9月下旬、ぶらあぼホールディングス/ロイヤリティバンクが企画・監修した渡辺香津美デビュー50周年記念ライヴ「KW50 渡辺香津美 フィンガー・プリンツ渡辺香津美の世界」が、長野県「軽井沢大賀ホール」において開催された。この公演は映像がフルハイビジョン、音声がAACと96kHz/24ビットの2種類で有料生配信され、近々192kHz/24ビットWAVファイルの音声に特化したBD-ROMがパッケージソフトとして販売される。本稿ではぶらあぼホールディングス/ロイヤリティバンクが日本を代表するギタリストの渡辺香津美と取り組んだ、生配信と録音現場をレポートする。

 去る9月29日、長野県「軽井沢大賀ホール」において、ぶらあぼホールディングス/ロイヤリティバンク企画・監修による渡辺香津美デビュー50周年記念ライヴ「KW50 渡辺香津美 フィンガー・プリンツ渡辺香津美の世界」が開催された。この公演はNTTスマートコネクト開発による動画配信システム「SmartSTREAM」(スマートストリーム)を利用し、映像がフルハイビジョン、音声がAACと96kHz/24ビットの2種類で有料生配信された。

 ライヴが開催された「軽井沢大賀ホール」は2005年4月、ソニー大賀典雄氏(元名誉会長)より寄贈された、最高水準の音響を誇る五角形サラウンド型のコンサートホールとして知られる。小誌ではこれまでこの軽井沢大賀ホールで開催されてきた、さまざまなスタイルのライヴ企画をお伝えしてきた。国内外の多くの一流アーティストがこのホールでライヴを開催し、時にはレコーディングを行ないアルバムが制作・発表されている。それはこのホールが、アーティストが考える音楽表現の場として相応しい環境であり、録音制作に耐えうるクォリティを保持していることをも示している。

画像: 渡辺香津美デビュー50周年記念ライヴが開催された長野県「軽井沢大賀ホール」

渡辺香津美デビュー50周年記念ライヴが開催された長野県「軽井沢大賀ホール」

 

NTTスマートコネクトが提案する動画配信システム「SmartSTREAM」。渡辺香津美から指名されたエンジニア鈴木浩二氏のこと

 今回の生配信を企画・監修したぶらあぼホールディングス/ロイヤリティバンクは、5年前からハイレゾ生配信の企画を計画し、軽井沢大賀ホールにおいて数年前から実験的に音楽配信の可能性を模索してきた。同社がNTTスマートコネクトとタッグを組んだのは、NTTスマートコネクトが高品位な映像と音声を生配信するための回線を整え、生配信のスペックに見合う周辺機器を構築し、さまざまな規模の会場で生配信を試み、実績を積んできたことが大きい。先述したNTTスマートコネクト開発による動画配信システム「SmartSTREAM」(スマートストリーム)は、ぶらあぼホールディングス/ロイヤリティバンクが思い描いてきた「ハイビジョン映像+ハイレゾ生配信」構想と親和性が高く、今回の渡辺香津美デビュー50周年記念ライヴで実現することになったという。

画像: NTTスマートコネクトメディアビジネス部シニアマネージャー吉田達也氏(左)と同マネージャー山崎創氏(右) 「これまで様々な環境での実験で得られたノウハウが今回の生配信につながっている。ロイヤリティバンクさんのご理解により、初めて有料でのハイレゾ生配信を実現できたことが一番の成果」と語る

NTTスマートコネクトメディアビジネス部シニアマネージャー吉田達也氏(左)と同マネージャー山崎創氏(右)
「これまで様々な環境での実験で得られたノウハウが今回の生配信につながっている。ロイヤリティバンクさんのご理解により、初めて有料でのハイレゾ生配信を実現できたことが一番の成果」と語る

画像: 有料フルハイビジョン&ハイレゾ(96kHz/24ビット)生配信を実現させたNTTスマートコネクトのスタッフたち。これまで実験を繰り返してきた同社開発の動画配信システム「SmartSTREAM」の成果となる

有料フルハイビジョン&ハイレゾ(96kHz/24ビット)生配信を実現させたNTTスマートコネクトのスタッフたち。これまで実験を繰り返してきた同社開発の動画配信システム「SmartSTREAM」の成果となる

