-009」を進化させたモデルで、価格は46万円(税別)。それだけに長年培ってきた技術が惜しみなく投入されている。

 もっとも進化したのが振動膜を動かす電極だ。STAXが開発しSR-009に投入されたMLER(Multi-Layer-Elect-Rords=多層固定電極)は磨き上げられ、MLER2へとアップデートされている。

メッシュから透けて見えるのが多層固定電極「MLER2」。振動板はそのさらに奥にある

 MLER2は、電極の開口部をなめらかに加工する事で空気抵抗を低減。その電極を金属の中でも比重の高い金メッキを施すことで共振を最小化し、それにより低インピーダンス化も実現した。STAXはこれらによってハイスピードかつクリアーなサウンドを手に入れたと説明している。

 ダイヤフラムには、従来機と同じく極薄の高分子極薄化極薄フィルム素材「スーパーエンプラ」を用いたフィルムを採用。さらに、質量を限りなくゼロに近くなるよう軽量化したことで、優れた過渡特性を高帯域に実現した。軽量化かつ共振を抑えた駆動部をアルミ削り出しによるハウジングにしっかりと固定し、純度の高いサウンドを目指しているという。

 イヤーパッドは従来モデル同様に本革を採用していて耳になじみ易い。長時間のリスニングでも疲れにくかったことをお伝えしておきたい。ケーブルもSR-009S専用で、中心線に6N、外周に銀メッキが施された銅線を使用。リスニング中にケーブルの取り回しが少し気になったが、音質を重視してフラットケーブルとしているので、このあたりは仕方がないだろう。

イヤーパッドは本革製。フィット感よく、付け心地も良好だ。フレームやヘッドバンドの質感も高く、高級感に満ちている

 本体の質感はまさにハイエンド製品らしい仕上がりで、桐箱の専用ケースも付属する。46万円(税別)という価格も実際に手に取ってみると納得させられるはずだ。

品の良い桐箱に収められていた

精密な再生で、オーケストラの響きが美しい

 試聴はいつも通り筆者の部屋で行なった。前述の通り、静電型は専用のヘッドホンアンプが必要なので、STAXの「SRM-007tA」(¥147,000税別)を用意してもらっている。

同社の静電型ヘッドホン専用アンプ「SRM-007tA」。管球式でアナログ入力のみ。静電型ヘッドホンは、独自の5ピン端子で接続する

 再生機器は、筆者所有のパイオニアのネットワークプレーヤー「N-70AE」を使用。試聴ソフトはマイケル・ブーブレの『It's Time』から「Feeling Good」(48kHz/24bit FLAC)と、ステレオサウンドストアから発売されているイシュトヴァン・ケルテス指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の『ドヴォルザーク:交響曲第九番「新世界より」』から「第一楽章」(11.2MHz DSD)を選択した。この『新世界より』は情熱的なサウンドで、数ある演奏の中でもトップクラスと言える名盤である。

 STAX SR-009Sを聴いた印象は「精密なサウンド」の一言に尽きる。「Feeling Good」ではマイケル・ブーブレのヴィブラートを正確に聴き取れるし、かといって音の密度が下がるワケでもないのがさすがだ。一方『新世界より』では、一体感のあるウィーン・フィルの響きが美しい。トロンボーンが主旋律を吹く場面では、シンフォニックなサウンドを放ちつつも、弦楽器に旋律が移ると厳しさと静けさを伴った演奏も難なく描き分ける。SR-009Sは静電型の素性をうまく引き出していると言えるだろう。

 SR-009Sはヘッドホンとしてはかなり高額だ。さらに専用アンプも必要で、導入には覚悟が必要だろう。しかし、一度味わえばこのサウンドの魅力に納得せざるを得ないと筆者は感じた。もし店頭で見かけたら、話半分と思ってぜひとも本機のサウンドを体験して欲しい。

試聴時の様子。筆者の木村さんはリラックスして音楽に没頭していた

Earspeaker
STAX
SR-009S
¥470,000(税別)
●形式:静電(コンデンサー)型ヘッドホン、開放型 ●再生周波数帯域:5Hz~42kHz ●静電容量:110pF(付属コード含む) ●インピーダンス:145kΩ(10kHzにて/付属ケーブルを含む) ●音圧感度:101dB/100Vr.m.s.入力/1kHz ●バイアス電圧:DC580V ●質量:583g(付属ケーブル含む)、441g(本体のみ)

STAX「SE-009S」の製品紹介ページ
https://stax.co.jp/products/sr-009s/

STAXのサイト
https://stax.co.jp/

筆者の木村さんが試聴した『ドヴォルザーク:交響曲第九番「新世界より」』購入サイト
https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_bd/2658