米MYTEK Digital(マイテック・デジタル、以下MYTEK)が開発するプリ&ヘッドホンアンプ内蔵USB DAC「Brooklyn DAC」がグレードアップし「Brooklyn DAC+」(想定市場価格¥270,000前後)として6月下旬より発売される。いち早く聴く機会を得たのだが、外観や入出力端子といった基本仕様はそのままに、音質面において確実に進化を遂げていた。有機的でアナログライクな音質は、音源がデジタルソースであることを暫時忘れさせてくれたのだ。早速、詳細をお伝えしよう。

MYTEK Digitalの新製品「Brooklyn DAC+」。6月下旬発売予定で層手市場価格は¥270,000前後

MYTEKはプロ用機器からスタートした硬派なブランド

 MYTEKはニューヨークに本拠を置くプロ用レコーディング機器メーカーだ。代表のミーハウ・ユーレビッチ氏はSACDのプロジェクトにも参加し、DSDフォーマットの策定にも携わるなどDSDとの関わりが深いことでも知られる。コンシューマー向けモデルも展開しており、日本で2015年末に発売されたBrooklyn DACは、当時まだ新しかった次世代コーデック「MQA」のデコードにいち早く対応したUSB DACとして注目されたので、記憶に新しい方も多いだろう。

 Brooklyn DAC+は、従来モデルのBrooklyn DACと見た目が瓜二つ。しかし、寸法は従来機のW218×H44×D206mmからW216×H44×D216に、質量は1.6kgから2kgとなっている。持ち上げると、見た目以上にズッシリとしていて驚いた。筐体に堅牢な金属を用いただけでなく、強力な電源部を備えたり、ノイズや振動対策をしっかり施していたりしていることが伺える。それもそのはず、中身は別物とばかりに進化しているのだ。

 まずDACチップがESSテクノロジーの「ES9018系」から「ES9028PRO」に変更されている。ES9018系より高グレードで色付けの少ない低ノイズアナログアッテネーターを搭載し、アナログ入力のパフォーマンスを向上させたというモデルだ。対応フォーマットは、従来機と同様にPCM 384k/32bit、DSD 11.2MHzまでと流通するほぼ全ての音源をフォローする。

 端子は、背面にアナログ/フォノ入力のRCA端子が1系統、同軸デジタル入力は2系統、XLRタイプのAES/EBU入力端子とTOS光がそれぞれ1系統備わる。出力はRCAとXLRバランスが1系統ずつあり、同時出力が可能だ。その他にワードクロック端子もある。前面には6.3mmヘッドフォン端子が2系統あり、バランス駆動(別売のバランス駆動アダプターの利用を推奨)にも対応する。

背面パネル。左のXLRとRCAがアナログ出力。中央のXLRはAES/EBUデジタル入力。注目はMM/MC対応のフォノ入力を備える点

 小型DACにも関わらずこれを備えているのは、プロ向け機器を開発している同社らしいこだわりの現れだろう。ワードクロック入出力は、複数台のBrooklyn DAC+を同期させてマルチチャンネルのDSDなどを再生するのに使用できる。12V DC電源入力は、電源を強化するための端子だ。正式サポートする製品はないようだが、30Wの内部電源に対して5~10倍の余裕を持つ外部電源(12V DC)を接続すると、より優れた音場感と深い低域が味わえるとのこと。ACインレット以外でも音の変化を楽しめそうだ。

 そして、MM/MC対応フォノイコラーザーアンプを内蔵していることも本機の大きな特徴だ。従来機にも搭載されていたが、本機ではブラッシュアップによりトランスペアレンシーが向上したという。加えて、アナログ信号経路をデュアルモノラル構成に変更、ヘッドホンアンプの情報量と分解能の向上......と枚挙に暇がない。音質に関わる部分は、ほぼ手が入れられていると考えて良さそうだ。

 フロントパネルには、前述のヘッドフォン端子の他に操作ボタンが4つ、視認性が良好なディスプレイと操作ダイヤルが1つ。照度と色の変更が可能なマイテックロゴランプがある。

 メニュー操作は、最初は独特のインターフェースに戸惑うかもしれない。しかし、慣れれば使いやすいのでご安心を。また、どうしてもなじめない場合は、PCに操作ソフト「Mytek Control Panal」をインストールすれば、ソフトから設定を変更できる。また、このソフト、ファームウェアの更新には必須だ。前世代のBrooklyn DACはこのアップデートでMQAデコードに対応したため、ファームウェア更新は決して見逃せない情報だ。