 渡辺香津美デビュー50周年記念ライヴの録音を担当したのは、近年渡辺香津美のライヴ録音やスタジオ作品の収録を手掛けてきた、ソニー・ミュージックスタジオ所属のレコーディング・エンジニア鈴木浩二氏。今回のライヴ収録に白羽の矢が立った鈴木氏は現在、マスタリング・エンジニアとしての仕事を日々こなしながら、いっぽうでレコーディング・エンジニアとして社内レーベルのみならず、社外レーベルの録音制作にも携わっている。鈴木氏は、渡辺香津美のイーストワークス時代に発表された『Guitar Renaissance』(03年)、『Guitar RenaissanceⅡ[夢]』(05年)、『Guitar RenaissanceⅢ[翼] 』(06年)、『Guitar Renaissance Ⅳ [響] 』(07年)、そして吉田美奈子&渡辺香津美名義の『NOWADAYS』(08年)といったアルバムの録音を担当してきた。Guitar Renaissanceシリーズはホールの響きを活かしながら、渡辺のギター・プレイを繊細な音で捉えた優秀録音作として彼のファンのみならず、音に執着するオーディオファイルからも愛されている。

画像: 今回の記念すべきハイレゾ生配信と録音に渡辺香津美からの指名で起用された、ソニー・ミュージックスタジオ所属のレコーディング・エンジニア鈴木浩二氏。写真はマイク・セッティングなどが整い、音をモニターしている様子

今回の記念すべきハイレゾ生配信と録音に渡辺香津美からの指名で起用された、ソニー・ミュージックスタジオ所属のレコーディング・エンジニア鈴木浩二氏。写真はマイク・セッティングなどが整い、音をモニターしている様子

 鈴木氏が録音を担当した渡辺香津美作品を近作から辿ると、『Guitar Is Beautiful KW45』(16年)収録の「Bolero」(押尾コータローとの共演)が2016年度の「日本プロ音楽録音賞・最優秀賞」(2chハイレゾリューション部門)、ジェフ・バーリン(b)、ヴァージル・ドナティ(ds)と共演した『Spinning Globe』(13年)収録のタイトル曲が2014年度の「日本プロ音楽録音賞・優秀賞」(2chパッケージメディア部門)、『GRACIM』(13年)収録の「Puzzle Ring」が2013年度の日本プロ音楽録音賞・最優秀賞」(2chノンパッケージ部門)、『TRICOROLL』(12年)収録の「The Sidewinder」が2012年度の日本プロ音楽録音賞・優秀賞」(2chパッケージメディア部門)、『Jazz Impression』(09年)収録の「Meteor」が2009年度の日本プロ音楽録音賞・最優秀賞」(2chパッケージメディア部門)、そして谷川公子との共作『Castle In the Air』(07年)収録の「Ancient Flower In The Night~いにしえの夜咲く花」が2008年度の日本プロ音楽録音賞・最優秀賞」(CDパッケージメディア部門)をそれぞれ受賞している。

 こうした輝かしい功績を経て、50周年記念公演の録音エンジニア/ミキサーは渡辺香津美本人からの指名により、鈴木エンジニアが起用された。

 鈴木氏は軽井沢大賀ホールにおいて、これまでクラシックやポピュラーの録音に携わってきた実績があり、ホールの響きや特徴をあらかじめ把握していた。渡辺香津美とも関係が深いフラメンコ・ギタリスト沖仁のアルバム収録(『CONCIERTO~魂祭~』)でも、このホールの録音経験がある。鈴木氏を中心とした録音スタッフは公演日の午前中から、複数本のマイクを綿密にセッティングし、渡辺の奏でるギターの音を筆頭にホールの響きをまろやかに捉えるべく、調整を追い込んでいった。

画像: ハイレゾ生配信とハイレゾ録音に使用されたスチューダー製のコンソール

ハイレゾ生配信とハイレゾ録音に使用されたスチューダー製のコンソール

画像: 使用されたマイク・プリアンプ「ミレニアHV-3D」とProTools画面

使用されたマイク・プリアンプ「ミレニアHV-3D」とProTools画面

 

音声に特化したパッケージソフトも発売。ぶらあぼホールディングス/ロイヤリティバンクの考える音楽文化・継承の形

 マイク~マイク・プリアンプ~ソニー製カスタムコンソールなどを経てミックスされた音声は、2チャンネル・ステレオにまとめられ、生配信音声として96kHz/24ビットとAACとして信号が送られ、先述した後日販売されるBD-ROM用にProToolsへ192kHz/24ビット精度で記録された。

 このBD-ROMに収録されるハイレゾ音源は、鈴木エンジニアが後日、東京・赤坂のソニー・ミュージックスタジオのマスタリング・ルームでMCなどを編集し、ていねいにマスタリングを施した192kHz/24ビットWAVファイルとなる。

 当公演で渡辺香津美が複数本のアコースティック・ギターやエレクトリック・ギターを持ち替え奏でた曲は、クラシックからスタンダード、ブルース、そしてジャズなど多岐に渡った。コンサートはデビュー50周年記念に相応しく、音楽博物館を眺めているような構成で進行された。渡辺のソロ・プレイに加え、谷川公子が登場しMIDIオルゴール「CANADEON(カナデオン)」と共演するなどヴァラエティに富んだ構成は、聞き応え充分だった。

 曲の持ち味を最大限活かすため、渡辺がギターを持ち替えプレイした音がホールの響きと溶け合う様子が、スムーズに音として享受できた。とりわけ「パッシー・ホーム」「ジャミング・イベリコ」で披露された12弦ギターの音色が際立って耳へと届けられた。ギターは弦楽器でありながら、時に打楽器として機能し曲に独特のリズムや間を与えているのが、音として伝わってくる。特に終盤で披露された「ジャミンゴ・イベリコ」は圧巻で、ソロ・プレイでありながら緩急のついた演奏はまるで複数のプレイヤーが奏でているかのよう。

 曲が始まる前と終わった後は当然ながら、リズムとリズムの一瞬の間、そして演奏のふとした隙間で無音となる瞬間、オーディエンスはその静寂感のなかに軽井沢大賀ホールの空気感を感じることになった。

画像: 音声に特化したパッケージソフトも発売。ぶらあぼホールディングス/ロイヤリティバンクの考える音楽文化・継承の形
画像: 本公演のために用意された渡辺香津美の愛用ギターは、アコースティック・ギターからエレクトリック・ギターまで勢揃い

本公演のために用意された渡辺香津美の愛用ギターは、アコースティック・ギターからエレクトリック・ギターまで勢揃い

 なお、ぶらあぼホールディングス/ロイヤリティバンクは本公演の翌日、渡辺香津美の演奏を改めて別途レコーディングした音源をマスタリングの後、レコーダーSONOMAを使用した2.8MHz DSDに仕上げた特製の音声ファイルと渡辺香津美のここでしか手に入らない貴重アイテムをカップリングした、NFT作品の出品を計画している。NFT(Non-Fungible Token)は当初アート分野で注目が集まっていたが、近頃は音楽分野でも取り組み始めるアーティストが急増し、次世代型マーケットとして広がりを見せている。ぶらあぼホールディングス/ロイヤリティバンクは近々、「DaVinci」というオークションサイトを起ち上げ、NFT作品を限定販売していくという。

 ぶらあぼホールディングス/ロイヤリティバンクが企画・監修した今回のコンサートは、NTTスマートコネクト協力の下、高品位な映像と音声で生配信が実現した。その音楽資産を音声に特化した形でパッケージメディアとしてもリリースするのは見逃せない。それは少しでもハイ・クォリティな音で音楽をユーザーへ届けたいという、ぶらあぼホールディングス/ロイヤリティバンクの志の高さの現れでもある。

写真:次田寿生、PROSOUND編集部

画像: Photo by Yosuke Komatsu (ODD JOB LTD.)
Photo by Yosuke Komatsu (ODD JOB LTD.)

KW50 フィンガー・プリンツ
デビュー50周年記念ライヴ・アルバム
渡辺香津美の世界

(ぶらあぼホールディングスBRDC-2001)
192kHz/24ビットWAV音声収録
ライナーノーツ・PDF収録

※ステレオサウンド・ストアでも販売の予定

「収録曲」
1 Introduction(イントロダクション)渡辺香津美
2 Londonderry Air(ロンドンデリー・エア)スコッ トランド民謡
3 Bundle Blues(バンドル・ブルース)渡辺香津美
4 Soleil(ソレイユ)谷川公子&渡辺香津美
5 Nekovitan X(ネコビタン・エックス)渡辺香津美
6 Passy Home(パッシー・ホーム)渡辺香津美
7 Prelude(無伴奏チェロ組曲第1番よりプレリュード)J.S.Bach
8 TOCHIKA(トチカ)渡辺香津美
9 Desperado(デスペラード)渡辺香津美
10 Mission St.Xavier(ミッション・サン・ザビエル)谷川公子
11 Billie’s Bounce(ビリーズ・バウンス) Charlie Parker
12 Nuage(ニュアージュ)Django Reinhardt
13 Little Money Swing(リトル・マネー・スイング)谷川公子&渡辺香津美
14 Jamming Iberico(ジャミング・イベリコ)渡辺香津美
アンコール SAYONARA(サヨナラ) 渡辺香津美

 

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