フロントパネル。中央のディスプレイの両脇に2個ずつ操作ボタンがある。ヘッドフォン端子は6.3mmフォーンを2系統備える

 本機のサイズを考えれば、デスクトップでPCの傍らに置いてUSB DACとして使うのが便利に思える。だが、豊富な入力端子を備えていること考えると、ピュアオーディオシステムと同居させて使う方がベターだろう。個人的には、ネットワークサーバーのUSB DAC直結機能と組み合わせるのが好例だろうか。

 今回、限られた時間ではあったが、使い勝手のチェックと同軸デジタルおよびUSB入力による音質のチェックを行なった。以前、従来モデルの「Brooklyn DAC」を使っていた筆者にとって、音質的な変化も期待を持って聴いた。

ヘッドフォンはプロも納得のモニター調

 まずはヘッドフォンで試聴する。ソースはネットワークサーバーに保存しているデジタル音源で、CDリッピングからハイレゾまで、何曲か聴いている。本機とネットワークプレーヤーは同軸デジタルケーブルで接続しているヤマハのモニターヘッドフォン最上位機である「HPH-MT8」を接続すると、アナログ出力用に音量を固定していても、自動で可変に変更される。これは便利だ。

 ヘッドフォンのサウンドは、余計な味付けをせず、音源の持ち味を上手に引き出すウェルバランスな印象。努めてフラットなモニターバランスと高い解像感に引き込まれた。プロ用のリファレンス機としても十分な性能を有していると確信を持った。

 また、フロントパネルでボリュームをアナログ調整とデジタル調整に切替えられる。ともに1dBステップで調整でき、デジタルボリュームは32bit精度で処理が行なわれる。両者の差はほんの僅かだが、筆者はより滑らかな質感のアナログボリュームが好みだった。


スピーカー再生は血の通った力強いサウンド

 次にRCA接続によるアナログ出力をチェックしていこう。ボリュームは固定とし、パワーアンプ側で調整した。一聴して、とてもエネルギッシュな音にハッとさせられた。全帯域に活力が漲っているので、特定の帯域が目立つことはない。

 CD音源でも、一つ一つの音像をきめ細かく描いており、定位がハッキリと決まる。楽器音のディテールに今まで気付けなかった微弱音なども混ざっていて、思わず感嘆のため息を漏らした。これらには、「MYTEK フェムトクロック・ジェネレーター」が効いているのだろう。内部ジッター0.82psという高い性能を持つクロックは、精度も航空宇宙用途レベルだという。

 ハイレゾ音源を聴くと、オーケストラは天井の高さ感がリアルに描かれている。ジャズバンドの一発録音作品は、セッションの躍動感やグルーブが格別。管楽器音の瞬間的なアタックももたつきを感じさせない。同じくジャズバンドでライブハウス録音された作品は、もう空気感からして違う。最初の数秒、演奏が始まる前の空間の音、いわゆる暗騒音を捉えた部分だけで「あれ?」と分かるレベルだ。総じて、ひじょうに高精度にD/A変換されていることが伺えた。

試聴はネットワークサーバーの音源を再生。OPPO「BDP-103JP」経由で本機にデジタル入力している

 PCからの再生はどうだろうか。ホール録音のDSD 5.6MHz音源は、DSDらしい滑らかな質感を表現しつつ、音の分離や音場の見通しはよい。筆者はハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデューサーとして音楽制作にも携わっている。そのBeagle Kickで制作した768kHz/32bit整数音源を、384kHz/32bit整数に変換した音源を最後にPC再生で聴いてみた。演奏の強弱や抑揚が気味悪いほどリアルだ。PCM音源を再生しているのにDSD音源かと思うような滑らかなサウンドに驚いた。これは、768kHzでも聴いてみたい。本機のDACチップES9028PROは、スペック的に768kHzをサポートしている。ファームアップでのサポートもしくは、対応機種の登場に期待したい。

 なお、本機はMQAデコードをON/OFF切替えできる数少ないハイレート対応のDACである。本サイトにおいて、後日MQAとフィーチャーした記事をアップ予定のため、ぜひそちらもお読みいただければ幸いだ。

 Brooklyn DAC+は、ハイエンドの性能を小型ボディに収め、実に音楽的なサウンドを実現したUSB DACとして注目の存在といえよう。対応フォーマットは幅広くMQAもデコードできる。サウンドはリファレンスたり得る貫禄を感じる出来映えで、「これさえあれば当分は大丈夫」と思えるポテンシャルを秘めている。オーディオシステムと併用する据え置きDACとして特にオススメしたい。

橋爪氏の自宅兼スタジオ「STURIO 0X」(スタジオゼロエックス)で試聴が行なわれた